表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は、ショタコンじゃねぇっ!!!!!!  作者: 陽日
1章-2節:ブリア王国編-平穏な町ツヴァイ
29/30

26話:アーサー

少し日が傾き始めた頃、ソーリャがたっぷりの肥料をボックスに入れて帰ってきた。近所のおばさま方に頂いてきたらしい。お土産まで貰ってきていて、ちゃっかりしてる。ニコニコと笑いながら、小さな体で腕いっぱいの瑞々しい葉野菜を抱えていた。

ちなみに食べ物はアイテムボックスに一度入れてしまうと、なんか味が落ちるらしい。そんな設定が……!だから肥料だけ入れてたんだな。アインツの町で見かけてた幌馬車とかも、故に活躍するのだろう。


骨粉にするために洗っていた骨は、砕く前に一日天日干しをするらしい。三人でばらっと広げて、畑にも水をやると今日の畑作りは解散となった。

家へと戻っていく二人の子供を見届ける。


その後俺は【騎獣】を求めて、ギルドへと向かった。ツヴァイのギルドで、講習が受けられるんだってさ。簡単な免許みたいだな。

空は茜色に染まり始めており、辺りは帰り道を急ぐ人ばかり。いや、よく見ればフラフラ歩いてるだけのプレイヤーも多そう。彼らの派手な容姿や、統一感のないチグハグな格好はわりと特徴的だ。たぶん、俺もその一人。

金属製のメガネはともかく、ローブの裾から覗く、いかにも冒険者然としたゴツいブーツは、あまり魔法使いぽくはない。

買い替えたいような、これはこれで味があるような。まぁ、要検討だ。


さて、この町のギルドはどこだろう。足元から顔を上げた瞬間、不意に近付いてくる影。おっとと避けようとしたのに、何故かさらにぐいと近付いてくる。避けきれず、肩はぶわりと広げられた羽にぶつかった。

カチャン、と軽い音。羽の先につけられた、どでかい銀細工が軽く揺れる。


「……おや?」


―イベント≪先輩の洗礼≫を開始しますー


視界の右上に突然の文言。

嫌な予感がする。正確に評するなら、ダルイことが起こる確信。頭を軽く下げて足早に立ち去ろうとしたが、その前に男が周りに喧伝するかのような大声をあげた。

「私の美しい羽に傷がっ……!!あなた、何をするんですか!!」


うん。こちらも軽くよそ見をしていたのは悪いが、コイツ当たり屋だな。大袈裟に顔を顰め、大声をあげる彼が俺の腕を掴む。

周りのNPCは関わりたくないという感じで、さぁーっと逃げていったので常習犯なんだろう。というか、いつの間にかプレイヤーの姿がない。イベント空間か。


「……離せ」

捕まってしまった後では、【幻式】は無意味。仕方なくぐいと腕に力をこめてみるが、男の方が力は上らしくこちらも意味がない。

「私にぶつかってきた貴方のせいなんですよ!!異世界人ですか!?だからこの時期は嫌なんです!!」


パサリと翼がはためく。彼の頭上に浮かぶ謎の輪っかが、声の調子に合わせて光り、先ほどから眩しかった。ウカと同じく羽が生えてるが、まだ違う種族なんだろうな。良かった。鳥人に嫌なイメージをつけることにならなくて。草原で上空を飛んでるのを見た種族かもしれない。

嫌だな、あんなにかっこよかったのに。


「……悪かった。これでいいか?」

「良いわけないでしょう!!貴方分かっています!?先輩の冒険者である私に、お前なんかが傷をつけたのですよっ!!貴方、ランクいくつの冒険者です?!」

小物っぽさは一人前。飛ばしてくる唾を、手で払う。

だけど今、最低ランクのGなんだよな。たぶん男よりは低いだろうし、あまり答えたくない。


ギルド証を出さないなら、今すぐにでも衛兵に突き出しますよ!!とキンキン喚く姿を見るに、冒険者には提示義務とかあるんだろう。さすがに。チュートリアルをスキップしてるから、あんまりよく知らないけど。コイツのがよっぽど、突き出されるべき態度じゃないか?


頭を傾げたいが、今はそんな場合じゃない。

せっかく、最初のレメとの衝突では回避した勾留案件が、また正面衝突してきてしまった。しかも、理不尽さまでアップして。そんな増量パック求めてない。

辟易としため息をつけば、その態度はなんです!とヒートアップ。さっき、唾を払ったのは気にしなかったくせに。


あの子たちを、こんなカスに巻き込まなくて済んで良かった。こういうのは傍で聞いてるだけで、うんざりとするものだから。だけど、ウカとソーリャのギルド証だけは今借りたい。

内心で頭をかいてる合間にも話は進む。

「どうせ貴方、Gランクの低能なので、」



「──うるせぇよ、オッサン」


突如、俺たちに向け声がかかった。背後からだ。周りのNPCは皆、遠巻きに眺め逃げていたはずなのに。チラリと振り返ると、そこには青年が一人立っていた。


ヨーリアの兄のアルと同じくらいの、俺より一回りくらい小さな身長。無造作にツクツクと逆立てた金髪は、風にゆらりと揺れている。碧眼は鋭か細められ、剣士なのか肩から担いだ大剣がのぞき、俺たちを威圧した。

「余所者の分際で、町に迷惑かけてんじゃねーよ。冒険者の評判自体が落ちるじゃねーか」


正論助かる。掴まれていた腕のちかが緩んだので振り払って、ゆったり歩み寄ってくる彼を邪魔しないように、そっと端に避けた。

羽の生えた男は、明らかに強そうな新たな男の登場に冷や汗を垂らす。

「……な、なんですか。私は礼儀のなってない新人を、」

「怒鳴り声なんて、聞いてるだけで胸糞わりーんだよ。そもそもテメェからわざわざ意味もなく羽広げて、ぶつかりに行ってただろうが」


鼻で笑い、彼は男に迫る。意外と小柄なのに、気押されて彼の足が一歩下がった。俺も自分に向けられたわけでもないのに、さらに下がりかけてしまう。流石にカッコ悪いので踏み止まった。


詰められてる男は、あ……だの、う……だの呻いてドンドン下がっていく。そのまま「運が良かったですね!」と言い捨てて、ぴゅ〜っと姿を消してしまった。助けられたのか……。


「……感謝す、」

「悪ぃのはアンタもだぞ」

ぐるんと、男が振り向く。想定外の攻撃に、びくりと飛び跳ねかけた肩を抑えた。

「アインツでならともかく、それ以外の町でランク上げもしねぇでほっつき歩いて。自分から絡まれたいって、喧伝してんのと変わらねぇぞ」

そ、そうなのか。男に鼻で笑われてしまった。

てことはこのイベント。適正ランクまで冒険者ランクを上げろっていう、警告用のものだったりするのかも。


サッサと上げる気すらねぇなら、せめて【隠蔽】でもしろってんだ。とため息をつかれては肩身が狭い。ちなみにどちらのスキルも、取得可能スキル欄にはなかった。

調べてる時、無言になってたからか。彼が頭をガシガシとかく。


「あ〜……くそっ……おい、アンタ」


ドン、と胸に何かを押し付けられる。

『友好NPCアーサーを手に入れた』

ひゅっと、呼吸が止まった。この名前。まさか、まさか!

いや、まだ確定するには早い。この名前はありきたり。決して珍しいものではない。


「──今送ったメールの場所の、しみったれた遺跡で出る魔物。弱ぇ割にすげーポイントになるから、ランク上げには便利だし……。面倒くせぇこだわりとかがねぇなら、そこでサクッと稼げばいいんじゃねーの?」

ちらっ……ちらっ……とこちらの様子を確認しながら、彼は大剣のつかをいじる。巻いてた包帯みたいなのが外れて、ゲッと顔を顰めながらも直す仕草はばつが悪そう。だって、まだこちらの顔色を窺っている。


口は良くないが、悪い奴ではないんだろう。

これで彼があの"アーサー"でなければ、なおのこと良いのだが。

「……色々と感謝する。行けそうなら、この遺跡にも行こうと思う」

「好きに判断しろ。あー、だけど……迷って行けねぇとかあるなら、俺が連れていってやっても、」


「アーサー!」

ふと、視界の端に見覚えのある姿。ダッダッダッ!!という音が聞こえてきそうな勢いでこちらへ向かってくるのは、2m近くはありそうなとても大柄な女性だ。重そうなフルプレートを軽々と身に纏う彼女は、

「……ガーヴェか」


リアルに心臓が止まるかと思った。この場にあの子がいなくて、良かった……本当に。これはもう、確定だろう。俺の傍に今いて、先ほど友好にまでなってしまった"アーサー"の正体は。


「なんで貴方はまた、術を使って……!!」

「目の前でうぜぇやり取りをされたんだから、仕方ねぇだろ」

「だからって貴方、自分の立場を分かってらっしゃるのか?!」

「……どーせ俺には関係ねぇよ。この国のいったい誰が、俺が継ぐことになるって考えるんだ」

「私ですが?あとケイや、貴方が今まで助けてきた多くの人々だって、きっと……!!」


うん、すごくコメントしづらい。あからさま過ぎる。もう少し隠せ、と俺は顔を思わず覆った。

まぁ、分かる。ゲームだしね。分かりやすく立場を匂わせるのも、その方が、シナリオの都合的に良いんだろう。知らないけど。

それか俺が怪しんでるせいで思い込んでるだけで、ミスリードだったりするんだろうか。彼自身は悪い人でもなさそうだし、それであって欲しい。


「……と、失礼」

女性がこちらに向き直る。彼女はニカッと笑みを浮かべ、

「たしか、アインツの神殿にもいらした方だな」


今度こそ、現実の心臓まで止まった。


「……どこかで私たちは会ったか?」

が、しらを切る。顔色が変わらない特性を利用するしかなかった。背筋を冷や汗が垂れる。

「ああ、悪い。直接話してはいないな。一度たまたま、私が見かけただけだ」

神殿、といえば炎神の加護を手に入れようとして。別プレイヤーに、目の前で掻っ攫われていったあの日が思い起こされる。

──ヨーリアも、共にいたあの時の。


「……すまない。私は覚えていないな」

「ああ、良いんだ。私の職業病みたいなものだから、気にしないで欲しい」

気にするわっ!!内心叫んでしまうが、もちろん現実で彼女へ突っ込むわけにはいかない。


「ガーヴェだ。よろしく頼む」

「……カルだ」

腕を伸ばされ、ガシッと一回りは大きな手が俺の手を掴む。握手のはずなのに、もはや圧。彼女が想像通りの役割を持つ人間なら、実際にそうなのだろうけれど。きっと俺が警戒してるのも、バレているに違いない。


「さて、知り合って早々で悪いが私たちは行かねばならない所がある。そうだよな、アーサー?」

俺からアーサーの姿を隠すように、巨大で視線を遮る位置に立たれりゃ誰でも気付く。西陽もあって、頭上の彼女の顔はよく見えないが、どんな目線で観察されてるのやら。

女性の奥からは「あー……悪ぃ。さっきの話はまた今度な」と青年の声がするが、先ほどまでと同じ心地で聞いていられない。というか、たぶんその今度は起こらないだろう。


俺は先にあの子たちに出会ったのだから。


またな、と去っていく二人を前に生きた心地がしない。


―イベント≪先輩の洗礼≫をクリアしましたー


イベント名からは想像できないほどの、恐ろしい体験だった。これを恐ろしいと思うのは、もしかしたら俺だけかもしれない。ヨーリアのことまで、あの人にバレていないと良いのだが。

イベント終了と共に、空間も元の場所に戻ってくる。茜色の空は変わらずだが、人々のざわめきが先ほどとは比較にならないほど増え、プレイヤーの姿も戻った。もうどこにも、彼らの姿は見えない。

ほぅ……と胸を撫で下ろす。



「兄さん、大変やったなぁ」

そこへまた突如として声がかかる──が、今度は知っている声。振り返ると、砂利道の少し端の方に見知った姿があった。

カラーグラスの奥、蛇のような糸目でからりと笑う、褐色肌のエルフの男。


「テッド……お前、いたのか」

「おん。ずっと眺めとったで」

ソーリャと出会うキッカケを作ってくれたエルフの商人、テッドだ。今は店をやってないようで、手ぶらでフラッと近づいてくる。


「それなら、声をかけてくれても良かったんだが」

「いややなぁ、兄さん。あんなややこそうな人、関わるわけあらへんやろ」

知り合いがそのややこしそうな人に絡まれてたってのに、随分と冷たい。兄さんなら大丈夫やって信じとったし、なんてわざとらしく付け足してくるが、本心は明らかだ。うすらと浮かべられる笑みに、また頭が痛くなる。


「──それで、お前はこんな場所で何していたんだ」

店仕舞いもしてるようだし、わざわざ立ち止まって眺める理由もなかったろうに。男はいつの間にか取り出した緋色の扇子で、口元をそうっと隠す。

「いややなぁ、兄さんのために決まっとるやん」

「…….私の?」

何かあっただろうか。首を傾げる。


「修繕士、探すんなら実物見てからのがええから」

だから出してくれへん?とまで続けられて、ようやく気がつく。ソーリャが言っていたアテって、彼もそのうちの一人なのか。アイテムボックスから取り出した真っ白な本を差し出す。取り付けられた真っ赤な魔石には、変わらずヒビが入っていた。世界の修復力でも、やっぱり直らないようだ。


「もう知っていたんだな」

「そら、オレとソーリャはんはごっつ仲良しさんやもん。兄さんたちより付き合い長いで?」

それに売った責任もあるしな、と続けられて納得。彼の店で買わせてもらったものだし、確かに。頼る先としては自然かもしれない。


サングラス越しにじっと本を見つめる彼は、さすがに商人というところか。いたく真剣だ。不良品を売ったとなったら、返金とかになりかねないもんな。気になるか。

「……ほんま、パックリ割れとるなぁ」

「ああ。何とかなりそうか?」

「どうやろ。けっこう昔の技術で作られた本やろうし」

下手に現代の直し方したら、ちょいとまずいことになるかも。とのこと。どうやら簡単なことではないようだ。あんな蛇が飛び出してくる本なんて、そうそう簡単に修復できないか。むしろ、して良いのかも分からない。


「まぁ、探してみるわ。ありがとさん」

「こちらこそ。手間をかけるな」

「手間賃はもう貰っとるからええわ」

なんと。俺の本なんだし、俺の懐からも出すべきか?財布を探っていると、それは貰い過ぎになるからと止められた。くっ……後で、ソーリャに直接渡すか。


「それより兄さんら、なんでここ来たん?」

「……冒険者だしな。旅はしたい」

本をしまいながら適当をこく。嘘ってわけではないし、許されたい。まさか元王子や、レメのことを話すわけにはいかないし。


「そらそやな。目的地は?」

「特にないが……別の国も見てみたいとは考えている」

「ほんなら、はよランク上げへんと。全員E以上やないと、出国できへんで」

ほう、良いことを聞いた。怪しいかもしれないヒトは、そら他の国も入国もさせられないよな。冒険者としての実績は、やはり積まないといけないようだ。その分、異世界人を大量に受け入れるこの国の異様さも際立つってもの。


「にしても、あのヒトが兄さんらとパーティ組むとは思わんかったわ」

「──ソーリャのことか?」

おん、とパチンと扇子を閉じながら軽く頷かれる。

「だいたい1年くらい同じトコで暮らしとるから、あのヒト。今回、まだ2ヶ月目とかやったし……まだまだ動く気はないやろって思うてたんよ」

じゃあ、そんなに俺たちのことを気にかけてくれたのか?なんだか、悪いな。色んな騒動にも巻き込んでしまったし、今度お礼に何か振る舞いたい。


「きっと兄さん、色々持っとんやろな。それこそ、あのヒトがごっつ長い間追い求めてたもんとか」

「何かあるのか?」

これだけ迷惑をかけ続けているんだ。ぜひ協力したい。だが彼はヒヒッと笑うだけ。

「知りたいなら、本人から聞いたってや。オレの口からなんてとてもとても」

たしかに。他人から勝手に聞くのは、マナーとしてあまり良くないな。頷くと、彼はピッと扇子で指さす。


「ギルドはあっちやで。はよ行きや」

はっ!!そういえば、【騎獣】をゲットしたかったんだった。ついでにランクも早く上げたい。あんなイベントが発生したのもあるが、まずは国外に出るのを目標にランクEだな。

笑みをはく男へ礼を告げて、足早に歩き始める。


背後ではどんどんと日が沈み、青白い月が登ってきていた。







攻略ページより抜粋

イベント《先輩の洗礼》について

発生内容

①町ごとの適正ランクNPC①に絡まれる。

②NPC②の助けが入り、NPC①は追い払われる。

③NPC②から、ランク等を上げるようにアドバイスが入る。


発生条件

冒険者、または住人ランクが適正以下の状態で町を出歩き、かつステータスを【隠蔽】・【工作】等をしていないと発生。

一度発生した後は、10〜30日以内に条件から外れない限り不定期で発生する。

その期間内に別の町に一度でも入ると、期間はリセットされる。

町ごとの各適正ランクはこちら→


報酬

①イベント後、ゲーム内3日間は各ランクを上げる際に必要となるポイントに、10%のブーストがかかる。

②NPC②が友好NPCとなる。

※2回目以降、報酬②は発生しない。


補足

特になし


コメント(19件)

・このイベントうぜー。このゲームの自由度、確実に損なってるわ。


・これ、王族と友好NPC以上だと確定でアーサーが助けにくるらしい

↪︎嘘乙。どうやって検証したんだよ。

↪︎貴縁なしで会えるわけねーだろ

エセ関西弁のような何かです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ