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俺は、ショタコンじゃねぇっ!!!!!!  作者: 陽日
1章-2節:ブリア王国編-平穏な町ツヴァイ
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31話:魔物ととある村についてのお話

場所だけは秘境のように思えるのに、ヒトの多さに圧倒される。まるで江戸の頃のような人口密度。見たことないけど。

しかしこれだけヒトがいると、ランク上げのための魔物退治は厳しそうだ。


「アンタら、すぐに集まってくんのな」

数日前は、誰もこんな場所に来やしなかったんだぜ?と、髪を逆立てた少年は肩をすくめる。きっと、どこぞの攻略ページにでも掲載されたんだろう。

「私たちは知りたがりだからな」

効率的な情報は、あっという間に出回るもんだ。こちらも軽く肩をすくめ、適当にお茶を濁す。



さて。

アーサーの姿はなんらかの制限をかけてか、俺たち三人にしか見えないようになっているようだ。だが彼らが人前で長居をして、良いことはきっとないだろう。


「この辺には赤水晶はなさそうだね」

キョロキョロ、ソーリャがくるりと辺りを見回す。そうだ、今の目的は石である。ここはジャングルの中。木々は無数に見えるが、たまにひらけた土地には草が茂るばかり。それもプレイヤーの姿で、殆ど見えなかった。


「もうちょい奥だ」

彼は顎で奥を指し示し歩き始めるので、俺たちも続く。

「あの寺院の中にあるのか?」

この世界に、寺という概念があるかは分からないが。神が実際にいる世界とは、少し噛み合わせが悪そうだ。


少年が切れ長の碧眼を少し見開く。

「……ああ。地下が昔使われていた採石場と繋がってる。この遺跡が発見されたきっかけだ」

ある時、偶然繋がってしまったのだとか。よくその時に遺跡が崩落、なんてことにならなかったな。あと存在をなかったことにして埋め直し……は、まぁ無理か。


「よくわからん紋章が入っていたら、手は出せないさ。もしかしたらどこかの高位の人間によって、まだ現役で使われているものかもしれないんだからな」

ひび割れ、一部は穴も開いた壁面には確かに紋章が入っている。年月で剥がれ落ちてか、殆ど形は分からないが。ぺたりと、残った破片に触ってみる。

「そこは……誰かが削り落としたのかもしれないね」

ソーリャがポツリとつぶやく。

「この辺りだけ、凄く壊れているもん」

確かに。苔むしてはいるものの、ここはきれいな遺跡だ。実際、まだ日常的に使われていると話されても、信じそうなほどに。なのに、一部だけが壊れているなんて不自然でしかない。


「この寺が見つかった時には、この有様だったって話だ。数百年前の記録によるとな」

アンタは生きてたか?とアーサーが軽口を叩けば、ソーリャは尖った耳を揺らし首を振る。

「そんなわけないじゃん!もう~、エルフをなんだと思ってるのさ!」

口を膨らませぷんすこしてみせる少年に、彼はキハッと笑う。いつも千歳越えだって声高に主張しているのに、珍しいな。じっと見つめていると、くるりと振り向いた少年が目を細めしーっとひと指し指を立てた。”アーサー”には隠しておきたい話なのか?

レメと二人、目を合わせる。こくんと頷きあってとりあえず、俺たちは二人の後を黙ってついて行くことにしたのだった。




開けられた穴から遺跡の中へと侵入し、暗い中をずんずん進む。途中からアーサーが宙へと光の玉を出現させたので、多少の光源は確保されたが足元は悪い(なおレメは、この光の玉を見た瞬間から大はしゃぎだ。輝く瞳で、アーサーを見つめている)。普段の生活では着ることがない長いローブを、何度も巻き込みかけた。うーん、魔法使いとはいえ冒険者だし。別の恰好を考えるべきかもしれないな。

興奮しすぎて転びかけた子供も支えながら、心の中で独り言ち。

遺跡の中をたむろする蝙蝠型の魔物(経験値はさしておいしくない)を倒しながら、五分ばかり進んだころだろうか。


唐突に、石造りの廊下は終わりを迎えた。

先に続くのはどこからか生ぬるい風が吹き込む、ゴツゴツとした茶色い岩肌に囲まれた洞窟。だが、鉱物が生えているような形跡はない。


代わりにいたのは、ある魔物達の姿だった。

暗闇に溶けるような深緑の姿をした、俺顔ほどの大きさはある立派な蜘蛛型の。毛の一本、一本を再現!なんて血迷ったことはされずに、まろやかなデフォルメはされてるが──ゲーム画面越しではなく実際に己がそのサイズと対峙するとなると。……うげ、普通にキモい。

かの蜘蛛らしい八対の六角柱の形をした瞳は、この暗闇の中でも光球を反射し、そこら中で赤く煌めいている。

いや、待てまさか。


「ジュエルスパイダーだね。この辺りの子たちは、赤水晶の眼を持っているんだ〜」

目が、石なのか!?どうやって視覚を……退化でもしていて、関係ないとかかもしれない。


レメの手を離し、借りている本を構える。彼もまた、手のひら大の召喚石を握りしめていた。他の二人もそれぞれ武器を構える。


「コイツらは表にいた奴らよりポイントは低いが……ま、アンタらには一石二鳥にはなるだろ」

そう。経験値の獲得も大事だが、今回の俺たちの任務はヨーリアのための素材集め。

さぁ、頑張ろう!




「行って、ツキサシバニー!」

子供の高い声に合わせて飛び出した小さなウサギ型の魔物が大地を駆け、小さな体躯で蜘蛛へと向かって突撃をする。単調ながらも、素早い一撃だ。

だが、蜘蛛の方も負けていない。カサカサと素早い動きで八本の足を駆り、ひょい、ひょいと逃げていく。


「【召喚式】、ツキサシバニー」

俺も彼が手に抱えた石に触れ、同じく援護をかけた。なにせ、視覚がない生き物と俺の【幻式】は、すこぶる相性が悪い。目を騙すスキルなのに、そもそも見てすらくれないんだから。

無力だ。

いずれ聴覚や、触覚も騙せるようになりたいものだ。それはもはや幻ではない?そんないけずなことは言わないでさぁ!!


さて、実は使える俺のもう一つの魔法スキル。

俺の【召喚式】は、レメと比較すると雲泥の差がある。そもそも、普段は使ってないのでレベルは1。素質も、初期種族のプレイヤーだからただのCだろう。

だから召喚といっても、それはほんの数秒。彼らを現世に呼び出すだけだ。攻撃一つ、ままならない。MPもスキルレベルも足りないから。


だがそれが今まさに、己が逃げた先の空間に突如として現れたらどうだろう。飛び跳ねる間も無く、現れては消えていくウサギ達。

それだけでも、レメからの攻撃を逃げていた蜘蛛には、効果はあった。


驚きふためき、蜘蛛たちは跳びずさる。その先にいる存在を、すっかり忘れ去って。

光球を纏った少年が鼻で笑い、口角の端を歪に上げる。


「──上等だっ!!」

おらぁ゛っ!!と、片手で軽々と大剣が薙ぎ払われる。重さも感じさせないほど、素早い動き。一撃、掠るだけでももうおしまいだった。

蜘蛛はあっという間に壁へと激突し、サラサラと粒子へと変わる。ころりと転がってきた石、赤水晶だけが彼らの生きた証だ。たまに真っ白な糸も。


ちなみに、アーサーがいない方向へと逃げられた魔物は、ぽこんぽこんとソーリャが杖で叩いていた。三撃くらいで倒しているので、流石である。俺が試しにやった時は五回叩いても、まだ逃げられた。


倒すのに協力さえしていれば、ランクアップのためのポイントも、レベル上げの経験値も貯まる。ということで、全員で赤水晶狩り。

たぶん本来なら──ソーリャは職業的に怪しいとして、アーサーは一人で魔物を全滅させられるのだろうけど、協力を頂いているのだ。


口は悪くともなんだかんだ手は貸してくれる。こういった一面を見ていると、ヨーリアや、兄のアルが話していたような少し問題がある人物にはあまり思えないものだ。いや、王族がこんな市井に自由に紛れているのは問題か。後継者争いに巻き込まれたくない、狙っていないという主張なのかしら。


ころ……と、また転がってきた赤水晶を拾う少年を見やる。光球に照らされ、浮かない顔だ。


「どうしたの?何かあった?」

ついと、いつの間にか近づいていたレメが下から覗き込む。

「……いや、何でもねぇ」

秘密主義。だが当たり前か。俺の想像通りに彼が王族ならば、話せないことの方がむしろ多いに決まっている。


「なんでもないってかおじゃないよ!……この石、なにかあるの?」

ちかりと光を照らし返す赤水晶へと、小さな紅葉のような手が触れる。あからさまに、何の変哲もないただの宝石だが。

魔物の波もちょうど引き、沈黙が落ちる。ひゅるりと、どこからか吹き込む風の音が響いた。


「アンタら、この水晶何に使うんだよ?」

「えっと……えっとね、ぼくたちでこーげーひんを作るんだ!」

アーサーから手渡された赤水晶を抱え、子供は鳶色の目をわずかに泳がせながらも、きゅっと笑顔を見せる。嘘は言ってない。


「──『ラスド村の木工品』か?」

「え、そうだよ!すごい、すごい!!なんでわかったの!?」

俺まで目を丸くする。え、なに盗聴器でも仕掛けられてたのか?それなら、あまりに不味すぎるが。


「んなの……初心者が作れる、赤水晶を使うモンなんてしれてるしな。大した話じゃねぇ」

アンタも、村のローブを着てるしよって。俺を指差した少年は頬をわずかに染め、目線を泳がせながら頭を掻く。

あれ、そういやそうだっけ。装備画面を開いてみると、『ラスド村の工芸衣装』だってさ。驚いた。こんなところで繋がるとは。


「そうなんだ。お兄さん、ものしりですっごいね!……でもどうして、あんな暗いかおをしていたの?」

このこーげーひんって、何かよくないものなの?と子供は困り眉をしている。そしてアーサーは純朴な視線に負けたのだろう。ついと顔を逸らし、遺跡とは真逆、坑道の奥を見つめた。


「……ラスド村は、この廃坑の先にある。今じゃ廃村だが、俺は縁があってな。懐かしく思ったんだよ」

「廃村なのか」

こんなにゲーム内でアイテムが出てくるのに。

「……色々あったんだ」

彼は目を伏せる。その瞼の裏にはどんな光景が広がっているのか、俺にはもちろん分からない。だが邪魔はしたくなくて、そっと口を噤む。


「お兄さんはその村が好きだったの?」

「……分かんねぇ。実際に見たことはねぇから」

コツンと、風に流され小石が転がる。

「うーん。でもなくなってかなしいなら、きっと好きだったんだよ」

拾い損ねたドロップ品の糸が風に乗り、ふわりとアーサーのブーツの上に落ちる。普段なら、何も感じないほどのものだろう。


「ああ……そうかもしれねぇな」

真っ白な糸を、彼は武器を握り続けた無骨な手でそっと拾う。細い、今にも切れそうな糸だ。


「これ、やるよ」

「これ、くもの糸?ありがとう!」

屈んで目線を合わせ、わざわざレメに渡した糸は、そんなに珍しいものだろうか。ソーリャも不思議そうに見つめている。


「え、なにこれ?」

子供が、鳶色の大きな瞳を丸くする。手元には蜘蛛の糸と共にいつの間にか、小さなカードが乗せられてていた。お、なんだ?


「気が乗りゃ使え」

「えっと、【ラスド村の耳飾りのレシピ】?くれるの?」

「ああ、ラスド村には伝承があってな。有名じゃねぇが、それに纏わる品で……送ったヤツの無事を祈るお守りみてぇなもんだ」

さらに目を見開く子供に、アーサーはニヤリと笑いかけた。レメはいい子だもんな。思わず、色々としてあげたくなる気持ちはよく分かる。


へぇ、どんなのどんなの〜?とソーリャが駆け寄って覗き込む。俺も追いかけようと、足を一歩踏み出した時だった。



らん、らんらんらん、らんらんらん


微かな音が耳に飛び込んできた。昨日、聞いたばかりの音──無邪気な子供の歌声、歓声混じりの不協和音。


首筋をヒヤリとした風が過ぎ去る。音はすぐに止んでいた。間抜けに周りを見回すのは俺ばかり。坑道は真っ暗闇な口を開けている。

昨日ずっと流れていたし、聞き間違いなのか……?


分からない。仕方なく首を振る。そして今度こそ、俺も彼ら三人の元へと歩き始めるのだ。


ふと気がつく。子供たちに絡まれ、大剣の柄に巻いた包帯をぐいと引っ張っている少年の。頷くのに合わせゆらりと揺れる金糸の間に。真っ白な糸で編まれ、真っ赤なピアスが揺れている。宝石はヒビ割れ、糸も僅かに緩んでいるけれども、そのままで飾っているのであった。





廃村ラスド村に放置された書籍より抜粋

『ラスド村の幸運男』

『あるところに、働き者の男がおった。美しい奥さんと、玉のような子どもが二人もいる男だ。

彼の仕事は、鉱山に行って宝石を狩ることである。毎日、朝から晩まで山に入って宝石を狩り、妻が加工して売り物とする。慎ましくとも、幸せな毎日を送る男であった。


その日も男は、坑道へと足を踏み入れた。近々、彼の妻は誕生日を迎える。だから何としても、男は大きな宝玉も持ち帰りたかった。

しかし、なんということだろう。この日は探しても探しても、カサカサ音一つ洞窟には響いていなかったそうだ。


男は、坑道の奥へ奥へと足を踏み入れる。それこそ誰も訪れたことがなかったような、最奥まで進んでしまった時であった。

ぱらり、と大きな音がして間も無く。大地が大きく大きく、震えたのだ。これは、ある魔王の遊びの余波であったという。

だがそんなことは知る由もない。ガラガラガラと天井から大岩が降ってきて、運悪く当たってしまった男は気を失ってしまったのであった。


気が付けば、男は真っ暗な洞窟の中にただ一人であった。幸い、大きな怪我はしていない。だが来た道は崩落で塞がり、帰り道は全く分からなかったのだ。


男は途方に暮れるしかなかった。当てもなく彷徨い続け、やがてここで死ぬのかと覚悟を決める。八神様に妻と子供たちの幸福を祈り、眼を瞑りかけた男。

だがそこにカサカサカサ、という物音が飛び込んだ。


そこにいたのは老いた一匹の蜘蛛であった。多く傷つき、今や一つだけの目玉を持っていたそれは、きっと長く長く生きてきたのだろう。


その蜘蛛は男を見つけるとカサカサと。どこかへと進み始めたのだ。跡には、真っ白な糸を残して。

何年も何年も同胞を狩り続けたのだから、最期は彼らの糧になるのが正しいだろうと。後は死ぬだけであった男が後を追ってみる。すると、蜘蛛はまるで男を待つかのように先で待ち続け、男が近づくとまたどこかへと逃げていく。まるでどこかへ導くかのようだ。


そうして男が追いかけ続け、どれくらい経った頃だろう。ふと、吹き込む風の匂いが変わる。洞窟の湿った匂いだけでなく、緑の爽やかな香りを含んだものになっていた。

気が付けば、男は洞窟の外に出ていたのだ。


足元には一つの小さな赤い水晶が転がっている。それはまさに、あの蜘蛛の瞳と同じ大きさ。


そうして長い長い糸と、小さな水晶だけを持ち帰った男を待っていたのは、暖かな家族の声であった。男は奇跡的に、生きて家へと帰ったのである。


この話を聞いた村人は、皆が糸と小さな赤水晶を使ったお守りを作るようになった。それから村では、ただの一人も帰らぬ男は出なくなったという話である。


その男は死ぬまで毎日、己を家へと帰した蜘蛛に祈りを捧げ続け。狩った命にも、墓を作り供養を続けたのだという。』

いつも、誤字報告ありがとうございます。

誠に助かっております。

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