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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第3章 ゴブリン編

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第71話 女王の威光

(あれが……虹の花!?)


 戦場を見下ろす俺は、息を呑んだ。


 荒涼(こうりょう)とした岩場が、瞬く間に鮮やかな青一色に染め上げられている。


 美しい。

 けれど、そこは生物が踏み入ってはならない死の世界。


 作戦会議でアンジェラは、メイナードに使えるか確認していた。

 ユニーク武器のスキル。

 発動条件は分からないけど、その効果は劇薬だ。


「魔法職はマナを溜めとけ! 弓隊、投石隊は、霧の中から出てきた奴を狙え!」


 アンジェラが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 その額には玉のような汗が滲んでいる。


 一方、虹の花を発動させたメイナードは、従者が用意した椅子に優雅に腰かける。

 足を組んで紅茶を啜っていた。

 戦場のど真ん中で、彼だけが別世界の住人のようだった。


(まったく、あの人は……)


 でも実際、もう十分な役目を果たしている。

 武器一つで地形効果を書き換えた。

 戦況を支配したんだ。

 まさに戦争のための道具。

 戦術兵器という呼び名にも納得がいく。


(ボーンイーターたちは本能で動いているのか?)


 躊躇せずに青い毒の霧の中へ突っ込んでいく。

 先頭集団がバタバタと倒れていくのが見えた。


 このまま全滅してくれるなら楽なんだけど。


(……何か、違和感が)


 何だ?

 本隊が突入して……。

 霧の中から出てくる数が増えた?

 いや、倒れるまでの距離が伸びている?


 毒霧を突き破り、新たな群れが姿を現した。

 そのシルエットは、今まで見たものとは違う。


(あの形……!)


 リードルさんの言っていた、ボーンイーターの主力か。


〈ボーンイーター収穫兵/闇属性/レベル8〉


 大きさは掘削兵と変わらない。

 しかし、植物や骨を断ち切るための大顎(おおあご)が異常に発達している。


 収穫兵はギチギチと顎を鳴らす。

 毒に蝕まれた仲間を踏み越えて進んでくる。


「本隊! 第二防衛ラインを突破しました!」


 リードルの悲鳴のような報告が響く。


「……どうなってやがる。魔法部隊! 交代で固まってるところにブチ込め!」


 アンジェラが弓を体の後ろに回す。

 斧に持ち替えて叫んだ。


(もう近接戦を想定している?)


「俺から行きます!」


 俺は前に出て杖を振るう。


〈インパクト・フレア〉


 霧から出てきた虫の集団に、火球を叩きつける。

 炸裂音と共に爆風が巻き起こる。

 数匹の虫たちがまとめて吹き飛んだ。


 しかし、手応えが硬い。


(一番弱いはずの偵察兵まで突破してきてる!?)


 俺はすぐさま〈鑑定〉を発動して、視界を走らせる。


〈ボーンイーター偵察兵/闇属性/レベル7〉

〈ボーンイーター掘削兵/闇属性/レベル9〉


(これ……!)


 レベルが上がってる?

 それも、全体的に?


「アンジェラさん! 情報班に〈鑑定〉させて下さい!」

「あ? 何で今更――リードル! 虫どものレベルはどうなってる!?」


 俺の剣幕で察したアンジェラが即座に確認を取る。


(どうしてレベルが上がってる?)


 思えば、初めてレーイマニへ向かう途中。

 オークたちを助けた時の虫のレベル4や5だった。


 情報収集のために捕えた時は、レベル5か6。

 そして今、レベル7を超えてきている。


「10レベルの収穫兵が確認さ――いいえ! 11レベルが確認されました!」


 リードルの報告に戦慄が走る。


(11レベル?)


 俺たちに近付くほどレベルが上がってるのか?


(いや、違う! 近付いているのは……女王だ!)


 環境や食料によって生態が変わる、とリードルは言っていた。

 女王の近くにいるほど強くなる。


(それが、このボーンイーターの特性!)


 遠くから、大きな岩の塊が接近してくる。

 巨大な岩に見えたそれは、女王を囲っている虫たちの塊だった。


「アンジェラさん! こいつらは、女王が近いとレベルが上がる可能性があります!」

「最悪なことに、俺も同じことを思ったぜ。くそったれが! こっちはどんどん消耗してるってのに、奴らはどんどん強くなってきやがる!」


 アンジェラが悔しげに地面を蹴る。


 毒の霧を抜けてくる個体が、どんどん強大になっていく。

 このままじゃ、押し切られる。


(もう、こうなったら女王を先にやるしか――)


「女王を狙う! メイナード! お前のパーティで女王を潰せ!」


 アンジェラが振り返り、優雅に座る男に怒号を飛ばす。


「人使いが荒いね。もう僕の仕事は終わったはずなのに」


 メイナードはカップを置く。

 やれやれといった感じで立ち上がる。


 しかし、その目は笑っていなかった。

 彼もまた、押し寄せる"圧"を感じ取っているようだ。


「第三防衛ラインまで迫っています!」


 無数の黒い影が、斜面を埋め尽くして迫る。

 羽音が轟音となって鼓膜を叩く。


(やばい! この数が一気に!?)


 虫たちが一斉に牙をむく。

 前衛に襲いかかろうとした。


 その瞬間。


 ――アーーーー……


 風に乗って、澄んだ音が戦場に流れてきた。


 無数の羽音や怒声。

 爆音の響く戦場。

 

 その中で、確かにゴブリンたちの歌声が響いてくる。

 不協和音スレスレの旋律。


 ギチッ!?

 先頭のボーンイーターが動きを止めた。


 続く群れも、見えない壁にぶつかったかのように足を止める。

 統率が乱れる。

 同士討ちを始める個体までいる。


「効いてる……!」


 俺は拳を握る。


(ラクンたちが、歌ってくれている)


 その隙を、歴戦の戦士が見逃すはずがない。


「オークども! 武器を持て!」


 オーク族の女王、シャンデの怒声が戦場を揺るがした。

 岩陰で投石を続けていたオークたちが、一斉に武器を手に取る。

 そして咆哮をあげた。


「我らの地を守れ! 突撃ぃぃぃ!!」


 (せき)を切ったように、オークの群れが斜面を駆け下りた。

 砂埃が狼煙のように舞い上がった。

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