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90 騎士団との対決

 二人の騎士の模擬戦が終わり、戦っていた二人は扉の前に立っていたグロウ達を見て僅かに驚いたと言った表情を浮かべるも、直ぐに表情を引き締め直してネムと紹介された女性のみがグロウ達の前に近づいてきた。


「アンタたちが今日の演習相手のグロウ達だね! アタシの名前はネム! よろしくな!」


 ネムはにかっと笑みを浮かべて、グロウ達に手を差し出してくる。彼女はドワーフ特有のナケアよりも小さな体躯に、髪を戦闘の邪魔にならない様短く切りそろえているのもあって、まるで年端もいかぬ少年のような雰囲気を持っていた。


 グロウ達はネムの手を取り、順番に挨拶をしていく。


「グロウ=ザカートだ。冒険者をしている。今日はよろしく頼む」


「ボクはナケアだよ! よろしくね!」


「エリカです。その、よっ、よろしくお願いします!」


「……ルピナ」


 グロウは淡々と、ナケアは元気よく、エリカは緊張気味に、ルピナは騎士を警戒しているのかタマモを抱きエリカの背に隠れるように自己紹介を終えると、ネムはうんうんと上機嫌な様子で頷いていた。


「本当に全員人間離れしてるんだな。特にグロウとナケア、それにルピナは別格か。それにエリカも、ウチの隊員よりよっぽど強そうだな」


「触っただけで分かるのか?」


「ああ、アタシはドワーフだけど遠い先祖に巨人族が居たらしくてね。アタシは先祖返りとでも言えば良いのか、触っただけで相手の大まかな力が分かるんだ」


『巨人族』は、西の大陸に住む巨大な体躯を持った者達で、魔法を使える者は少ないが、その代わりに肉体が”人類”と定義される全種族の中でも随一と言われる屈強な戦士だ。そう言えばセルゲンレイクのギルド支部長であるリックも巨人族の血が流れていて、同じことが出来たなとグロウ達は納得する。


 そして誰も、人類と定義されている中で体が妖精族(フェアリー)に次いで二番目に小さいドワーフと、一番大きな巨人族の血がどうして混じっているのか、と言うよりどうやって混じったのかと突っ込むことはしなかった。


「演習の件はクライヴから聞いてるよ。それじゃ早速で悪いんだけど、取り合えず私の隊と四対四で戦ってみてくれないかな?」


 ネムは申し訳なさそうに、グロウ達へ向けてそんな提案を持ちかける。


「うん? どうしてそんなに急ぐ必要があるんだ? できれば、まずクライヴに会って今日の予定と昨日の報告を聞いておきたいんだが?」


「それなんだけど、今クライヴは国中を飛び回っていてここにはいないよ。この国には自由に転移を使える奴がクライヴしかいないから、これ以上他国からちょっかい懸けられる前に昨日の報告を国中に散らばってる副騎士団長達に報告して回ってる。戦ってほしい理由は、騎士団の中にはまだ君たちの実力を疑ってる奴らが居るからだよ」


 あははと頭を掻きながら、ネムはこちらの様子を伺っていた騎士たちにちらりと視線を向けた。グロウ達もネムにつられて騎士たちの居る方向へ視線を向ける。今この訓練場にいる騎士の数は、凡そ50名と言ったところだ。その内の数名が、グロウ達を胡散臭げな表情で睨みつけていた。


「あいつらは最近入ってきた新人でね。ある程度経験を積んだ奴は、君たちの身のこなしを見ればアタシ程じゃないにしても相当の実力者だって分かるから油断したりしないけど、新人は自分がこの騎士団に入れたって舞い上がってたり、自分は誰よりも強いって変なプライドを持っちゃう事が多いんだよ……」


「それで、所詮無名の冒険者である俺たちが奴らに勝って、プライドをボロボロに砕いて欲しいと?」


 騎士の二人をダンジョン攻略のために借りる条件にそのことは聞いていたので、グロウは特に驚くことなく聞き返すと、ネムが後ろの騎士たちをちらりと見て慌てていた。


「そこまでは言ってないよ!? あくまで少し頭を冷ましてほしいってだけだからね!?」


 こちらの会話が聞こえているのか、先程からグロウ達を睨みつけている騎士たちの視線が、より一層鋭くなる。


 そんな騎士達の様子を見て、グロウは他人が見ても気付かないくらい僅かに、ニヤリと口角を上げた。そしてグロウの様子に気が付いていたエリカは、グロウがこうして笑う時は大抵碌な事にはならないと知っており、静かにため息を吐いた。


「了解した。しかし、四対四では少しつまらないな」


「そう? でも幾ら君達が強くても半分は子供だし、あいつらも新人とは言えこの騎士団に入れるくらいには強いよ? 君達が負けるとは思って無いけど、これ以上人が増えると流石に厳しいんじゃないの?」


「問題ない。例えこ(・)の(・)場(・)に(・)い(・)る(・)全員が相手でも、俺たちが勝つからな」


 グロウの声が訓練場内に響く。その瞬間、訓練場内に濃密な殺気が溢れ出した。その中でも特に濃密な殺気を生み出している元凶は、目の前にいるどう見ても十歳に満たない容姿を持つネムだ。


「この場にいる全員って事は、当然アタシも含まれているんだよね?」


「勿論だ。ネムも後ろにいる騎士達も、全員一度に来てくれて構わない」


 一般人なら当てられるだけで気を失いかねない濃密な殺気が漂う中、グロウは表情を全く変えずにそう言い放つ。


「君たちの実力は、大まかだけど触った時に分かるって言ったよね? グロウ君は確かにアタシより強いし、それはナケアも同じ。力ならアタシの五倍くらいあるし魔力もこっちの魔術師の数倍はある。ルピナは力は普通の子供くらいしかないけど、魔力だけならウチの副団長どころか宮廷魔術師長とも比べるだけバカバカしくなるくらいあるね。君たちの中では正直パッとしないエリカでも、ウチの団員よりは強いと思うよ」


 ネムの言葉に、グロウは心の中で称賛を贈る。確かに、今のグロウとナケアは魔法で龍の姿から人間の姿を取っている関係で、質量が大幅に小さくなり力は弱く、人の姿を維持するために魔法を常時発動しているので魔力も少なくなり、ネムの言う通りくらいの実力まで力が制限されていた。


 魔王であり膨大な魔力を持つルピナも、単純な身体能力は寧ろあまり外で遊ぶことをしないため、普通の子供より低いかもしれない。ルピナが戦おうと思っても、直ぐに体力が尽きてしまうのが目に見えている。


 エリカはまだ、グロウが剣と魔法を教えるようになってから一年も経っていないのだ。それでもグロウが学校に臨時で勤めるまでは、ほぼ一日中付きっきりで戦闘技術を教え、今でも暇さえあればグロウの課す鍛錬をしている。全力で戦えば一対一ならこの場にいる中でネム以外に負けることは無いだろう。しかし、所詮はその程度。普通に戦えば、騎士が二人以上いた場合勝つことは難しい。


 幾らグロウとナケアが規格外であり、ルピナが強力な魔法が使え、エリカが騎士以上の実力を発揮しようと、副隊長含め50人はいるこの場の騎士を全員相手取ることは不可能であり、それでも余裕を見せて可能だと言い張るグロウに、騎士たちが良い感情を持つはずもなかった。ともすれば侮られていると思い、ネムが殺気立つのも無理は無いだろう。


 更にグロウ達がドラゴンであり、ルピナが元魔王であると知っている者は、生憎この場にはいなかった。その情報を知っていたのは、偵察任務を受けて実際にその力を目撃したクライヴ達と、報告を受けた騎士団の副団長だけだったのだ。


 殺気を当てられても微動だにしない四人(+一匹)を見て、ネムはふうっと殺気を解き訓練場の真ん中に歩いて行く。


「分かった。まあそれでも君たちの戦う姿を見れば実力は分かるだろうし、分かるまでアタシが出なきゃ良い。ニール君、《仮想戦場》を持って来てくれるかな?」


 訓練場の真ん中まで移動したネムは、ここまでグロウ達を案内してきた騎士(ニールと言うらしい)に指示を出す。

 指示を出されたニールは、一度訓練場を出ると直ぐに手に魔法陣が掘られた多面体の魔道具を持って戻ってきた。


 ニールはその多面体をネムに渡すと、訓練場から出て行く。どうやら彼は戦闘員では無いらしい。


「この魔道具は《仮想戦場》と呼ばれる魔道具でね、任務で過去の遺跡を調査していた時に偶々見つけた物なんだ。この魔道具の効果は、この世界とは別の世界を生み出すことが出来ると言う物。この魔道具の中では例え死んだとしても、この魔道具の効果が切れれば即座に何もなかったことになるんだ。凄いよね、昔の文明にはこんな物がゴロゴロしてたんだって」


「あれっ? あの魔道具、グロウさんとの特訓中に見たことがあるような……?」


 エリカがネムの持つ魔道具を見て首を傾げている。そしてグロウは、その魔道具を見てこの騎士団がどうして世界最強の騎士団と呼ばれる程強力な力を持つに至ったのかを把握した。


「なるほど、確かにその魔道具があれば、幾らでも死ぬまで訓練が出来る。実際に剣で斬り合う実戦は普通訓練では出来ないが、その魔道具があればそれも可能だ。実戦に勝る経験も無いのだから、何時でも実戦ができるその魔道具が有れば、ここまで強力な騎士団を作れたことも納得だな。まあでも、その魔道具は中で起きた事を記憶以外は全て無かった事にしてしまうから、結局外で鍛えないと強くはなれない。一概に全てその魔道具のお陰とは言えないか」


「おや、随分この魔道具について詳しいんだね?」


 ネムが不思議そうにグロウを見る。実際に、グロウはこの世界にいる誰よりも、その魔道具について詳しい自信があった。


 それもそのはず。何故ならば、その魔道具はグロウが今から五百年前に作り出した魔道具だったのだから。勿論、その魔道具はエリカの実践訓練の時には自分で作り出したものを大抵使用している。


 元は冒険者ギルド内でライバルの冒険者との喧嘩が後を絶たず、それならとことんやれという事でギルドから依頼を受けて作ってみたのが始まりの、後に軍の訓練などで有用と判断され国の軍事力を一気に上げてしまった結構自信作の魔道具だ。


 設計図を科学者に公開したらいつの間にか娯楽用の魔道具(ゲーム機)になっており興味を無くしていた魔道具だったのだが、五百年の時を経て本来の使われ方をされている魔道具を見ると、グロウは感慨深い気持ちになっていた。


「その魔道具を持ち出すという事は、勝敗はそ(・)う(・)言(・)う(・)事(・)だよな?」


「そうだよ。遠慮なく、君たちの力をアタシたちに見せてよ」


 ネムが魔道具を起動させると、魔道具に刻まれていた魔法陣が眩い光を放ち始めた。


「五分だな」


「え?」


「五分で全員仕留めてやる」


「ふふっ、面白いことを言うね?」


「まあ見ていろ」


 魔道具が起動して数秒後、この訓練場に複雑な魔法陣が幾つも浮かび上がり、訓練場に居た全員が姿を消した。



 ◇



 三分後――


 訓練場には、無傷で立っているグロウ達四人(+一匹)と、手足を放り出して息も絶え絶えに寝転がっている騎士たちがいた。


「五分かからなかったな」


「うぅ……ねえ、おかしいよね? 何で君達全員、そんなに余裕があるのかな?」


 死屍累々となった訓練場内で、いち早く起き上がったネムがジト目を向けてグロウ達に詰め寄る。


「何故って、あの魔道具は全く別の空間に作られた自分をリアルタイムで操作する魔道具だ。全く別の肉体を操作している訳だから身体的なダメージは無いが、その肉体を作る為には本人の魔力を使う。本来ならその魔力は魔道具の効果が無くなったと同時に本人へ還元されるが、完全な消(・)滅(・)となると魔力が霧散して還元できなくなるんだ。だから、今お前たちは魔力をごっそり持っていかて動けず、俺たちは無傷だったから全く問題ないって訳だな」


 そう、グロウ達は、一度も騎士達から攻撃を受ける事無く騎士を全員倒して見せたのだった。どうしてそうなったのかと言うと――


 まず魔道具が起動してからグロウ達が魔道具によって作り出された空間に降り立つと、その場所は本当にただ広いだけで何もない、平坦な地形が広がっていた。


「これは、俺が最初に作り出した幾つかの試作機の内の一つか。そう言えば、試作機はどうせ要らないと思って実験室の地下貯蔵庫に死蔵していたな。地下深くにあったから、空白の時代で壊されずに済んだのか」


 グロウが一人で懐かしそうにその景色を観ていると、ナケア達に続いて騎士達も続けて出現し出した。


「あれ? グロウさん、あの魔動具の中ってこんなに殺風景な場所でしたっけ? 私の時は、確か火山と氷山が合わさったこの世の終わりみたいな場所だった気がしたんですけど……?」


「これは試作機だからな。何も用意してないが大規模魔法の実験のために広さだけは確保してある」


「こんな場所もあるのなら、せめて最初くらい立っているだけで死ぬような場所にしなくても良かったですよね……」


 エリカは殺風景な景色を見て、力なく項垂れる。その隣では、ナケアとルピナが興味深そうに殺風景なこの場所を見つめていた。


 そうしていると、騎士の中からネムの声が聞こえてくる。因みに姿は見えていない。


「これからアタシたち対グロウたちの演習を始めるよ。ここから出る条件は、どっちかが全滅すること。それじゃあ、始めよっか!」


 ネムの合図で、最初にグロウ達を睨みつけていた騎士達が動き出した。流石にシルト騎士団に入るだけあって、その動きは今まで見て来た相手よりも素早い。


 騎士は左右に分かれるように移動すると、剣を構えて全員微妙にタイミングをずらしながら接近してくる。

 騎士の目には、騎士となった自分たちが負ける訳が無いと言う絶対的な自信と、嘗められたことに対しての怒りが込められていた。


 その騎士達の接近を油断なく観察しながら、グロウはエリカに視線を送る。それだけでエリカはグロウの意図を察したのか、頷いてエリカに近い右側の騎士に向けて剣を構えた。


 今斬りかかって来ている騎士の数は全部で四人。右に二人、左に二人。騎士の剣が、エリカとグロウに当たるところまで接近されると、二人は同時に後ろへ跳んだ。


【魔剣召喚:火精霊の刺突剣】


【魔剣召喚:陽光の剣】


 グロウは突きに特化した赤い柄の片手剣を、エリカは黄金の輝きを持った片手長剣を騎士たちの目の前に召喚する。


「「何っ!?」」


 最初に勢い良く切り込んできた騎士の二人は、その勢いを殺し切る事が出来ずに目の前に召喚された剣に突っ込み深い切り傷を作っていた。


「ほう、咄嗟に致命傷は避けたか。良い判断だな」


「あまり我々を嘗めるなぁ‼」


 小馬鹿にしたようなグロウの口調に、四人の騎士は激昂して再度グロウ達に斬りかかる。その瞬間、四人の騎士の動きがピタリと止まった。


 そして、そのまま右側の騎士は二人纏めて胸に小さな赤いシミを作り、左側は右側の騎士を巻き込みつつ爆発を起こして、光の粒子となって消えて行く。


【魔剣技:流水弾】


【魔剣技:魔素爆発(イクスプロシオン)】


 右側の騎士の後ろには、いつの間に移動したのかエリカが剣の切っ先を騎士の心臓に向けていた。手に持った剣は、僅かに美しい水色の光沢を放っている。


 左側の騎士のいた場所の前にはグロウが立っており、グロウの前には焼け焦げた地面が広がっていた。少し前まで持っていた赤い柄の片手剣が、爆心地となったその場所に転がっている。そしてグロウは、地面を一瞥すると何が起きたのか理解できず、呆然とこちらの様子を見ている騎士達に向けて口を開いた。


「嘗めているのはお前たちの方だ。どうして俺とエリカしか狙わずに、ナケアとルピナを無視している?」


 グロウがそう言った時には、既にナケアとルピナの準備は完了していた。ナケアとルピナの周りに、本来であれば見えるはずもない魔力が、可視化できるほどの密度でもって渦巻いている。


【付与魔法:全能力上昇(フルブースト)】【付与魔法:魔力上昇(マナブースト)】【付与魔法:高速詠唱(クイックスペル)】


『白の世界と黒の世界、混ざることの無い世界が混ざる時、世界は混沌の時代を迎える。混沌を告げる鐘の音は、きっと幸せな破壊を齎すだろう。そして世界の壊れる音は、幸も不幸も無い虚音』


 ナケアの魔法によって、通常よりも数倍速い速度で、ルピナの魔法が構築されて行く。


【終焉魔法:虚無の起源(ラグナログ)】


 そしてルピナの魔法が完成したその時、普段の数倍にまで威力が上昇したルピナの魔法の範囲内に居た全ての騎士が、等しくその場から一瞬の内に消滅した。


 この時点で残っていた騎士は、様子を見ようと後ろに下がっていたネムを含む、騎士団の中でも実力のある猛者のみとなっていた。


 五十人近くの騎士が一瞬で消滅したことで、騎士たちはグロウ達の実力を見誤っていた事を悟り、射殺さんばかりの気配を纏ってグロウ達と対峙する。しかし、ナケアによって全能力上昇(フルブースト)されたグロウとエリカが連携しつつ騎士と対峙し、結局残った騎士も、三分以内にグロウとエリカが動きを止めている間に準備されていた二発目のルピナの魔法で、あえなく消滅したのだった。

漸く騎士団と対戦出来ました! 次は個人戦ですかね


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