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俺は、ショタコンじゃねぇっ!!!!!!  作者: 陽日
1章-2節:ブリア王国編-平穏な町ツヴァイ
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34話:モンスター部屋、そして【法】

目前に迫るは、蜘蛛が吐いた真白い糸。とっさに本で叩き落とすが、その隙を狩るように蝙蝠が急接近した。スピード特化のステータスをしてるわけでも、中の人の反射神経がチートしてるわけでもないので、まんまと視界を奪われる。

足の先からはチクりと小さな痛み。回復を考える程ではないが、HPバーが視界の端で僅かに減っている。大きく顔を振るい、足元は蹴ってなんとか脱出。黒い粉塵が舞い、魔物はキキキと鳴きながら離れていった。


だがキリはない。次から次へとまた新しい蝙蝠や、小蛇が迫り……うわ、なんかデカい虫までいるっ……!!上がりかけたカッコ悪すぎる悲鳴は噛みしめた口の中で押し殺し、周囲へ目を走らせる。


すると飛び込んできたのは、子供たちへ迫る無数の魔物の姿だった。


ウカは──問題なさそうだ。真っ黒なローブを翻し宙に踊り出た彼は、フードの陰から覗く口元に薄い笑みを乗せながら戦場の中心へと切り込んでいく。早いっ……姿が目で追いきれない。次々と斬り裂かれていく魔物が、粒子となって消えていく。全身真っ黒な少年の装束の中で唯一の、赤色の柄だけが宙に軌跡を残していった。


レメも、あんなに幼いのにちゃんとしている。【同時召喚】をした二匹のツキサシバニーに護衛をさせ、自分はちょっと高い岩の上に登っていつもの本を開いている。おい、今やることか!


だが召喚獣たちは優秀なようで、子供がしっかり周りを見ていなくとも、しっかり魔物を倒していく。今も小蛇が突進され、剥がれた鱗と共に宙を舞った。

俺の【召喚式】じゃもちろん自動攻撃なんてさせられないから、彼の素質の高さがうかがえる。洞窟の天井から襲い掛かるナイトバットにも、ウサギらしい跳躍力で追いつき角を突き刺した。


「わぁ~……すごい、すごい!そんなにとべるんだね!!」と歓声をあげ、筆でガシガシ図鑑に書き込んでいく姿は、何かもういつも通りの姿である。

モンスター部屋のようなトラップにかかっている最中であることを、一切感じさせない。



だが残りの二人は?俺と同様、二人はそれほど攻撃手段が乏しいはずだ。

焦って姿を探す。右、いない。左、いない。前方は、魔物だけ。背後は、ぶつかったばかりの岩壁。え、あの二人は?


「──ソーリャ、ヨーリア!!」

声を張り上げる。どうして姿が見えないんだ。まさか、別のトラップか何かが発動して、どこか辺境の場所へ飛ばされてしまったのか。

俺が脱出のためのスキルは習得したからと、たいしてまだ強くない魔物たち相手だと慢心して、洞窟の奥へ進むことを押し通したから。心臓が早鐘を打ち始め、冷や汗が背筋を垂れる。

きらめく討伐された魔物たちの粒子の中に、まさか二人も……






と、そこで。

「……は~い、呼んだ?こっちだよ、カルくん!」

地面に近いほうから、のんきな声がした。


慌てて声のした方を確認すると、なにやら。先ほどまでなかったはずの大穴が、洞室の端の方で開いている。駆け寄ると、穴の半径はニmくらい、底までは一mちょっとくらいだろうか。綺麗に地面をくりぬいており、やけに人工的。しかもいきなり現れたにしてはかなり大きい。


中ではすり鉢状になっている壁面をずり落ちてくる虫を、ヨーリアは生気のない人形のような真顔で小さな金づちを振りかぶり、ぼこぼこと穴の底まで叩き落としていた。

返り血がビシャリと幼子の着る上等なシャツに赤黒いシミを作る。ぽたり──、と揺れる金髪からも赤い血が零れ落ちて……なんだなんだ、ここだけジャンルはRPGじゃなくてホラーゲームか?中ボスとかで出てきたら、絶対に強い奴だ。今度は別の意味で飛び跳ねた心臓を、努めて深呼吸をし諫める。


魔物たちが引きずり落とされた先。そこでには鋭い棘が何本も地面から生えており、蟻地獄のように落ちてきた魔物にトドメをさしているようだ。うーん、怖い!!


地面を這わない蝙蝠には、大杖を振りかぶったソーリャが向かう。

覗き込む俺に向けて片手を大きくあげ、にこやかに手を振った後。朗々と唄うかのように「──【風式】」と囁けば、洞窟内を突風が襲う。巻き上がる砂埃に目を瞑ってしまった次の瞬間には、ナイトバットがきれいに棘の上へと叩き落とされていた。粒子が上がる。

え、攻撃魔法も使えたのか。目を見開いていると、少年は碧色の大きな目を細めカラカラ笑う。


「ボクは千年生きているんだからね。ちょっとだけなら使えるよ」

ぷくっと頬を膨らませた後、得意ってわけじゃないんだけどねと付け加え。小さく舌を出した子供は再び、【風式】とスキルを唱え、力を行使していった。

俺の耳元まで差し迫っていたナイトバットが風にあおられ、宙へと舞い戻る。慌てて俺も本を振りかぶり応戦。どうしてこんな穴が、なんて問う暇はなさそうだ。


皆が無事だったことに安堵のため息をつきつつ、前方の群れに向き直る。いつの間にか初めから半分まで数が減っているが、それでもまだまだ残りは多い。気合を入れ直す必要がありそうだ。


「──【幻式】」


全ての魔物に効くわけではない。むしろ洞窟暮らしの生き物は視覚が退化していることも多いのは、ここ数日の遺跡での戦いでしっかり理解している。

だがそれでも、俺が一番この世界で付き合いが長く、またきっと得意なスキルだ。


七色に煌めく光の玉の合間で、本をしっかり構える。真っ白な表紙のあのいつもの本ではないけれど。

桃色の魔石がスキルに呼応して輝く。アイテムボックスから干し肉も取り出して、視線を魔物の軍勢へと向ける。


やれることをやろう。

皆が、そうしているように。






『レベルが上昇しました』

『レベルが上昇しました』

『【大食漢】のレベルが上昇しました』

『【高速発動】を獲得しました』


戦いが終わった後、ドロップ品のアナウンスがずうっと流れ続けていき、戦った魔物の数を思い知らせてくる。


うん、【幻式】じゃなくて【大食漢】が伸びるのかよ!!魔法使いとは!?

水分を持って行かれた口の中はカラカラで、こんなところまで再現しなくていいんだって!え、実際にしないモードもあるって?……えーと、設定はまた今度で。


【高速発動】はスキルを唱えてから、実際に発動するまでのラグのようなものが少し短くなるらしい。スキルに長い発動演出があるものなら、そこも多少短くできるようになるのだとか。周回において正義なスキルじゃないか!大切に大切にレベル上げをしていこう。


さて、周りの様子はというと大量の殺戮が行われた割には、すっきりキレイなもんだった。まぁそりゃそうだ。死んだらサラサラ輝く粒子になって、血も残らないシステムだもの。とはいえ、これは残っている方が怖い。またゲームのジャンルが変わってしまうところだった。


落ちていた数々のドロップ品は、アイテムボックスにしまわれているようだ。流石に、一つ一つは拾ってはいられなさそうだったので助かる。何かレアものもあればいいな……と眺めていると歓声が。


なんと、ナイトバットの召喚石が出たのだそう。【審美眼】で確認していたソーリャから小さな石を手渡されて、天才召喚士は喜色満面だ。大きな鳶色の瞳を輝かせ、近くにいた刀を収めたばかりのウカのもとへと駆け寄り見て見て!と腕を伸ばしている。


見せつけられた彼の方は、誰かにその距離に近づかれるなんてこと。特に無知な相手とはいえ翼のことを知られているヒトに悪意以外を寄せられることなんて、今までなかったからか腰がかなり引けている。分かるぞ、あの子の純粋さは最初は驚くよな。


泳いでいる漆黒の瞳と目が合ったので、軽く頷く。すると少年は恐る恐る手を伸ばし、「……それは、良かったね」と少しゴワゴワとした茶色の髪を撫でた。それに幼子が鈴の音を転がすように笑い返しているので、あそこはもう大丈夫だろう。


さて。地面に大きく開いていた筈の穴は開いた時と同じく、いつの間にか修復されている。これが神の加護とやらによるものなのだろうか。金槌を片手に、汚い地面の上に足を放り投げて座り込んでしまっているヨーリアのもとへと近づいた。


「怪我は?」

子どもは小さく首を振るが、くぅと小さな音が腹の方から鳴った。陶器の人形のような少年の頬が、珍しく薄紅色に染まる。あれだけ動いていれば、そりゃ腹も空くか。だが残念ながら、ここは食べる場所としては適切ではないだろう。また何かが起こるかも分からない。


アイテムボックスの中から、飴を取り出し渡す。受け取った少年が口の中へと含み、カラコロリと転がすのを見届けると、俺は彼に手を差し出した。


「立てそうか?」

「うむ。大義であ………いや、かんしゃ、しよう」

小さく頷き、子は地に己の手をついて立ち上がった。伸ばしたままの手がちょっと気まずい。そっとメガネの上げたりして誤魔化しているのをよそに、子供が向かった先は、洞室の出口ではなく問題の場所。

俺とウカだけがあの魔王と思われる少年のBGMを聞いてしまった、岩壁の傍であった。


つられて、俺たちもその場へと向かう。

改めてじっくりと観察をしてみても、そこにあるのは何の変哲もない壁だ。だけれど、やはりまだ聞こえる。子供たちの調子はずれな、不協和音が。片耳を塞いでみても、何も変わらず響くのだからたまらない。

隣で、ウカとソーリャが壁を手や杖で叩きだす。


ゴンゴン、ゴンゴン、ゴンゴン、コンコン


二人の手が同時に止まる。明らかに音の響きがおかしかった。そこはやはり、何か軽い音も聞こえてきた岩壁であった。

「奥に空間があるね」

「うん、そうだね。だけど、繋がりそうな道は見当たらないな」


二人が眉を下げ、顔をしかめる。わかりやすいヒントでもなければ、この奥へ続く脇道なんて探すのはとても難しいだろう。しかも一本道のようにしか思えなかった道中を鑑みるに、その道は巧妙に隠されているだろうと来た。見つけ出すなんて、全く現実的じゃない。


「……悔しいな。この奥に、魔物がなんでか狂暴化していたことの手掛かりがありそうなのに」

コツンと、子供がすっかり乾いたケープを揺らしながら小石を蹴る。コロコロ転がったそれはもちろん、壁にぶつかって止まった。だから幻でもないのだろうな。


前にかの真っ白な少年に誘い出されたときは幻が俺を誘いだしていたが、同じ幻でも光をぶつければ透けて見えるレベルだった。幼子の手の中でカンテラの本物の炎が揺れていても、この岩は正体を晒さない。


せっかく今回こそは義務を果たすのだと、必死に足元の悪い道を進んできたヨーリアは力なく顔を伏せた。「……すまぬ」と小さく謝罪が零れるので、気にするなと背をさする。

魔石だけじゃなくて、召喚石もドロップしたのだ。魔物たちに襲われたのも、悪いことばかりじゃない。



「ねぇ、カルお兄さん。──少しいい?」

そこに、くいくいとローブが引かれる。正体は召喚石を大切そうに抱えたレメだ。何だと首を傾げると、少年は小さな指で壁の方を指さした。


「あの、このかべに【召喚式】を使ってほしいんだ。えっと、見まちがいだったのかもしれないけど、さっきちょっとへんなのが見えて……」

ずっと周りの魔物たちを観察していたし、何かついでに気が付いたのかもしれない。戦闘中に食べまくっていたせいでMPはまだあるし、問題はないか。


何を出そうか。少し迷って、先ほどと同じ輝く光弾を壁に向かって弾けさせる。キラキラと輝く、岩壁の周辺。

だが──、


「……何か、奥に」


よく目を凝らして見ると幻の光に照らされ、うっすらと壁が透けている。その奥に広がっているのは、先ほど生まれていた穴なんて目じゃないほどに人工的な空間だった。


些細までは、壁越しではわからない。だが少なくとも限りない贅を尽くしたかのように思われる、金色に包まれた豪勢な部屋がそこにはあった。天井から床までが、全て黄金色で目が眩しい。


そんな部屋の中央には、そういった彫刻なのだろうか。病的に細く真っ白な腕が、膝から上だけ存在している。その前には、何か小さなものが落ちているよう。

だがここからでは、詳しくは分からない。

分からないが確かに、この壁の先が見えたのだった。


「──私の【幻式】で見えたのならば、この壁は何かしらの幻でできたものである可能性が高いのか」

「うん、そうだね。古い知恵ではあるけれど、幻を破れるのは幻って相場が決まっているもん。でも、問題は……」


コンコンコン


子供が再び、自身の背丈より大きな杖で壁面を叩く。

壁は崩れない。

俺のMPが尽きて光が消え、何も透けていないただの岩肌に戻るまでずっと、壁はそこにあり続けたのだ。仕掛けは分かっても、どうにもできずに。


「こんなに強い幻を作っているのは、【術】なんかじゃない。──【法】まで、行き着いた究極のスキルである可能性が高いってことかな」

「──【法】!?」


目を見開く俺の隣で、その観察眼でお手柄を上げたばかりの少年が跳び上がる。推測していたヨーリアをガクンガクンと思いきり揺さぶり、ほんと!?ほんと!?と興奮を隠せない。

まぁ魔法の頂点、しかも珍しい魔法らしい幻系統のみたいだから当たり前か。


しかしこれでは。

この先に進むことなんて、到底厳しいだろう。本当の岩を破壊するようなスキル──ウカあたりは持っていてもおかしくないが──を使わないと、この岩壁は壊せないだろう。むしろ、それで済むかどうかすら。

そんな衝撃を加えて、この洞窟の天井が変わらず無事なんて保証もどこにもないし。今は取得できない系のアイテムを、たまたま先に見てしまったのだと。そう自身を納得させるしかなさそうだ。


ウカと目を合わせ頷きあって、


「──ここに、【法】があるのか?」


下から見上げる、鮮血のような瞳に射止められた。








動画サイトに投稿されたゲーム記録より抜粋


窓際で椅子に深く腰掛ける年配の女性が、画面には映される。歳を経てなおどこか妖艶な彼女は、若い頃はさぞ浮き名を流していただろう。

「──そうさね。【式】は最低限の才覚があれば、誰でも使えるようになるもんさ。私らのような凡庸な民でも、だいたい二つ、三つはスキルをもっておる」


「次の【術】は、これは選ばれたもんだけが使えるものだ。アンタのような異世界人はお貴族様のような才覚がある。だからきっと努力していれば、いずれその日が来るだろうさ。だが私たち市井の者じゃ、そうはいない。いちゃならないのさ」


彼女は大きくかぶりを振った。年月を経て深く刻み込まれた皺が、黒曜石のように美しい瞳を湛えた視線が、酸いも甘いも味わい尽くした者特有の凄みと共に、プレイヤーを突き刺す。


「それは、どうして──」


ゴツン、と床に杖の底が叩きつけられる。薬指にずっと付けられているのであろう指輪が、鈍く日の光を反射した。


「才に驕り、溺れるからさ」


視線をプレイヤーから外した女は、窓の外へと視線を送る。そこにはブリア王国の首都フュンフのありふれた裏路地の景色が広がるばかり。だが彼女は何かを視たのだろう。そっと、避けるように目を伏せる。


「特別な己こそは、【法】をも従えられると。神へ迫り代理人として、法則すら書き替え運命を手中に収められると。愚かな勘違いをするものなのよ。今より魔素が溢れ、ヒトと八神様が近かった古ならともかく、現代においてそんなこと」


──あり得もしない、幻想さね


「……それを貴方の旦那様は、追われたのですね」

プレイヤーは目を閉じる。瞼の向こうで、彼女はどのような顔をしたのだろうか。知る術は勿論、画面の向こうの視聴者にはない。


「バカな男だったよ。私の目がいずれ溶けて、潰れる。ただそれを知っただけで。五百年も生きるエルフなら……それでも一生かけても、手に入れるなんて殆どできやしないのに。それを五十年も生きないドワーフの身でなんて、叶うわけがなかったというのに」


静かな午後の刻が流れる室内に、小さな布掠れの音がする。再び開けた視界の先で、彼女は窓枠に置いていた小さな絵を手に取っていた。隣でコロリと、黒曜石で作られた替えの義眼がヘリを転がる。


白い髪が顔を覆い、その表情は窺い知れない。決して見られることのない小さな額縁の中で、幸せそうな二人のヒトが笑っている。品の良い美しい紅が塗られた唇が、小さく開かれた。


「だけれど──私が唯一愛したバカもんさ」

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