75 特別講師
所々でキャラの一人称や矛盾しているところなどを直しています。その為変更前の話を見て少々疑問に思う所などがあるかもしれませんが、そこは生暖かい目で見守ってください_:(´ཀ`」 ∠):_
グロウとエリカの模擬戦から更に一ヶ月が経った。この一ヶ月の間、生徒たちはグロウやエリカに魔法や冒険者について学びながら、その実力をメキメキと伸ばしている。
生徒たちの魔力量は、初日と比べれば全員が五倍以上にまで成長し、最上級の魔法は使えなくてもクラスの全員が全属性の中級魔法を覚え、得意な属性の魔法では上級魔法を扱えるようになっていた。
既にクラスの全員は、Dランク程度の魔物は余裕で、時間を掛ければCランクやBランクに近い魔物ですら単独で討伐できるだろう。
この街セルゲンレイクは、周囲を森と山脈、美しい湖で囲まれ、猪などの野生動物と初級ダンジョンが多く存在する為、初心者の冒険者が集まりやすく、逆に高ランクの冒険者は療養や観光以外では余り来ることの無い街だ。
この街での最高ランクの冒険者はBランクであるグロウ達だが、二番目に高いランクとなるとEランクのパーティーが三組だけとなってしまう。
つまり、グロウのクラスの生徒たちは、現時点で冒険者の中ではグロウ達に次ぐ実力を持っていると言って良い。
そんなグロウ達のいるクラスに、今日は二人の客人が来ていた。
「シルト騎士団リリー隊所属、クライヴ=ウッズです。今日はグロウさんに呼ばれたので遊びに来ました」
「同じく、リリー隊のヴォルグ=フォーリーだ。よろしくな!」
魔王城の討伐依頼で知り合った二人の騎士は、気さくな笑顔を浮かべて生徒たちに自己紹介をしている。しかし、生徒たちの表情は全員、何故か硬い表情を浮かべたまま誰も動こうとしない。
「二人は少し前に依頼で知り合った騎士だ。前の休日に王都に行ってみたら二人にあったので、休日の日を聞いてここまで来てもらった。時間の関係で今日一日だが、二人には特別講師として皆に授業をしてもらう。よろしくしてやってくれ」
「グロウさんは簡単に言ってますが、非番の騎士をこうも簡単に王都からここまで連れてこれるの、グロウさんくらいなものですから、皆さんはグロウさんを基準に物事を考えないようにしてくださいね」
クライヴが爽やかな笑みを浮かべながらグロウを見る。その隣ではヴォルグまでもが、胸の前で腕を組んで頷いていた。
「お陰で俺たちの休暇が無くなったが、まあ中々良い取引だった」
「グロウさんの生徒にも興味はありましたし、有意義な休日の過ごし方とでも思いましょう」
騎士の二人が話していると漸く、トニーが恐る恐ると言った様子で二人の騎士を見つめて口を開く。
「えっと、それはここ二ヶ月で良く分かっているんですが……どうしてこんなところに、あのシルト騎士団の騎士様が居るんですか……?」
「それは先程も言いましたが、こちらのグロウさんにお願いをされて、皆さんに戦闘の基礎や冒険者に必要な知識を教える為です。まあ、勿論ただではありませんがね」
そう言うとクライヴは、先程とは違いにやりといった笑みを浮かべてグロウとエリカを交互に見た。
その視線に気が付いたエリカは、またグロウが何かやったのだろうと呆れた様な視線をグロウに送る。しかし当のグロウは二人の視線に気が付いていないとでも言いたいのか、露骨に二人を無視してこれからの予定を黒板に書き始めた。
「それでは騎士の二人の自己紹介も終わったところで、全員にはこれからダンジョンに行って貰う」
教室内の温度が一気に下がって行くのをグロウは感じた。
「あの、先生……ダンジョンって、あのゴブリンとかが出るダンジョンですか?」
騎士二人の時と同じように、生徒たちは恐る恐るグロウに問いかける。生徒たちは魔法こそグロウに教わって自信を持っているが、未だに魔物を倒したことのある生徒の数は少ない。
当然、ダンジョンに行ったことのある生徒は誰もいなかった。
どうか聞き間違いであってくれと、生徒たちはグロウを見つめる。そんな生徒たちの視線を受けて、グロウは安心させるように優しい声音で語りかけた。
「安心しろ。お前たちの実力は把握している。ゴブリンが出るようなダンジョンじゃ物足りないだろうから、この騎士二人に無理を言って王都近くにあるCランクのダンジョンに連れて行くよう頼んでおいた。後言い忘れていたが、俺は他のクラスから授業を見て欲しいと頼まれていて同行できないから、現地ではエリカと騎士の二人について行くように。ダンジョンの探索は教えておいたはずだから、各々存分に楽しんでくると良い」
騎士二人とエリカには、一体何をどう安心しろと? と、生徒たちの心の声が聞こえたような気がした。
Cランクのダンジョンと言えば、上位の冒険者がパーティーを組んで探索するような危険地帯だ。本来であれば、子供はおろか大人ですら尻込みするような魔境である。
その分稼ぎは良いので毎年多くの冒険者がダンジョンに挑戦して行くのだが、Cランク以上のダンジョンでパーティーメンバー全員が生きて帰ってくる確率は、多い場所で五割を少し上回る程度。
とても成人前で未だに冒険者にすらなっていない子供たちを連れて行くような場所では無い。
しかし、騎士の二人はこの話を了承した。理由は、そもそもグロウ達の正体を知っているのでいざとなればどうとでもなるという事を知っている為と、グロウとの取引にある。
生徒たちは一縷の望みをかけてエリカへと視線を向けるが、エリカはそんな生徒たちへ苦笑を浮かべながら「諦めてください……」というしかなかった。
「いやまだ、エリカ先生や騎士のお二人が居ればCランクのダンジョンくらい楽勝だろ……‼ 今回は俺たちの実力を試せる良い経験になると思えば――」
辛うじて生徒たちは、気を抜けば死にそうになる目から生気を繋ぎとめていた。グロウは後の事を騎士二人とエリカに任せて、教室を出ようと扉に手を掛ける。
その時にハッと何かを思い出したように、グロウは再び顔を生徒たちの方向へ向けた。
「後、エリカと騎士の二人は生徒たちへの戦闘面でのサポート禁止だぞ。本当に命の危険があれば手を出しても良いが、それ以外は生徒たちの行動に何も口を挟まないでくれ。ルピナとナケアも、生徒たちへのサポートはほどほどにすること」
エリカや騎士の二人という希望まで絶たれた生徒たちは、恨みがましい視線を教室から出ていくグロウの背中に向け続けたのだった。
◇
教室からグロウが出ていくと、生徒たちは騎士の二人とエリカに視線を向ける。正直、そんな視線を向けられても、エリカには生徒が満足のいく説明をすることは出来ない。
何故なら、エリカもグロウから何も聞かされていなかったからだ。そしてそれは、グロウの妹であるナケアも同様の様で、ダンジョンと聞いて前回のダンジョン攻略の事を思い出したのか、少し嫌そうな顔を浮かべる。
「グロウさん、いつも思いますがせめて一言説明しておいてくださいよ……」
「安心してください。一応私たちの方でダンジョンに行く準備はしていますから。それにエリカさんやナケアさん、更には魔王であるルピナさんまでいるのですから、万が一など起きないと思いますよ?」
「うう、確かにあのシルト騎士団のお二人にナケアちゃんやルピナちゃんがいれば大丈夫でしょうけど、私はただの一般人ですよ……? それにダンジョンだってまだ二度しか行ったことが無いので、生徒の皆さんには何か教えられる自信がありません……」
「ただの一般人は教えられる以前に自分の命の心配しか出来ませんからね? そもそも、エリカさんは充分我らがシルト騎士団に入団できるだけの力量があるのですから、自信を持ってください」
本来であれば高ランクの冒険者でも、自身や仲間を気遣うだけで精一杯のダンジョンに、これからそんな場所へ子供たちを連れて赴くと言うのに、エリカの心配事はちゃんと子供たちに冒険者として教えることが出来るだろうかだ。
攻略できるのは前提として、そのダンジョン内は危険であるとすら思っていない言動。普通の冒険者であるのなら危機管理能力が無さすぎると説教の一つでもするのだろうが、グロウ達の実力を知っている騎士の二人は「随分とグロウの基準に染まっているな」程度にしか思わず、エリカの事を尊敬の籠った目で見つめていた。
「それでは、私が皆さんを転移させますので、皆さんはこの魔法陣の上に乗ってください」
クライブは何処から出したのか、いつかギルドの部屋で見た転移の魔法陣が刻まれた布を取り出して教室内に広げる。
すると教室の生徒たちが、目をキラキラとさせて魔法陣の周りに集まってきた。
転移の魔法陣は、複雑な線を幾重にも重ね、更にその上に古代文字が刻まれている為現代の魔法技術では解明できないとされている空白の時代で残った数少ない遺物の一つだ。
クライヴがこの魔法陣を所持しているのは、故郷であるエルフの国では比較的多くの遺物が残っており、その中の一つを人間の国へ行くクライブが餞別として渡されたからである。
そしてクライヴはその魔法陣を不完全ではあるが解明することに成功し、短距離ならば魔法陣無しでも転移できるようになり、転移を利用した戦い方を編み出すことで世界最強ともいわれるシルト騎士団に入団できたのだが、それはまた別の話。
そんなわけで転移の魔法陣は世界でも非常に珍しい魔法であるので、魔法を習っている生徒たちからすれば正に世界有数のお宝だ。
子供たちにとってもこれだけ高度な魔法陣を見れば、自分もいつかできるようになどと思ってこれからの勉学に身が入るかもしれない。
そんな思いからクライヴは転移の魔法陣を見つめる子供たちを咎めるようなことはせず、笑みを浮かべて子供たちの様子を見ていたのだが、子供たちの会話が耳に入るとその表情を思わず崩した。
「この線、こっちに繋げればもっと長距離な移動が出来そうだな!」
「いや、それじゃあ魔力の効率が悪くなって直ぐに魔力が無くなっちゃうわ。それよりもこっちの文字を古代ケルヌト文字にして、こっちの式を乗算から減算に変えるべきよ。そうすれば、魔力の消費量が抑えられて結果的に移動距離を伸ばせるわ!」
「そもそもこの魔法陣、マーカーを付けた場所にしか転移できない時点で不完全。最初から描き直すべき」
「シュティーちゃんはどう思う?」
「フェンちゃんの意見に賛成です。このマーカーに関連する式を無くして、代わりに位置を指定する式を組めば、もっと使いやすい魔法陣になります!」
この魔法陣の読解は、騎士団の中でも優秀な魔術師でも匙を投げたほどだと言うのに、生徒たちは当たり前の様に魔法陣の意味を完璧に理解して、この魔法陣の弱点であるマーカーの存在まで的確に言い当て、寧ろこうした方が使いやすいと全員で意見を出し合って、分からないところはナケアとルピナも面白がって手伝い、教室の黒板に魔法陣を描き出してしまった。
「ついでだから、前に習った魔法陣に乗った全員から少しずつ魔力を貰うって言う魔法陣も入れてみようよ」
「それなら、時間を掛けて周りから少しずつ魔力を貰って、その魔力を溜めておける魔法陣も組み込んでみようぜ!」
「そんなに多くの魔法陣はボクでも組み込めないよ~? あ、でもルーちゃんならできるかな?」
「ん、簡単」
「シュティーもルピナちゃんを手伝います」
黒板にどんどん描かれて行くクライヴでは完全に理解することは出来なかったが、理解できた限りでは間違いなくその魔法陣は転移の魔法陣だと確信できる。
黒板に描かれた、半分ほど改変されている明らかに元の転移の魔法陣よりも高度になった魔法陣を見つめて、クライヴはエリカに説明を求めた。
「グロウさんは、この生徒たちに何を教えていたんですか……子供たちが描いている魔法陣、国に普及してしまったら大変な事になりますよ?」
「えっと、これは私からでは無くてグロウさんが言っていた言葉ですが……曰く『俺が居る時点で国なんて括りは一切関係ない。俺の教えた魔法を使うのは良いが、戦争に使用した場合は俺が敵になると思え』だそうです」
「それは、転移の魔法陣が普及しても絶対安全ですね……」
グロウに関してはもう何も言うまいと、騎士の二人は頭を切り替えて生徒たちを集める。今度は生徒たちも大人しく魔法陣の周りに集まり、クライヴの指示に従って魔法陣の上に乗った。
「それではダンジョンに転移します。いきなり内部に転移するので魔物に襲われるかもしれませんが、充分注意してくださいね」
「「「「「えっ!?」」」」」
生徒たちの声を置き去りにして、エリカ達はCランクのダンジョンに転移した。
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