91 副団長トレーフル
投降遅れましたすみません(>_<)
少しの間体調を崩しておりました……
私はもう治りましたが、皆様もどうか風邪などにお気を付けて下さいね!
「うぅー! くやしいー!」
グロウ達に負けた副隊長であるネムが、訓練場で地団駄を踏んで悔しがっていた。そうしていると、ネムの容姿も相まってナケアと同年代の少女にしか見えない。少なくとも、世界でも屈指の騎士団に所属している騎士には見えない。
「悔しがることも無いだろう。まさか、俺たちの攻撃を凌ぎきるとは思わなかった」
あの時、最初に放ったルピナの魔法で倒されなかった騎士たちは、元々グロウとエリカで対処する予定だった。
【念話】による相手にバレない形での迅速な意思疎通。身体能力が落ちているとは言え、聖龍付与魔法によって強化された二人。これだけあれば、相手に十分な策を考えさせる前に制圧するとグロウは判断していた。
しかし、結果はグロウとエリカでも騎士団員を制圧し切る事が出来ず、二人で相手の行動を制限しつつルピナの魔法で纏めて倒すと言う手段しか取れなかったのだ。
特にネムは、エリカでは逆に倒されていた可能性すらあった。身の丈を超える大剣を自由自在に振り回し、周りに他の騎士が動き回っていると言うのに他の騎士には大剣が掠る事すらない。それどころか、他の騎士を目くらましにグロウ達へ接近し、反撃すらしてのけた。
少なくともシルト騎士団は、グロウの予想を大きく上回る優秀な人材も多くいるらしいと、グロウはシルト騎士団の評価を数段階上げることにする。
だがしかし、それでもネムは納得できないと頬を膨らませてグロウを睨みつけた。
「凌ぐことしか出来なかったんだよ!? しかもたった二人を相手に! こんなにボロボロに負かされたの入団初日以来なんだからねっ!」
「ははは、それは仕方ありませんよ。本気になったグロウさん達に勝つには、騎士団全員を引っ張り出しても足りませんから」
ネムがグロウに向けて愚痴を言っていると、この訓練場の中に聞き覚えのある声が響いてきた。声の聞こえてきた方向に、グロウたちは視線を向ける。視線の先には、グロウ達が想定していた人物であるクライヴの他に、二人の女性が並んで立っていた。
「皆さん、お久しぶりですねぇ。お変わりないようでぇ、良かったのですよぉ」
片方の女性は、聞き覚えのある特徴的なのんびりと間延びした口調で、グロウ達に手を振っている。その女性はシルト騎士団副団長、リリー=マクファーレンだった。
「リリーちゃん、それではこの人達が報告にあった、グロウさん、ナケアさん、エリカさん、ルピナさんですか?」
リリーの隣に建っていた女性は、グロウ達には見覚えが無い女性だった。しかしリリーと親しそうなことから、騎士団の関係者なのだろうことは推測できる。
グロウ達が見覚えの無い女性に向ける視線に気が付いたのか、その女性はグロウ達に向き直るとニコッと上品な微笑みを浮かべて頭を下げた。
「皆さんお初にお目にかかります。私は僭越ながら、シルト騎士団副団長を務めております。トレーフル=マクパージュと申します。どうか今後とも、よろしくお願いしますね?」
トレーフルと名乗った女性は若草色の長い髪は後ろで纏められ、身長はリリーとあまり変わらなかったが少し下がった目尻に落ち着いた雰囲気が合わさり、何とも言えない安心感を相手に与える印象の女性だった。
「副団長だったのか。グロウ=ザカートだ。よろしく頼む」
グロウに続いて、他の三人も自己紹介を済ませる。全員の自己紹介が終わった頃には、これまでずっと黙っていたネムが慌ててトレーフルに駆け寄った。
「トレーフル様! それにリリー様までどうしてここにっ!? 国境警備の任はどうなさったのですか!?」
「うふふ、それならちゃんと他の隊に任せて来ましたよ。随分私たちの守るこの国で好き勝手してくれたようなので、私たちよりもちょっと過激な隊と引き継いで来ました」
「あの国には随分と犯罪組織が蔓延っていたみたいだったのでぇ、どうせならすこ~し捕縛にも手伝ってあげたのですよぉ。ついでに犯罪組織と繋がってた貴族やぁ王族とかもぉ、大量に摘発してやりましたぁ」
「国が犯罪組織と繋がっていたことは二大国の国民には知らされていませんでしたからね。現在、二大国は両国とも内乱一歩手前の状態になっていますが、まあ自業自得でしょう」
「お前ら、随分と自由なんだな……」
まるで何でもない事の様に、三人の騎士は平然ととんでもないことを口走る。グロウの聞いている話では、王女の誘拐事件が起きたのは昨日の事であり、その事はまだこの国の国王にすら伝わっていないらしい。
国王に内緒で他国に手を出して良いのかとも思うのだが、騎士団の連中ならばバレないようにうまく立ち回っているのだろうと、グロウは謎の信頼を感じてそれ以上は何も言わないで置くことにした。
「それで、どうしてお前たちがここにいるんだ? 幾ら他の隊に仕事を任せてきたとしても、後始末くらいは残っているんだろ? わざわざここに来る必要は無いんじゃないのか?」
「そうなんですよ。私もリリー様とトレーフル様にそう言ったのですが、お二人ともグロウさんたちに会いたいと聞かなくてですね……」
ため息を吐き肩を竦めて、クライヴは力なく笑う。これは、相当そこの二人の我儘に振り回されたのだろう。恐らく、我儘のほとんどはリリーが言ったに違いない。
「折角今日は皆さんが遊びに来ると聞いて楽しみにしていたと言うのにぃ、あいつらのせいで余計な仕事が増えてしまったのですよぉ。ちゃんと引継ぎまでの仕事はしたんですからぁ、ご褒美くらいあっても良いと思いませんかぁ?」
「私もグロウさん方にはお会いしてみたく思っていたのです。多少の迷惑には目を瞑って頂きました」
「はぁ、リリー様が来るといつもトレーフル様までつられてふざけるんですから、少しは自重して下さいよ……」
騎士団の副隊長は、全員上司に振り回される運命にでもあるのだろうか。クライヴに引き続きネムまで、諦めた様子でため息を吐いた。
「それでぇ、グロウ君たちも準備運動は終わったところの様ですしぃ、次が本番という事で私たちとも遊んでください~」
シルト騎士団の一隊と戦った後だと言うのに、それを準備運動と言い放ったリリーは、そのまますたすたと訓練場の中央へ歩いて行き、地面に転がっていた《仮想戦場》の魔道具を持ち上げる。
「私たちも丁度四人いるので~、四対四で良いですかぁ?」
「あれっ? それってもしかしてアタシも人数に入ってますか?」
「まあ良い。最近は手ごたえの無い相手が多かったからな。それにその魔道具の中でなら多少の無茶も効く。良い特訓になるだろう」
「あの、もしかして私、無茶をやらされるんですか……?」
ネムとエリカが悲痛な顔を浮かべてグロウとリリーを見つめていたが、グロウとリリーは話し込んでいるのかその視線には気が付かないまま、話はどんどん進んで行く。
「最近の団員は少し質が下がって来ていてぇ、確かに団員は全員一騎当千の実力はあるんですけどぉ、その力のせいで驕ってしまうのですよねぇ」
「その魔道具は兵の訓練に最適だからな。精神が育つ前に周りの人間よりも強くなってしまう事が多いのだろう。上には上が居るという事を思い知らせれば、多少はマシになるんじゃないのか?」
「それはさっきの戦いで充分でしょう。ルピナさんの魔法、感服いたしました」
グロウ達の話にトレーフルまで加わり、模擬戦は最早確定事項となったことを悟ったエリカとネムは、二人そろって遠い目をしていた。
「エリカちゃんだったよね? 君も大変なんだね……」
「ネムさん……ネムさんもご苦労様です……」
エリカとネムの間で友情の様な感情が産まれつつある中、唐突にリリーとトレーフルがグロウ達から少し離れて、腕に付けていた腕輪を掲げる。
「どうせならゆっくりとお話を聞いてみたいところですが、私も我慢できなくなってきました。そろそろ始めるとしましょうか」
「私たちは全力で戦いますがぁ、グロウ君とナケアちゃんはくれぐれも全力は自重して下さいねぇ?」
そう言うと、二人は腕輪に魔力を通す。
「「換装!」」
二人がキーワードを口にした瞬間、二人の体を光が包み込む。そして直ぐに光が収まると、二人の装いは光が包み込む前と全く別の、全身を一目見ただけで一級品と分かる鎧が覆っていた。
リリーは淡い赤色の光沢を放ち、最低限の急所を守っている動きやすそうな鎧に身を包んでいる。
そしてトレーフルは、全身を覆う甲冑を身に纏い、手には中心に濃緑色の宝石が埋め込まれた、体がすっぽりと隠れるほどに巨大な大盾を持っていた。更に背中には、木の枝が巻き付いているかのような特徴的なデザインの槍を背負っている。
二人の身を包んでいる鎧からは、濃密な魔力を感じた。恐らくは二つとも、高難易度のダンジョンから入手した装備品なのだろう。
五百年前でも滅多にお目に掛かれないような、上等な装備品。今まで見て来た冒険者では、とても入手することの出来ないその装備品は、しかし二人がその性能を持て余している様には見えない。
「それじゃあ、始めるのですよぉ」
二人の準備が整った頃、リリーは手に持っていた《仮想戦場》の魔道具を起動した――
全話で個人戦をやると仄めかしたな。あれは嘘ですごめんなさい!m(__)m
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