表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は、ショタコンじゃねぇっ!!!!!!  作者: 陽日
1章-2節:ブリア王国編-平穏な町ツヴァイ
32/33

29話:明るい廃神殿の片隅で

暫しの時を経て再ログイン。

現実では1日が経ったくらいだが、ゲーム内では何日か過ぎた後だろう。えーと前回は確か、と思い返してるとログイン完了。


チチチと鳥のさえずりが響き渡る。俺の姿は、陽の光に明るく照らされた廃神殿の片隅にあった。ゴロリと転がる燭台、宙を漂う埃が光を反射して、汚いけど何だか少し綺麗かも。

しかし、己の下半身は血まみれでぐっしょり。視界の右上ではHPバーがギリギリだよと、全力のアピール中だ。


そう、俺はPKに襲われたんだった。小さな子供と一緒に。むしろ許せないことに、真っ先にあの子供が狙われていた。その彼の正体は魔王だったようだけど……随分と恐ろしい経験をしたものだ。

このあたりの治安はCマイナスと。基準値なんてないけど。


「あれ……カルさん、気がついたのかい?」

おや、なんだか知っている声が。

足早に駆けてくる音と共に目と鼻の先に飛び込んできたのは、ずれたフードの下から俺を伺う作りこまれ過ぎた美形──

「ウカか……?どうしてここに、」

一瞬、身構えてしまう。起き抜けに視認するには、刺激が強すぎる美貌はともかく。なにせ、彼の幻に騙されてこんな町はずれまで出てきたのだ。間近に迫る少年の造形に違和感はないが……


「帰って来なかったから心配したんだ。勝手なことだけれどね。ほら、回復薬だよ!」

受け取ってと、勢いよくランクDやらCやらの回復薬が、腕から溢れんほど一気に押し付けられる。めっちゃ物理でめっちゃ物質。ああ、こら現実だね。この子は確かにここにいる。

というかおいおい、こんな高ランク。この国なら首都に行かないと、なかなか手に入らない高級品じゃなかったのか?前、ソーリャに教えて貰った。そんなものを、これほど沢山だなんて。ついついしり込み。


「いや、私は大丈夫だ。これでも傷はふさがっている」

「え、本当かい?だとしても、HPは回復してないだろう?だから、使ってほしいな」

目前に更にぐいと迫る美人。艶やかな長い睫毛が触れてしまいそうなほど。ノータッチ!!ノータッチ!!別にショタコンでは全くないけれどさ。


気圧されて、一本だけ受け取ってしまう。なんだか、まるで初めて会った時のシチュエーションを、立場を入れ替え再現したかのようだ。


ちょっと感慨にふけっていると、ほら早くと手を取り追い立てられる。えー……子供からタッチされた場合は、なんて呑気に考えていられない。いったい、どちらが失血死しかけるほどになっていたのやら。哀れな程、彼の顔は真っ青だ。

……俺のあの、罪悪感から逃れるためだけの行動と一緒にしてしまうのは失礼だな。きゅぽんと素直に蓋を開け、中身を呷る。すると、みるみるうちに付着していた血のエフェクトは消え、HPバーもぐいーんと横に伸びた。効果はテキメン。ポロリと落ちた矢は、ウカがさらっと回収していく。


「ああ、かなり回復したようだ。感謝する」

「ううん、良いんだよ。異世界人の渡眠りをしているだけだって、頭では分かっていたんだけどね。……本当に、カルさんが起きてくれて良かったよ」

見つけた時、心臓が止まるかと思ったとのこと。俺に触れる手は、いまだ僅かに震えていた。かなり申し訳ない。


で、渡眠りってのは──ああ、ログアウトのことか。ゲームに四六時中ログインはまさか許されるわけがないので、存在している設定。たしかプレイヤーはこの世界に魂が安定してないから、定期的に長い睡眠が必要──という理屈になっていたはずだ。

そうやってログアウト中のプレイヤーの体は、半透明になって殆どの干渉ができなくなる。だから彼も見つけた俺を、どうにもできずにいたというところだろう。


「悪いな。もしかして、数日待たせたか?」

廃神殿の片隅に、見覚えのない真っ黒なブランケットがくしゃりと落ちている。埃まみれの周囲と違って、その辺りだけは少し埃が払われていた。きっとあそこで、俺の目覚めを待っていたのだろう。


「大丈夫さ、こういう環境は慣れているんだ。俺は……スラム出身だからね」

少年が目を伏せ告白。……うん、まぁ。親にすらまともに愛されてこなかったような、卑屈な彼の態度を思えばそこまで意外でもない。それはそれとして、とても悲しいけれど。


「だとしても、進んでやりたいことではないだろう」

だから感謝する、と言葉を続けると彼は一瞬ひくっと肩を飛び跳ねさせた。ん?何かマズイことだったか?


「ううん、良いんだ。迷惑に思われなくて本当に良かったよ。カルさんが帰って来なかった時、ちょっとその可能性も考えたからさ」

ほら、俺とかちょっと強引に旅について行きたがっただろう?と、少年は顔を歪めて苦笑い。誰かと接するのも得意じゃないし……これでも反省はしてるんだよ、と頬をかく。


ああ、たしかに。俺もメールのひとつしておけば良かったな。帰りを待っているだろう誰かに連絡しなくていいだろうなんて、相手を軽んじる行為だった。申し訳ない、反省だ。

それに旅は……うん、最初はね。俺はコミュ障だし、ソロで遊んでいく気しかなかったけれどさ。

すぅと小さく息を吸う。


「お前たちと旅をしたいと考えたのは、俺の意思だ。何も気にすることはない」

プレイヤーだからね。選択権はいつも俺にあった。

雰囲気に流されたところがないとは言わないが、不服は何もない。彼が俺がそばにいることで、少しでもこの子たちが楽になるなら、共に旅なんていくらでもしよう。NPCだなんて、関係ない。

それだけで少しでも幸せになるならと、信じてもいない、俺にも彼にも加護一つ与えてくれない八神に祈ってみる。


目をつむり、胸の前に手を置く仕草。祈り方も分からない異世界人スタイルだ。今の俺はイケメン男子なので、こんなカッコつけも許されるはず。


「そっか。──なら、本当に良かったよ」

再び開けた視界では、少年の顔がふわりと緩む。切れ長の目を細め、口角をあげて微笑んでいた。うむ、俺の今の顔がいいので許されたな!!と、俺よりさらに顔が良い、彫像のような美貌を前に小さく頷く。

パラリと舞う木屑が、爽やかなそよ風に乗って町の外へと散っていった。




さて、一通り話し終えたし借家に戻ろうかなと。古びた床に手をつき立ちあがろうとしたところで、ウカに呼び止められる。


「……ところで、いったいどうしたんだい?こんな怪我、普通するもんじゃないだろう?」

おっと、話の流れが変わったな。無表情でも、ピシリと固まる。俺の足に刺さっていた矢は、彼の手の中。まるで我がことかのように顔を顰めた少年は、矢尻をそうっと撫でた。


「安いから、初心者がよく買う矢だ。今の時期なら、異世界人がよく使っているだろうね」

「……ああ。たまたま出くわして、襲われた」

ウカの幻に騙されて、ノコノコと誘われ出て来ていたのは黙っておく。俺がひどく間抜けだし、彼も凄い気にしそうだし。つまり、これは互いの名誉のため。

端的に言い切った俺を前に何を感じたのか。へぇ、とウカは真っ黒な両目を丸くした。


「たしかに。ここにいる間に、何度か異世界人が襲ってきたんだよね。中には弓矢使いもいたし……もしかして、彼らが犯人だったのかな?」

「そっ……れは、お前に怪我はないかっ……!?」

予想外の話にひどく焦り、声が少し裏返る。まさか、巻き込んでしまったなんて。パッと上から下まで見る限りは、怪我はなさそうだけれども。


「俺も弱くないからね。大丈夫、無傷さ。それよりカルさんのことを、きちんと守れて良かったよ」

ニコリと、形の良い唇が笑みを形作る。矢を懐に仕舞い込んだ彼は、確かめるように下から俺の目を覗き込んできた。黒曜石のような美しい少年の右目が、俺を貫く。


息が詰まった。何も考えずにログアウトしてしまったが、そうか。魔王に突然襲われて死んだりしたら、そりゃあその跡地は気になるものである。

現れたのは襲ってきたPKか、その仲間か、ただただ不運にも訪れてしまった冒険者かもしれないが。よく考えなくとも俺はこの地に、長い滞在なんてするべきじゃなかった。


ログアウト中は、プレイヤーを襲うことはできない。半透明の姿になり、基本的な干渉はできなくなる。だからその辺で突っ立ってる半透明なヒトがいたら、その大半はプレイヤーだ。幽霊とかじゃない。

だが、ぼんやりとなら確認できてしまうのだ。知り合いなら、そこでログアウトしているのが誰か分かる程度には。


PKがそんな俺を見たら、どうしただろう。俺の顔までは覚えてなかったとしても、服装で、真っ赤に染まった足で、なんとなく察せたに違いない。

ログイン直後はリスキル対策で、悪意ある干渉はできないらしいが、どこまで役に立ったのやら。付け狙われたりすれば、子供達にまでも迷惑がかかったやもしれない。


つまり、俺はまた彼に助けられたのだ。


「……すまない。迷惑をかけた」

「問題ないさ。それに仕方がないよ。異世界人の魂は安定していないんだろう?」

だから色んな場所で突然、渡眠り(ログアウト)する。ということにゲーム的にはなっているが、まぁ。真相はプレイヤーの唐突な現実の用事や、俺のようなものぐさなので気まずいな。


「だからといって、お前に世話をかけたことは変わらない。お前は、彼らに顔を覚えられたりしてないか?」

もし因縁でもつけられようものなら、今度は俺がぶっ飛ばしてやる!マトモな攻撃スキルなんてないのに、心の中でふんすと鼻息荒く息巻いてみせる。俺だって、この子を守りたいのだ。現実は、守られてばかりだけれど。


今回だって、大丈夫さと首を振られた。ほうら、と顔を己の手で覆った少年は「──【隠蔽】」と唱える。

するとどうだろう。ちょうど陽光が雲に隠されてしまった時に現れたフードの下は、漆黒だった。輪郭すら何も見えない、どこまでも吸い込まれるほどに空虚な黒が広がっている。


うわ……これはゲキ強幹部とか、黒幕がやる奴だ。アニメとかで、物語の中盤まで顔を見せない系の。

改めて出会った時の、彼の怪しすぎた黒幕仕草を思い返す。こんなんが刀で切りかかってきたら、俺ならそりゃあもう死を覚悟するだろうな。


「こんな羽だからさ。隠し事も得意なんだ」

褒められたことじゃないけど、なんてウカはすぐに自己卑下に走る。肯定感を育てる暇なんて、一秒もないような人生を歩んでいたからだろうが。全く、今回は俺までそのスキルに助けられたばかりだというのに。


「だが、お前のおかげで私もまた助かった。感謝する」

ならば、俺が褒めるしかないだろう。隣にいる理由の一つだからな。いつか僅かにでも、彼の生きるための糧になれば良いと。願い、緩く頷きながら立ち上がる。

「……ううん、こちらこそ。俺のスキルでカルさんの役に立てて、本当に光栄だよ」

連れて彼も。立ち上がり、俺の隣に並び立つ。


そうして奥に放置していたブランケットも回収し、ようやく俺たちはこの廃神殿を離れるのだ。

陽光が雲の隙間から顔を出す。そよ風はどこからか、牧歌的な匂いを運んできた。



──何となく。

魔王グリムに出会ったことは話さなかった。

それは、町外れに呼び出された間抜けな理由を知られたくなかっただけなのか。

いまだ、頭の中を駆け巡るあの子からの問いかけ。



「──魔王のころし方を教えてよ!!」



真っ赤な血と共に吐き出された、言葉が忘れられないからなのか。

俺にもまだ、分からない。









ゲーム内の隠された掲示板より抜粋

719 名前:名無しの裏稼業人

おい、また殺されたんだが


720 名前:名無しの裏稼業人

>>719

雑魚乙www

ま、俺もやられたんですけどね


721 名前:名無しの裏稼業人

ツヴァイなんかに、何であんなやべえNPCが出るんだよ。強すぎだろ、どこかのギルドの暗殺者か??


722 名前:名無しの裏稼業人

そもそもの話のネクロマンサーは出てこないが、アレが護衛なんか?それともガセか?


723 名前:名無しの裏稼業人

この辺にいる強いネクロマンサーなんて魔王グリムくらいしか思いつかんし、アレだって最南フュンフまでの目撃情報しか今までの鯖じゃ出てないからな。

怪しいがツヴァイでのイベント考えたら、あり得ない話でもないのが何とも。


724 名前:名無しの裏稼業人

今までも胎動クエストの裏に居たんかね


725 名前:名無しの裏稼業人

>>724

知らね。今までのヤツらも町外ばっかにいただろうしな

てかデスペナきついし、放置でも正直良くね?

どうせ胎動は起こるだろ


726 名前:名無しの裏稼業人

どっかのバカが止めなきゃ進むだろ

わざわざ経験値ザクザクイベントを止める奴なんて、そうそう居ないだろうけどよ


727 名前:名無しの裏稼業人

>>726

14鯖の悲劇を忘れたんか?良い子ちゃんノリ、まじキチ〜

だから俺たちがわざわざ集まってんだろ。ランカーもどうせそろそろ来るしよ。


728 名前:名無しの裏稼業人

あー、はよ襲撃起きねーかね

サクッと便乗してー


729 名前:名無しの裏稼業人

このコメントは削除されました


730 名前:名無しの裏稼業人

>>728

お前がPKKされんのはどうでも良いが、通報される間抜けだけはすんなよカス

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ