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76 ダンジョン

一週間が光の速さで過ぎて行く……

ここからは暫くエリカ視点で物語は進行して行きます。

 クライヴさんが転移魔法を発動させると、一瞬にして目の前の景色が切り替わった。


 先程まで温かい雰囲気で包まれた木造の教室にいたはずだと言うのに、私の目の前にはごつごつとした岩肌が広がっています。


 グロウさんも転移の魔法は使えるらしいのですが、普段は特訓と言って移動の際は緊急時では無い限りどんなに距離が離れていても走ったりして体を動かすので、二度目の転移だというのに移動した気がしなくてどうにも慣れません。


「えっと、ここがCランクのダンジョンですか?」


 私は取り合えず、近くにいるこの転移を発動させた張本人であるクライヴさんに確認するために話しかけます。


 少し前までは、この国どころか世界中で知られているシルト騎士団の騎士様とこうしてお話しできるなんて夢にも思っていませんでしたが、グロウさん達と一緒に過ごしてきたからでしょうか?

 グロウさんと出会う前ならばまず絶対に騎士様の顔すらまともに見れなかったと思いますが、今では結構普通に話すことが出来るようになりました。


「ええ、ここが王国でも屈指の難易度を誇る上級ダンジョン。通称『蛇鬼迷宮』です。鬼が出るか蛇が出るか。発見される魔道具や魔物の素材は性能が良く高値で取引されていますが、その分出現する魔物は強力であり、ハイリスクハイリターンのダンジョンとなっています」


 クライヴさんは優し気な笑みを浮かべながら、丁寧にダンジョンの特徴を私たちに説明してくれます。

 説明を聞いていると、女子生徒の何人かはクライヴさんを見つめて顔を赤くしていました。確かに、クライヴさんは優しそうでシルト騎士団に所属するほどに強く、街を歩けば女性が思わず振り向いてしまうほどきれいな顔立ちをしています。


 エルフという種族は私もクライヴさん以外に見たことはありませんが、全員見目麗しい外見をしているそうなのでついつい見てしまう気持ちは私もよく分かりました。


 グロウさんの授業を受けているので、皆さんは既に大人顔負けの魔法を扱う事が出来ていますが、こうして見ると皆さんも普通の女の子なんだなと少し安心します。


 そう言えば、この前フィオナちゃんやブレンダちゃんに誘われて街にあるおしゃれなカフェに行ったことがありましたが、あの時も二人は私とグロウさんの関係を頻りに聞いて来ていましたね。


 私とグロウさんとの関係は、弟子と師匠であって男女のお付き合いなどはしていませんし、恐らくグロウさんも私の事は一人の弟子としか見ていないでしょう。


 そう思うと少しもやもやとした気持ちが私の中に生まれましたが、この気持ちが何なのかは私には分かりません。でもグロウさん達と過ごす日々は、お父さんが生きていた時とはまた違いますが幸せで楽しいので、分かりたいともあまり思わなかったりします。


「このダンジョンに出現する魔物の中には、高い知能を持った魔物もいますので警戒は忘れないようにしてくださいね」


「「「「「はーい!」」」」」


 私が少し考え事をしている内に、クライヴさんの説明が終わりました。生徒たちの、ダンジョン内では似合わない明るく元気な返事が響き渡ると、ダンジョンの先で魔物が蠢く気配を感じます。


 ここまであまり喋っていなかったヴォルグさんの眉がピクリと上がったので、ヴォルグさんもこの気配に気が付いているのでしょう。クライヴさんが説明などをして生徒たちに気を使っている内は、ヴォルグさんが周囲の警戒をしているのでしょうか。


「知っていると思いますが、このダンジョンでは【帰還(リターン)】の魔法は使えません。ここから出るにはこのダンジョンを攻略する必要がありますので、そろそろ進むとしましょうか」


 クライヴさんが前に進むと、生徒たちはその後を追って慌ててついて行きます。ダンジョン内では、迷子になると流石に生徒だけでは生存が難しくなってしまうので、そこだけはグロウさんから注意しろと言われています。


 私も皆さんを見失わないように、ナケアちゃんとルピナちゃんを連れてダンジョン内の奥へと進んで行きました。


「【速度上昇(ハイクイック)】【魔力上昇(マナブースト)】エンチャント」


「ナイスだフェン! 後は俺が決める! 【炎刃】!」


 フェンちゃんの魔法で強化されたトニー君が、持っていた剣に炎を纏わせて目の前に現れた大木よりも太い胴体を持つ大蛇の首を切り落とす。


 大蛇の切り口からは沸騰した血液が流れ、周囲は濃厚な血の匂いが充満していきました。しかし直ぐに、大蛇の存在していた痕跡は一つの魔晶石と何本かの牙に姿を変えます。


 今回のダンジョン攻略では、クラスの生徒たちは全員魔法を使う為、前衛が誰もいませんでした。その為、今回はトニー君とハロルド君とサム君の三人が一時的に剣を持ち、前衛になってくれています。


 グロウさんはこういう時の事も考えていたようで、武器に魔法を纏わせることはクラスの全員が出来るようになっていますし、適正職業では無いのでそこまで上手という訳ではありませんが、希望者には剣術なども教えていたので、三人はフェンちゃんの付与魔法(エンチャント)と合わされば充分前衛として動けていました。


「二重付与(デュアルエンチャント)、それも無詠唱で……!? そんな事、空白の時代でとっくに途切れた技術の筈なんですが……?」


「皆さんはグロウさんの生徒ですよ? それにフェンちゃんは魔術師の中ではトップクラスの才能を持っているそうです。あのくらいの事なら、一ヶ月経つ前に覚えてしまいました」


 クライヴさんとヴォルグさんのお二人が、フェンちゃんやトニー君の魔法を見て目を丸くしています。


 フェンちゃんが初めて二重付与を発動させた時は私も驚きました。私は今でも二重付与は少し時間が掛かってしまい、戦闘中にはあまり使う事が出来ないのですが、フェンちゃんは初めて使った時でさえ私よりも早く二重付与を施してしまいました。


 魔法に関しては魔法剣士である私よりも、魔術師であるフェンちゃんの方が強力だという事は知っていますが、いざ目の当たりにすると少し自信が無くなってしまい、その才能に嫉妬してしまったことを覚えています。


 生徒に嫉妬するなんてと思うかもしれませんが、私はまだ15歳で生徒の皆さんとはそこまで歳は離れていません。

 そのお陰で生徒の皆さんとはまるでお友達の様に仲良くさせてもらっていますが、歳が近い分やっぱり思うところがあるんです。


「確かに、グロウさんの生徒ならこのくらいはやる、んですかね? 現時点で、皆さん既にシルト騎士団の見習いにいても不思議じゃないくらいに育っているのですが……」


 まあグロウさんですから、と私は苦笑いを浮かべて、嬉しそうに今狩った大蛇の素材を拾っている生徒たちの元へ向かいます。途中に生徒たちを見ている魔物が居たので、陽光の剣を抜いて頭を落としておきました。生徒たちに教えるために、このくらいのサポートはグロウさんも許してくれると思います。


「皆さん、素材を集めるのは良いですが、何人かは周囲の警戒に当たるべきです。魔物は血の匂いに敏感な個体が多いので、こうして魔物を狩った後には魔物が集まってきちゃいますよ?」


「あ、そうだった! って、エリカ先生、その魔物はどうしたんですか?」


「さっきの魔物の血の匂いで近づいて来ていたんでしょう。今は私が倒しましたが、警戒してないとガブッと噛まれちゃってましたね」


 私が頭を落とした魔物は、私の身長くらいの長さを持つ黒色の蛇でした。この洞窟には主に蛇型の魔物と、オーガなどの鬼型の魔物が多く生息しています。


 この蛇は、探知魔法で分かる魔力の反応からして毒蛇の様ですね。生徒たちが噛まれなくて良かったです。


「ブラックヴァイパー、高い潜伏能力と強力な毒を持つ、このダンジョンでも特に厄介な魔物の内の一匹何ですが、まあエリカさんもグロウさんのお弟子さんですもんね……」


「これ、俺たちの案内必要なのか……? 俺、まだ一度も仕事をしていないんだが……?」


 騎士のお二人が何か話しているようですが、生徒たちの声にかき消されて聞こえませんでした。まあ重要な話なら生徒たち全員に聞こえるように言うはずなので、今回は特に重要な話では無かったのでしょう。


「お姉ちゃん、ボクとルーちゃん、このダンジョン探検してきても良い?」


 生徒たちに警戒の重要性を説明していると、近くにいたナケアちゃんとルピナちゃんがダンジョンの奥を指さして上目遣いでお願いをしてきます。


 ううっ、そんな目で見つめられると、ついつい無条件でお願いを聞いてしまいたくなってしまいますね……


 確かにナケアちゃんとルピナちゃんは、最近あまり構ってあげられませんでした。ナケアちゃんには私の特訓に付き合って貰ったりもしていましたが、育ち盛り(?)であるナケアちゃんとルピナちゃんにとっては遊び足りなかったのでしょう。


 それに今回のダンジョンでも二人は余り手を出さないようにグロウさんから言われているので、あんまり自由に動く訳にはいきません。


 でも、生徒たちの邪魔にさえならなければ問題ないですよね。


「分かりました。でも、私の探知できる範囲からは出ないで下さいね。この階層と次の階層くらいは全部把握できるので、そこまでの範囲でお願いします。後、魔物は出来るだけ残してくれると嬉しいです」


「うん分かった! それじゃあルーちゃん行こっ!」


「りょうかいです」


 私が許可を出すと、ナケアちゃんとルピナちゃんは嬉しそうにダンジョンの奥へ走って行きました。聖龍であるナケアちゃんと、元はSランクを超える魔王のルピナちゃんの二人が一緒なら、万が一も起こらないでしょう。


 というよりも、あの二人がどうにかなるような事態が起きた場合、私や騎士のお二人がいてもどうにか出来るとは思えません。


「良いんですか? ナケアさんがいないと、このダンジョンで出てくる魔物の毒を解毒出来ないと思いますが?」


 ナケアちゃんとルピナちゃんの嬉しそうな後ろ姿を見送っていると、私の後ろから騎士のお二人が声を掛けてきました。


 確かに、ナケアちゃんが居ればこの世のどんな毒であろうと、呪いであろうと、死んでさえいなければ治す事が出来ます。でも、その力を使うにはこのダンジョンでは役不足なんですよね。


「問題ありません。さっきの蛇の毒を調べてみましたが、あの程度の毒ならフェンちゃんやシュティーちゃんが解毒できます。それに、魔物の毒は魔力で出来ているので、私の退魔の剣で切り払う事も出来ますから、毒よりも寧ろ鬼系の魔物の攻撃で怪我をしないか心配です」


 私もナケアちゃんから教わって治癒魔法で骨折程度の怪我なら治せますが、手足が千切れたりすればナケアちゃんや聖女であるソフィアちゃんくらいでないと完治させることはできません。シュティーちゃんでも、まだそこまでの治癒魔法は扱えないでしょう。


 鬼系の魔物は、攻撃力がとにかく高い事が特徴です。フェンちゃんの付与魔法がある間は、動きはそれ程でもない鬼の攻撃にはそうそう当たる様な事はないでしょうが、高い知能を持った魔物は罠や待ち伏せなどをしてくる魔物もいるそうなので油断はできません。


 もし攻撃に当たってしまえば、致命的な怪我を負う可能性もあります。そう言う意味ではナケアちゃんを先に行かせてしまったことは失敗かもしれませんが、ナケアちゃんの治癒魔法がズバ抜けていることは一緒に授業を受けて来た生徒の全員が知っているので、ナケアちゃんが離れればどこか気を抜いていた節のある生徒たちの気が引き締まるでしょう。


「あの毒を解毒できるなんて、エリカさんも生徒さんたちも大概ですね……やっぱりエリカさん、シルト騎士団に入団しませんか?」


「えっと、私はまだグロウさんに教わっていないことが沢山あるので、ご遠慮します。ごめんなさい……」


「いえいえ、ダメもとですからお気になさらず」


 前に見た騎士のお二人の動きは、熟練を感じさせる素晴らしい動きでした。私はまだあの域に達しておらず、足手纏いになるだけだと思うのですが、どうして騎士のお二人は私を騎士団に誘ってくれるのでしょうか? 謎です。


 生徒たちが魔物の素材を回収し終わると、私たちはまたクライヴさんを先頭にダンジョン内に進んで行きました。


 このダンジョンは全四階層になっており、各階層は迷路のように曲がりくねっていて、道を知っていないと直ぐに迷子になってしまうそうです。


 この場でこのダンジョンの道を知っているのは騎士のお二人だけであり、生徒たちがクライヴさんを見失えば、ダンジョンの中で迷ってしまうので生徒の皆さんは精一杯クライヴさんについて行きます。


 しかしその間も、生徒たちは探知魔法で周囲の警戒を欠かすことは出来ません。ずっと警戒し続けるのは、魔力の面でも集中力の面でも長くは続きませんが、これも特訓です。この機会に、魔力と集中力をどうやって節約すれば良いのか良く考えて欲しいところですね。


 この後も順調に、生徒たちは魔物を倒して魔晶石や毛皮、牙などの素材を集めていきました。セルゲンレイクでは滅多に見ないような、高純度の魔晶石や魔力を多く含む強靭な毛皮や牙ををみて、生徒たちも嬉しそうにしています。


 その素材を売るだけで、正直セルゲンレイクにいる冒険者の一般的な年収を軽く超えてしまうお金を貰えると思うのですが、生徒の皆さんに正常な金銭感覚を持ってもらうために、素材の価値は言わない方が良さそうですね。

 後でグロウさんに相談して、今回の魔物の素材の使い道を決めておきましょう。


 ダンジョンを進んでいると、所々に高温で溶かされてガラス化してしまっているダンジョンの壁や床が見えますが、これはルピナちゃんの魔法でしょうか?


 生徒の皆さんがドン引きしている様な気がしますが、気にせずダンジョン内を進みます。


 このダンジョンは私が思っていたよりも広く複雑で、一日では攻略できませんでした。私たちはクライヴさんの指示に従って、初日はダンジョンの二階層の最奥にある、三階層に繋がる階段の前の広間にテントを張って野営の準備を始めます。


 私たちが野営の準備を始めるころには、ナケアちゃんとルピナちゃんも戻ってきました。二人の手には、大量の魔晶石と魔物の素材、魔道具や宝石が抱えられています。どう見ても生徒たちの集めた量よりも多いのですが、そこは触れないようにしましょう。


 初日は特に、ダンジョンで苦労することはありませんでした。この調子なら、明日も問題ないでしょう。明日は三階層と四階層を攻略して、ボス部屋の前まで進む予定です。


 ボス部屋の前でもう一度野営をするそうなので、上手くいけば明後日にはダンジョンを攻略できるでしょう。


「どうして子供がこんなにいるのに、騎士団といるときよりも楽にダンジョン攻略できるんでしょうか?」


 クライヴさんの独り言を聞き流しながら、私たちは初めてのお泊りの準備を進めていきました。

初めてのエリカ視点です。慣れることを目的にしていたので今回はちょっと緩い感じだったかも?


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  何故、一部の魔法の技術が失われたか、知りたいですね。
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