第77話 継がれる意志
装備の完成を待つ数日。
俺は、ずっと気になっていたことを確かめるために、族長たちのもとを訪ねた。
レーイマニの族長室。
そこには、シャンデとゴブリンの族長が揃っていた。
(この2人、最近よく一緒に居るな)
でも、ちょうどいい。
「ノクスとは……死の神の名ですね」
俺が単刀直入に切り出す。
2人は顔を見合わせ、静かに頷いた。
「その通りだ。人間に名乗ることはなかったようだが、我らゴブリンには創造主の名として伝わっている」
ゴブリンの族長が答える。
「ノクスは夜、そして死。だが、我らオークにとっては始まりの神でもある」
(やっぱり……)
ゴブリンの歌にあった。
『ノクスは、朝の名であり、土地の名であり、世界の名である』
それは、彼らにとっての創造主を指していたんだ。
(つまり『ノクスの核』とは、死の神の魔石のこと……!)
俺の心臓が早鐘を打つ。
手記に残された言葉が、現実味を帯びてくる。
死の神の魔石。
それが、この世界のどこかにある。
日本へ戻るための、キーアイテムとして。
「探しているのか?」
シャンデが俺の表情を読み取ったように問う。
「……はい。俺の旅の目的の一つです」
「ならば、王都へ行け。死の神が討たれた地だ。何かが残っているかもしれん」
王都。
チャールズも勧めてくれた場所。
全ての道は、王都へと繋がっているようだ。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
広場の隅で、ラクンが1人で空を見上げていた。
俺とユラは顔を見合わせ、彼女に近づく。
「ラクン」
「ケル、ユラ……」
ラクンは振り返り、何かを言いたげに口を開いては閉じる。
「どうしたの? 元気ないじゃない」
ユラが優しく声をかける。
ラクンは意を決したように、小さな手を握りしめた。
「我を……。我も、連れて、行って、欲しい」
その言葉に、俺たちは驚きはなかった。
なんとなく、予感はしていたから。
「ラクンは、いいの? 村を離れて」
「ここは、好きだ。でも……外を、見たい」
ラクンは顔を上げる。
その瞳は、戦場の時と同じように真っ直ぐだった。
そこに、ゴブリンの族長が現れた。
話を聞いていたみたいだ。
「1人で洞窟に籠って、歌の練習をするだけのラクンは、もう居ないのだな。あの臆病だった子が、ケルたちを連れて来た時は、本当に驚いた」
穏やかな笑みを浮かべて、ラクンの頭に手を置いた。
「ケル、そしてユラよ。ラクンをお前たちの旅に連れて行ってはもらえないか?」
「族長……」
「この子は変わった。お前たちと出会って、外の世界に触れた。その歌声は、もはやこの村だけに留めておくには惜しい」
シャンデもやってきて、腕組みをして頷く。
「我らがこうして生きているように、まだ生き残りのオークやゴブリンが居るかもしれん。世界を見て回るのも悪くないだろう」
シャンデはラクンを見下ろす。
「居場所のない同胞がいたら、この地を知らせろ。我らが面倒を見てやる」
「我が、探そう」
ラクンが力強く答える。
「その地を捨てられなくとも、こちらから金銭的な援助は可能だ。ドワーフとの交易で、これからは潤うはずだからな」
ゴブリンの族長が目尻を下げた。
「……頼んだぞ、ラクン」
「わかった」
俺はユラを見た。
ユラは満面の笑みで頷いた。
「歓迎するわ、ラクン!」
「よろしくな、ラクン」
「……うん」
俺たちは3人で、手を合わせた。
小さくて温かい手が、そこにあった。
◇ ◇ ◇
出発の朝。
シャンデが布に包まれた何かを持ってきた。
「完成したぞ。アグラマとベルカジの魂だ」
俺は、かしこまってそれを受け取る。
(……軽い?)
包みを開くと、そこにあったのは武器ではなかった。
「……服!?」
白く、滑らかな素材で作られたベストのようなもの。
骨と魔石を加工して作られた、独特の光沢を放つ防具だった。
それが3着分。
〈ボーンアクトン/防御力:+30/魔法耐性+5/STR+5/耐久:90/90〉
(骨製……だよな? すごい性能だ)
「驚きました。武器に魂を宿すと言っていたので……剣か斧かと」
「ふん。奴らは最期まで、お前たちを守ろうとしていたのだろう?」
シャンデは少し照れくさそうに顔を背けた。
「ならば、防具の方が奴らの望みだと思ったのだ。これなら鎧の下にも着れる。それに、骨の剣なら既に持っているようだからな」
(シャンデさん……)
オークらしい、不器用だけど温かい心遣い。
インナーとして着込める防具は、旅において何よりも貴重だ。
(それに……軽い?)
袖を通した瞬間。
じんわりとした温かさが胸を包んだ。
まるで、あの2人の分厚い背中のように。
「ありがとう、シャンデさん。大切にします」
「ああ。行ってこい!」
ユラとラクンも、それぞれのサイズのアクトンを着る。
「あったかい……」
「守られてる、気がする」
俺たちは新しい防具を身に着けて、トラベルの手綱を引く。
見送りに来たオークとゴブリンたちが手を振る。
かつては敵対し、今は手を取り合う二つの種族。
その新しい国の夜明けを背に、俺たちは王都への道を進み始めた。
アグラマとベルカジの魂と共に。
そして、新しい仲間と共に。




