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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第3章 ゴブリン編

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第76話 弔いの炎

 戦後処理が進む中、アンジェラとリードルが俺のもとへやってきた。


「あいつらは先に帰ったぜ。忙しい奴らだからな」


 アンジェラが顎で示した先、パーフェクトサークルの馬車がすでに小さくなっていた。


「リードルさんは残るんだ?」

「私はもう少し仕事が残ってますから」


 その手には、一枚のメモが握られている。


「ジョシュさんからの伝言です」

「ジョシュさんが?」

「『パーフェクトサークルに入るなら歓迎する。ユラと共に来るがいい』」

「そんなことを?」


 あの時は、あんなに上から目線で品定めをしてきたのに。

 今回の共闘を経て、少しは認めてくれたということだろうか。


(レベックでは横柄に感じたけど、あれはあれで何かを試してたのかな?)


「あと、『どうせ、来ないだろうがな』とも言ってました」

「……ははは」


 俺は乾いた笑いを漏らすしかなかった。

 全部お見通しってわけだ。


「それから、メイナードさんからも伝言もあります」

「メイナードが?」


 アンジェラが少し嫌そうな顔をする。


「『ラストヒットは僕なので、ドロップは頂戴する』……とのことです」

「くそっ、あいつ最後までムカつく野郎だぜ!」


 アンジェラが自分の太ももを叩く。


(なんなんだ、あの人は。もう言葉が出ない)


 でも、怒りは湧いてこなかった。

 むしろ、その徹底した態度に清々しさすら覚える。


「まあ実際、お前の魔法の後も、女王はしぶとく生き残っていた。それにとどめを刺したのがメイナードだ」


 アンジェラが悔しそうに、けれど事実として認めるように言った。


「そうだったんですね。まあ実際、あの人が居なかったら成立してなかったですよね」

「まあな。あの毒がなけりゃ、物量で押しつぶされてた」


(それと、アンジェラの指揮があったから……)


 でも、今それを言ってもアンジェラは喜ばないだろうな。

 彼は守れなかった仲間のことを、まだ背負っている。


 アンジェラは空を見上げ、ふっと息を吐いた。


「今夜、火葬の儀をやるらしい」

「火葬の儀?」

「追悼式みたいなもんだろうな。人間は土葬が一般的だが、ここじゃ違うみたいだ」

「……そうなんですね」


 ◇ ◇ ◇


 夜。

 広場の中央に組まれた薪の上に、アグラマとベルカジ、そして亡くなったゴブリンたちの遺体が安置されていた。

 彼らの顔は穏やかで、ただ眠っているように見える。


 ゴブリン族の族長が松明を掲げる。

 厳かな声で何かを唱え、薪に火を放った。


 パチパチと音を立てて、炎が天へと昇っていく。

 夜空に舞う火の粉が、星々と混じり合って消えていく。


「……綺麗だ」


 俺は思わず呟いた。

 悲壮感よりも、どこか幻想的で、魂が解き放たれていくような感覚。


(この世界の人間は土葬なのか)


 亡くなった人間の冒険者は、ギルドが引き取って土葬されると聞いた。

 でも、俺にとっては、この光景の方が馴染み深かった。


「俺の故郷でも、火葬で送っていたから……」


 隣にいたユラに小声で話す。


「そうなの? タケルの故郷って、不思議なところね」

「ああ。魂は煙に乗って空へ帰る、って考えられてたんだ」


 炎を見つめながら、シャンデが静かに口を開いた。


「肉体は滅び、大地に還る。だが、その強き魂とマナは骨に残る」


 火葬が終わったあと。

 灰の中には、白く焼き残った骨と、キラキラと輝く石が残されていた。


「あれが……彼らの魔石」


 モンスターから出る魔石とは違う。

 もっと澄んでいて、彼らの生きた証そのもののように見えた。


「我らオークは、これを元に武器や防具を鍛える。彼らの力を受け継ぐために」

「ゴブリンは、骨細工にする。身に着けて、共に、在るために」


 ラクンが悲しみを堪えながら教えてくれた。


 シャンデが、アグラマとベルカジの魔石を拾い上げる。

 そして、俺の方を向いた。


「提案がある」

「はい」

「こいつらの骨と魔石で、装備を鍛えてやろう」

「えっ……俺に、ですか?」


 俺は驚いてシャンデの目を見る。


(それは、一族の血縁や親友にしか許されないことなんじゃ……)


「貴様は彼らと共に戦い、彼らの最期を見届けた。そして、我らの国を救った」


 シャンデは魔石をぎゅっと握りしめる。


「武器に魂を宿す。それがオークの信仰だ。彼らも、英雄に使われることを望むだろう」

「……分かりました。お願いします」


 俺は深く頭を下げた。

 その重みを、しっかりと受け止めるために。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。

 レベックへの帰還準備が整ったアンジェラたちが、広場に集まっていた。


「じゃあな、タケル。お前のおかげで、いい経験ができたぜ」


 アンジェラが俺の手を力強く握る。

 その手は分厚く、温かかった。


「こちらこそ。アンジェラさんのお陰で助かりました」

「へっ、よせよ」


 アンジェラは照れ隠しに鼻をこする。

 アヤドが荷台の確認を終えてやってきた。


「タケル、君には苦労をかけたな。君の呼びかけで一丸となれた。感謝する」

「アヤドさんも、お疲れ様でした。胃薬、探しておきます」

「ああ、頼む。切実に」


 アヤドが真顔で言うので、俺たちは思わず笑ってしまった。


「タケルくーん!」


 リードルが駆け寄ってくる。

 その目は、獲物を狙う肉食獣のように輝いていた。


「本当はあの魔法! もっと詳しく調べたいんですけどね! データの採取とか、マナの波形とか! アンジェラさんが邪魔しなければね!」

「あ、あはは……。また今度、機会があれば」


 俺は冷や汗をかきながら後ずさる。

 モーリンからの"他言無用"というメッセージが頭をよぎる。


(アンジェラが口止めしてくれたんだな)


 俺の知らないところで、アンジェラにはかなり助けられているのかもしれない。


 デイヴも馬車の窓から顔を出した。


「元気でね、タケル。ユラさんも」

「デイヴもな。アヤドさんを助けてあげてくれ」

「もちろんさ!」


 ユラも手を振る。

 そして、馬車は動き出す。

 遠ざかっていく彼らの背中を見送りながら、俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。


 戦いの中で生まれた絆。

 それは、何物にも代えがたい宝物だ。


 俺たちは装備の完成を待つため、もう少しだけこの地に残る。

 旅立ちの時は、もうすぐそこまで来ていた。

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