32話:無名の洞窟と冒険者の義務
あの後、何日もこのジャングルの中に佇む謎の遺跡へと通い詰めた。遺跡周りの魔物は、本当にランクアップのための効率が良いらしい。なんだかんだ昨日ついに、レメと共にFランクに上がれるだけのポイントが溜まってしまっていた。
アインツでの魔物狩りもレメの運命を変えられたのだから無駄ではなかったが、やはり片方で効率も大切だな。パンパカパ~ンと、気の抜ける効果音に祝福されながら独り言つ。
この間に俺の【召喚式】は、レベルが二つ上がった。ようやく数秒間ならば、ツキサシバニーが言うことを聞いてくれるようになったというレベル感。隣で楽々呼び出し続け、ついには二匹の【同時召喚】まで習得している天才にはとても敵わないけれど。
だがまぁ、念願だったまともな攻撃手段を俺も得られたということで良しとする。
ちなみに【大食漢】なんていう、あまりにクール男子らしくないスキルも増えた。MP枯渇で、色々と食っていたせいだ。ふ、不名誉。だがおかげ様で、EPの上限が少し増えた。通常、腹いっぱいの時は料理の効果が受けられないので、決して悪いものではないのだが……。
ちなみにウカは上位互換である【健啖家】を超えた、【保食神】なんてものを持ってるらしい。EPに関係なく、いつでも料理の効果を本来のもの以上に受けられるのだそう。いっそそこまで目指せば、ギャップを狙えるかも?
ごほん。ともかく、この場所を教えてくれたアーサーには感謝だ。だが肝心の彼は色々と忙しいのか、あれから姿を見ていない。
ヨーリアのこともあるしその方が都合は良いのだが、商人テッドの変わらず癖のある新聞曰く。国王の体調が芳しくなく、後継者争いが激化しているのだとか。怪しい語り口で書き記される通り、その原因が太古に王族によって倒されたという古代魔獣の呪いなのかのは置いておくとして(ゲーム世界だし、あり得そうでもあるんだよな)。ヨーリアの兄のアル共々、どうか無事でいてほしい。
片方で、北の帝国はやけに材木や鉄鉱石を買い占めしているのだという。一体、何のためであろうかと綴られる印字のような筆跡を前に考え込むしかない。ゲームなのだからとドラマチックな方ばかりへと思考がめぐる。
とはいえ、ザコザコなただの冒険者にできることなんてきっとないだろうし。
今の己にできること──そう。ヨーリアの冒険者ランクアップ目指して、今日も今日とて素材狩りをするのである。
どんよりとした空から、しとしとと水が滴り落ちた。くしゅんっと子供たちが鼻をすするので、先ほどテッドの露店で買ったばかりのポンチョをしっかり着こむように声をかける。
今日はサーバーがオープンして以来、始めての雨天であった。
雨は朝方から降り始め、どんどんと勢いを増していく。うーん……本当はこんな日は、仮屋にこもってのんびりしたいところ。再現が細かすぎるこのゲームじゃ、雨が降れば不快な湿気がまとわりつき、服もぐっちょりと濡れたものなので。
だがそろそろ、ゲーム内で一週間が経つ頃でもあった。ツヴァイで借りた拠点の契約が、ちょうど切れてしまうのだ。
契約を更新して、さらに一週間の滞在をするかここを発つか。
迷うところではあったが、畑に植えたハーブと人参が今朝採れた。あまりに早い。現実ならスプラウトだって、まだ育ち切ってないぞ。骨粉が無敵すぎるのか、八神の加護が偉大なのか。まぁ、どちらでもよい話だ。
結局植える時には最後まで手伝えなかった分、ここはしっかり頑張った。ポツリポツリと雨に打たれながらも、ソーリャと共に瑞々しい野菜たちを手早く採取。まだまだ低レベル【鑑定】の結果、素材ランクはEと高くはなかったものの、土地改良をしっかりやってないならこんなもんだそう。
ひぃ!このゲーム農業ゲーでもないのに、やれることが多すぎる。
とにかく、ちょうどよく畑は空になった。
これでツヴァイの町での心残りは、まだ【騎獣】するための魔物を捕まえていないことと、ヨーリアの冒険者ランクがまだGなことだけだ。前半はさらに次の港町ドライまでの道行は比較的すぐなため、まだよしとできる。魔物をお船に乗せてもらえるかも、正直分からないしね。
そして後半、ヨーリアのランクについては実は本当にあと少しであった。彼の生産系に関する才能がレメの【召喚】に負けず劣らず、かなり高いと思われることが大きな要因だ。
『ラスド村の木工品』──木でできたリースのようなものだ──を初めて作り上げた時から、品質ランクはE。少し慣れた今なら、ランクDを連発している。ランクCまだ行けば、普通にどっかの町で専門店を開けるレベルらしいので、実力は推して図るべしだ。子どもたちがみんな天才過ぎる。
本当に彼は、──王族でさえなければ。
普通の民の子だったらば、生産のスキルの才能なんてあっという間に見つかったはずだ。無能だ、使えない子だと蔑まれることもなかったろうに。褒められ慣れておらずか、頬を膨らませたら空気を抜いたりしながら必死に平静を装う少年の背を撫でる。
こんなもんをぽんぽん作り上げてれば、上がりにくい物品納品のコースでも冒険者ランクFなんて秒読みだった。ちょうど昨日、赤水晶が切れてしまったことばかりが惜しい。既に土台は組み上がってるのだから、やることはあと少しだけ。
手元には、昨日テッドから新聞を購入した時に口車に乗せられ、購入してしまった三着のケープがある。何かの魔物の毛皮でできているのだが、低ランクの【防水】や【防寒】の耐性付き。品はたぶん悪くない。彼の「明日、けっこうな雨になるわ」との言も、正しかったというわけ。
あれ、じゃあ悪くない買い物だったのかも……?そっと、評価を修正。ありがとう、Win-Winの関係を今後も築いていこう。
という訳で。あいにくの天気だが、パーティの皆で遺跡へと足を運ぶことになった。アーサーも暫く見かけないし。力のステータスが俺たちの中で断トツに高いウカも入れて、手早く採掘しようという魂胆である。
防寒対策もして、いざ突撃。
だが何やら、今日のツヴァイの町や遺跡周辺の様子は少しおかしい。
なにせ、プレイヤーが多すぎる。
しかも、ただのプレイヤーじゃない。いかにも少し高そうな装備をしっかり身に付けた、上位プレイヤーも数多いのだ。首都やその先の町の辺りで経験値稼ぎでもしてそうなのに、どうしてわざわざこんな序盤の町に。
魔物たちも気が立っているのか、逃げもせず冒険者たちへ積極的に突っ込んでくる。俺たちの手持ちにもいるツキサシバニーは元からそんな性格だから、当たり前。
だがそれこそ、普段はこちらへ興味を示さず、もそもそ草を食んでいるだけの豚型の魔物、グロスピギーだって泥を巻き上げながら突撃してくるのだ(ちなみに、レメが食べたがっていた肉はまだ食べていない。屋内で食すのはテロだよ!との苦情が、ぷんすこしているソーリャから入ったので。どんだけ不味いんだよ!)。
──なにか、あるのだろうか?
目立ちたくない俺たちは、できる限り彼らに近付かないよう獣道を外れ、森の中から遺跡へと向かう。結局そちらも魔物の数は多いが、プレイヤーとは違って倒したって問題ないからいける。
ウカが真っ先に気がついて、サクっと切り伏せていくのを手伝いながらも奥地へと進んだ。
ただまぁ道中ですらそんなもんだから、やっぱり。
真っ白な大理石の壁の周辺はプレイヤーで溢れきっていた。局所的に鮨詰め状態。
普段はこの小さな空き地。何かのオーラでも出ていたのか、魔物も殆ど近寄っていなかったというのに、勢いを増してきた雨に紛れグロスピギーがどこからか突進してくる。壁の奥から蛇型の魔物も唐突に現れ、飛び上がって冒険者の首元に噛みついてくる。あ、光の粒子になった。ありゃ、死んだな。ドンマイ。
ピギーはともかく、あの壁の向こうからの魔物はやばいだろ。
──流石にこれは何かある。
ゲーム内のアナウンスで発表されたりこそはしてないが、何か隠しイベントがあるに違いない(バナーに出てくるのは、現実時間で5日後からの《ブリア王国 歓迎祭》とやらだ。期間限定の装備品やアイテム、称号をゲットできるイベントらしい)。
俺たちは顔を見合わせ、首を振る。
さすがにあの混乱と怒号が飛び交う場へ、王子を連れて突入する気にはなれない。あの込み具合──ウカだって羽のことがあるし、避けた方が良いだろう。
マップを開いてみる。
遺跡の周囲はぐるりと崖になっており、崖登りのできそうな突起の一つも見つからない天然の要塞だ。
周囲を調べてみる。直接の道こそ繋がっていないが遺跡からほど近い山奥に、小さな村の跡地があった。
きっと、ここがアーサーの語っていたラスド村なんだろうな。ぐるっと近くの山脈を遠回りして初めて行ける唯一の道ですら橋の崩落で寸断され、簡単には辿り着けそうにない。
「壊れてから、ずうっと復旧していないみたいだね」と、ソーリャが端から覗き込む。何やら隣に描かれてる地図記号が、数年前からこの状態が続いてることを示すものなんだそう。なるほど、荒廃してそうだ。地方までいちいち気にかけられていられるほど、ブリア王国は裕福じゃなかったのだろう。
魔物が出現する地域としても表示されているので、少し感傷に耽る。もちろん、村なんて見たことすらないけれど。
続いて、さらに周辺を確認。ここからそう遠くない所に、いくつか無名の洞窟の入り口があるようだった。
出現する魔物は、シルエットだけで表記されている。そのうちの一箇所には、ジュエルスパイダーらしき影もあった。レメのうますぎるイラストと比較しても、恐らくあっていそう。
赤水晶の目を持つ個体かは分からないが、可能性はある。
というわけで方向転換。皆でさらに道なき道を進み、現地へと向かう。現在地がマップで表示され続けるので、迷う心配もない。現実にこの機能あれば、色々と楽なんだけどな。方向音痴にも優しい。
暫くすると、俺たち一行の目前に暗い口を開けた洞穴が姿を現した。
先程までとは違い、プレイヤーの姿は全くない静かな場所だ。軽く外から探る限り中は真っ暗だが、凄まじい縦穴が続き動かなくなる──なんてこともなさそう。自然な洞窟にしては、平坦な道が続いている。
うん、悪くない。赤水晶が仮に狩れなかったとしても、強くなってきた雨を凌ぐことはできそうだ。
よって灯りはヨーリアが抱えるカンテラに頼り、俺たちは真っ暗闇へと一歩足を踏み入れたのだった。
中は暗く湿り、ゴツゴツとした岩壁が続いている。出てくる魔物は壁の向こうとは違い、比較的よわめ。俺が本の角でばちこんと叩いていていても、なんだかんだ倒せる。
ナイトバットという魔物のようだ。洞窟の外でも、夜ならよく見かけるらしい。レメは目を輝かせると図鑑を広げ、次々と記録を書き始めていたので、先にぐっちょりと濡れたポンチョだけでも脱げと声をかける。──が、無視。夢中になりすぎている。
なになに?『ちゃんととんでるのに、あんまり目は見えないみたい』?俺の【幻式】が不発になっているところを見たな!?恥ずかしい……。
夢中な子どもの隣で、どこか上の空なヨーリアの分も合わせて回収する。
少し疲れているのだろうか。無理もない。二人ともほんの少し前までは、全く違う生活をしていたのだから。それなら今日中に終わらせる!なんて息巻かず、延長かどこかの宿屋への宿泊にすればよかったな。
内心の反省会。
をしていると、切り捨てたばかりのコウモリ型の魔物を、ウカとソーリャが覗き込んでいた。なんだ?
ぼんやりしてる子どもたちも連れて近付くが、倒されたのは何でもない、ただの一匹の小さな魔物のように見える。
「……何かあるのか?」
分からないなら頭を傾げる二人へ聞いてみよう、そうしよう。問いかけてみると、膝に肘をついた子供がちらりとこちらを見上げた。
「この魔物、たぶんまだまだ子供なんだよね」
もう空から雫の降ってこない洞窟内でも、渡したポンチョを脱ごうとしない彼が呟く。「ほら、」と粒子となって消えかけていく魔物の、翼の膜を彼がくいと引っ張った。
「筋が凄い赤いでしょ?これ、生まれて暫く経ったら、暗い色になるんだ」
「こんな未成熟な個体までもが、俺たちヒト前に出てくることなんてことは、まずないんだよね。子育てをしっかりしている期間だからさ。それに、そもそも……ナイトバットは昼間の間なら、生息地に踏み込んだとしても、殆ど襲ってくることはないんだよ」
続くように語った少年はこの間にも、ギィー!と高い音を奏でながら迫る魔物を、撫でるように切り捨てた。地に落ちたコウモリは、サイズこそ先ほどの個体と殆ど変わらない。だが筋は殆ど黒に溶けていた。
「──今、ここでは何かが起きているんだ」
珍しく形のよい口元に笑みの一つも浮かべない少年の、切れ長な鋭い瞳が俺を貫いた。くるりとその場で舞うように一回転をした後には、どこからか突撃してきていた小さな魔物達がまた切り払われている。
筋が赤い個体も、黒い個体も、何匹もいた。
「外のあれらはまだ……誰かが、魔物たちにスタンピードを起こさせただけの可能性が高かった」
不慣れな冒険者が多い今みたいな時期なら、不思議でもないんだよ、と立ち上がったソーリャが補足。実際、プレイヤーは何故か多く集まっていたもんな。
でもね、と続けてこてんと頭を傾ける。この子どもも、珍しく真顔だ。
「洞窟の中はエリアが違う。誰かが外でおバカなことをしたからって、影響を受けることはまずないんだ」
なのに、ここの魔物も様子がおかしい。
自身の体の大きさほどある大杖を、ソーリャは複雑に分岐し始めた洞窟の奥へと向ける。
「──この洞窟の奥に、何かある」
夢中でスケッチをしていたレメも、ぼんやり奥を見つめるばかりだったヨーリアも。カラリと変わった空気感に呑まれたのか、俺のローブを小さな手できゅっと握った。
「それは、強大な魔物かもしれない。何かの、悪意かもしれない。でも少なくとも、普通じゃないことがあるみたい」
じっと、二人が俺を見上げる。
「──それでも、奥へ進むのかい?」
「──それでも、帰らないの?」
こんな時ばかり、二人の息はぴったりだ。つまり、それだけの事態の可能性があるのだろう。
ふむ……、別に何がなんでもランクを今日中に上げたいわけではない。ツヴァイを出るまでに、ランクFに必ず上がらなければならないわけでもないし。
ただ少し気になるのは、
「……その何かを放置したとして、問題は起こりうるか?」
最優先はもちろん、子供たちの身の安全だ。
しわができるほどの力で、ぎゅうとローブを握り続ける二人はもちろん。俺に忠告をしてくれる、俺より強いこの二人も。
──だけど、アーサーから話を聞いたラスド村。そこが廃村になった原因は、俺には分からないこと。だが、ツヴァイが同じようになる可能性を秘めているというなら、かなり後味が悪い。
なのに、二人が同時に目を見開く。そのまま互いに顔を見合わせ、眉根を下げて小さく息をつくのだ。
おい、なんだいきなり!俺の言動、そんな飽きられるほど問題ありだったのか。
知らぬうちに、何らかのハラスメント行為を働いたのやもしれない。真っ青になっていると、折れそうなほどの細い指でちょんと腹をつつかれる。やめろやめろ、最近少し気にし始め……ゲーム内だからんなことないのか。
「あ〜いかわらず、お人好しなんだからカルくんは〜!」
「……私のは、そういう類のではない」
「どうだろう?カルさんは俺たちなんかを、わざわざついて来させちゃうようなヒトだからな」
生温い視線を両側から感じる。ウカも微笑ましげに口角を上げるな!
やめてくれ、俺はインテリなメガネの似合うクール男子なんだよ。俺の中身が全く追いついてないことが、しっかりとバレているのは恥ずかしい!!
気まずいにも程があり、メガネのつるをひたすら弄る。
「……うん、問題が起こる可能性はあるよ。でもそんなにすぐではないかな。さっきもボクが言ったけど、エリアが違うと早々何かが起こるってことはないんだ」
まだ水を滴らせるケープを空色のおかっぱ頭の上で揺らし、エルフの子供はにこりと笑みを作る。
続けて、常に目深に被るローブの裾を少し持ち上げた少年が口を開き。
「本来、冒険者には異変の原因を突き止めて、排除する義務はあるよ。ただコチラも命あってのモノダネだから、時代と共に形骸化をしていっ……」
「──ぎむがあるのか」
幼く、甲高い声がそれを遮った。
先ほどまで、レメと二人して俺にしがみついていた子供だ。いつの間にか裾から手は離れ、鮮血のような真っ赤な瞳がじっと二人を見据える。
「……そうだね。うん、冒険者には本来あるものだ」
「ならば、余はこんどこそっ……!」
己の胸元を強く掴んだ幼子が、ずいと迫った。あどけない声は震えている。
「うーん、言葉は悪いけれど……キミで、自分の身も守れないのに?」
「そ、れはっ……」
──今度こそ、か。
心の中では分かっている。ワザと厳しいことを王子に伝えるソーリャは、何一つ間違っていない。俺も同じだが、二人に寄生をしていると表せるほどの実力差。そんな子供が、危険なことをしたい!と言って誰が賛成できるだろう。
子供の願いは、何でも叶えれば良いものではない。悪いことは悪いと教えることも、また大切なことである。
だけれども。
言い返すことができず、顔を伏せ頼りなく震える姿。その姿に、初めて出会った時の血の気のない姿が被る。だらりと力なく倒れ、支えたかったと後に語った兄のアルの手の中で何もできていないでいた姿を。
王族としての義務を果たすことは許されず、おめおめと市井に混じり生きるしかなくなってしまった彼の人生。
ならば、新しい"ソレ"をちゃんとやりたいと願うことは、普通の話であろう。状況が簡単には許しはしないだけで。
「……ヨーくんがやりたいなら、ぼくももう少しやりたいっ!」
パッとレメがヨーリアに駆け寄り、震えていた小さな手を同じ程に小さな手で握りしめた。味方なんているわけない。そう諦めていた子供は、握られた手の温かさにか、伏せていた赤い目をさらに大きく見開いた。
「レ、レレ……。良、いのか?」
「うん!……それに、ぼくだってズルしてフツーのぼーけんしゃになったんだもん。なら、少しでもやくに立たなきゃダメだと、思うし」
先ほどまでのヨーリアのように、きっ!と目を開き少年は二人を見上げる。口を一文字に結び、強い意志を示す。
さて、これでニ対ニ。
眩い友情や健気な言葉には心が打たれるが、現実的に俺が味方をするべきは、間違いなく年長組の方だろう。どれほど痛いほどに幼子たちの心が分かったとて、保護者として彼らの安全を真っ先に考慮するべきなのだから。
洞窟の中は危険だ。真っ暗で足元は悪く、中は入り組んでおり、魔物が出る。それだけでなく魔物の様子までおかしく、その要因を今から突き止めようだなんて。
魔物はまだ決して強くない。しかし原因を探るために奥へ入り込めば、その分何かが起こる確率は増えるだろう。帰るのが厳しくなるのさえ必然だ。
二人が厳しい顔をするのも当たり前であった。
だけれど、俺は。
しゃがんで目線を合わせ、丁寧に語りかけているのを横目に俺はステータス画面を開く。
そんなにスキルを自ら取得してないから、今の俺のSPはそこそこ。ならばとスキル取得画面をさらに開き、一つのスキルを選択した。
『【脱出】を習得しました』
【脱出】
SP消費は脅威の20、あまりに重い。スキル内容はダンジョンに分類される施設から、パーティメンバーを即座に脱出させられるというものだ。SPに似合う重要な能力。
それでいて、MP消費はそれほど高くない有能である。
【鑑定】をすると、●●の素質を持つヒトが習得できるスキルと出てくる。
ちなみにプレイヤーならば、誰でも習得できるスキルなのだそう。NPCは今まである全サーバー、どこでも習得者はいないのだ。動画で勉強した。
たぶん、プレイヤーがゲームを快適に遊ぶためには必須だとして。そうなるとそれはそれで、この世界での冒険者生活のリアリティが薄れてしまうから、一般NPCには実装はしていない。
とか、そんなとこだろう。適当だけど。
閑話休題。
さて、この無名の洞窟はもちろん魔物が出現する地域だ。それはすなわち、ダンジョンに相当する。
だから俺は、カッコつけて眼鏡のふちを持ち上げてこう答えよう。
「……私は【脱出】を持っている。だから、もう少しだけ探索してから戻ろうか」
と。
攻略ページ ゲーム内用語・単語・略語辞典より抜粋
【ダツハラ】とは
スキル【脱出】の取得を強要することを指す。特定の個人に習得SPが重いこのスキルの取得を強要し、自分のSPを節約しようとする行為。
固定パーティを組んでいると、序盤の頃に特に起こりやすい。
そのため現在は、全員が平等に習得するパーティも珍しくはない。
みんなも他人にスキル取得の強要は、ダメ絶対!




