↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/97

73 師弟対決2

ちょっと忙しくて、期間が空いてすみませんでした(>_<)

 エリカの初激を難なく受け止めたグロウは、木刀を構え直してエリカに視線を向ける。


 対してエリカは、両手をだらんと垂らして身体の力を抜いていた。傍から見れば手を抜いているようにも見える体勢なのだが、観客に混じっている冒険者はエリカから何故か一切の隙を見つけることが出来ずに首を傾げる。


 身体の力を抜いた状態から、魔力の放出による推進力を利用して一気にトップスピードまで加速することで残像を生み出し、残像が消えた瞬間に合わせて姿を現す。そうすることで、残像を見ている相手からは瞬間移動でもしたかのように見える、グロウがエリカに教えた【残歩】と呼ばれる技術だ。


 残歩はその特性上、自分の次の攻撃を相手に読ませにくくすることが出来る。相手の判断が一瞬でも遅れれば勝敗が決まる斬撃を狙って、エリカは再びグロウへ斬りかかって行った。


 しかしグロウは、エリカの攻撃を最初と何ら変わらない反応で木刀を使い、エリカの斬撃を全て弾いて行く。


「残歩は次の一手を相手に読ませない技術だが、残像が消えた瞬間に攻撃が来ると分かれば対処は簡単だ。だからその技を使う時は、遠距離魔法や時間差で発動する魔法を絡めると効果が上がる」


 グロウはそう言うと、エリカの嵐の様な攻撃を防ぎながら、一度思い切りエリカの左手に持っている剣を狙って木刀を振り上げた。幾ら木刀とは言え、相手の剣の刃に当てなければ損傷することなく武器を弾くことは出来る。


 その一撃で、両手で正確な剣戟を放ってきたエリカの剣技の中に一瞬だけ僅かなズレが生じた。


「見本を見せておこう」


 グロウはエリカの攻撃に出来た僅かな隙を利用して、一度エリカから少し距離を取る。そして次に、グロウはエリカと同じようにだらんと木刀を持っていた手を下げた。


「わっ!?」


 そして次の瞬間には、グロウはエリカの目の前に移動していた。エリカは慌てて、自分の前に両手の剣を持ってきて身を守る。

 しかしエリカが身を守るよりも早く、エリカの身に拳大の水玉が直撃した。直撃した水玉は思ったよりも強力だったのか、エリカは数メートル先まで吹き飛ばされてしまう。


「ううっ、剣は防げたはずなんですが、今のは一体……?」


「残像の後ろに予め魔法を発動させておいた。後は単純な視線誘導だ」


 残像が消え、相手が自分の姿を認識した時、相手は自分を強く認識しているので周りが見えていない場合が多い。この戦法に慣れた様な相手ならばこれでも対応してくるだろうが、相手がそうではない場合は周りが見えていない状態で残像の後ろに置かれた魔法を察知することは難しいだろう。


 まあ例えエリカがこの戦法に慣れていたとしても、それをどうにかするのがこの技術の腕の見せ所なので察知はさせないのだが。


 吹き飛ばされたエリカは直ぐに起き上がると、またグロウに向けて迫ってくる。今度は自分を魔法で強化するだけでなく、攻撃魔法も準備されていた。


 エリカはグロウとの距離を詰めると、準備していた火の魔法を撃ち出す。威力はそれほどでもないが、この魔法は視界を塞ぐための魔法だろう。


 エリカの魔法はグロウに当たるか、近くの地面に当たると派手な爆煙を辺りに撒き散らせた。


 一瞬でグロウの視界は煙で塞がれ、エリカの姿が隠れて見えなくなる。グロウは即座に【探知】の魔法でエリカの居場所を特定して、背後に迫るエリカの斬撃を弾き返した。


 しかしエリカもそこまでは想定済みだったのだろう。直ぐに弾かれた剣とは逆に持っている剣で再びグロウへ斬りかかる。


「悪くは無いが、動きが正直すぎるぞ」


 しかしその攻撃も、グロウはいとも簡単に一本の木刀で受け止めると、逆に薙ぎ払いで爆煙を払うと同時にエリカを無理矢理弾き飛ばした。

 エリカは剣で何とかその薙ぎ払いをガードしていたものの、衝撃で痺れた片手をさすって顔を顰める。


「もっとフェイントを入れないと、折角の奇襲も対処されやすくなってしまうぞ。魔法剣士の魔法は、攻撃力があまりないから牽制目的で使用されるが、それはつまり相手にとってその魔法は牽制であると分かってしまう。相手は常に次に備えることが出来るから、魔法剣士の奇襲はもっと工夫をしないとダメだ」


「やっぱり、この程度じゃグロウさんには通用しないと思っていたんです……」


 弾き飛ばされたエリカは、再度剣を構えてグロウに突撃する。今度は全身に付与魔法(エンチャント)を施して、速度と威力を更に上げていた。


 凄まじい速度で放たれる斬撃が、幾度となくグロウに襲い掛かる。魔法剣士の剣技は、剣士のものよりも威力や精度が数段劣ったものになる場合が多い。一応日々の努力によってその差を詰めることは出来ても、同じように努力していた剣士には剣技では敵わない。


 しかし魔法剣士は、自身に付与魔法(エンチャント)を施すことで、剣士とは比べ物にならない速度と威力を引き出すことが出来た。


 グロウの前世では、魔法剣士は勇者や魔導師など一部の上位職業を除けば最強の職業だと言われていたものだ。


 その最強の職業の魔法と剣技が、グロウに向かって無数に放たれていると言うのに、グロウは先程と大して変わらない表情でエリカの斬撃を弾いていた。


 硬質な物体同士がぶつかり合う、甲高い音が幾重にも重なって運動場に響きわたる。

 お互いの間で交わされる斬撃の数は、一瞬で数十に達しようとしていた。


 その光景を見ていた観客たちは、全員大きく口を開けて二人の戦いを呆然と見つめている。

 目にも止まらぬ速度で剣を振り続ける二人の間に、魔法による爆風や閃光が混じりだした時、観客たちは漸くあの凄まじい剣戟の中で二人は魔法まで使って戦っていることを理解した。


【魔剣技:流水】


【剣技:一閃】


【流水】は、剣を水に見立てることで変幻自在の太刀筋を生み出し、剣に纏わせた鋭い切れ味を持つ水によって間合いを読みにくくさせる、剣で受け止めるには難しい魔剣技だ。


 しかしエリカの放つ、水を纏い、まるで水流の様に決まった形を持たない太刀筋の斬撃を、グロウは極限まで素早く振るった木刀で受け止める。

 剣に纏われた水が弾け、変幻自在の剣が受け止められても、エリカの顔に焦りはない。


 自分の攻撃はグロウにはま(・)だ(・)届かない。そしてだからこそ、エリカは全力で模擬戦用の木刀を持つグロウに自分の技を全力で放つことが出来ていた。


「やっぱり、グロウさんは強いですね!」


「当然だ。今の俺には上位のドラゴンでも勝てはしない」


 二人は剣を交えながらもフッと笑みを浮かべる。

 この試合はただの模擬戦。エリカは全力を出しているが、二人ともまだ本気で相手を殺そうと思って戦っているわけでは無い。

 まだまだ二人には、この戦いを楽しめるだけの余裕があった。


 だがエリカは、直ぐにその余裕を失う事になる。


「もう証明は十分だな。そろそろ俺も動くとしよう」


「ッ!? どこに……!?」


 エリカが気が付いた時には、既にグロウはエリカの間合いの外に移動している。そして次の瞬間には、エリカの目の前は火球、空気弾、水弾が視界全てを覆い尽くしていた。


 エリカは咄嗟に自分の正面に結界魔法を発動させる。一発一発は威力の低い下級の魔法とは言え、数が集まれば十分な脅威だ。


 数え切れない魔法がぶつかり、エリカの結界はメキメキと音を立て始める。そして魔法が取り過ぎた頃、エリカの結界はガラスの割れた様な音を立てて割れてしまった。

 なんとか魔法を防ぎ切ったエリカは、ホッと息を吐く。


「安心するのは早いぞ?」


 魔法剣士の魔法は、そもそも陽動か牽制が主目的となる。相手の動きを止めている時点で、魔法剣士の魔法としては十分な働きをしているのだ。


 エリカが結界魔法で足を止めている隙に、グロウは魔法でエリカの視線を遮ってエリカの背後にまで移動していた。


 グロウの声に気が付いたエリカが、咄嗟に自分の背後へ陽光の剣を召喚してグロウの木刀を防ぐ。エリカはこの数ヶ月で、【魔剣召喚】で一度に召喚できる魔剣の本数が増えていた。まだ種類は陽光の剣のみだが、成長しているのは生徒たちだけではない。

 生徒たちの成長は、エリカにとっても良い刺激となっていた様だ。


 しかし陽光の剣が一本だけではグロウの攻撃を完全に受け止める事は出来ず、陽光の剣は真ん中から折れて消えてしまう。


 すかさずグロウは木刀を戻し、エリカに追撃をしようと木刀を振るった。


 学校で教師になる前のエリカならば、確実に対応できない攻撃だ。だと言うのに、エリカは背後に迫るグロウの攻撃を見もせず、体を捻ることで無理やり木刀へ剣を打ちつけることで弾き、その反動を利用して前に跳んでグロウから距離を取った。


 グロウは予想外のエリカの成長に素直に驚き、追撃を止めてエリカへ話しかける。


「良く避けたな。驚いたぞ」


「私もナケアちゃん達に協力してもらって、ちゃんと特訓してましたからね。私の方がグロウさんから沢山教わっているのに、生徒たちに負けるわけにはいきません」


 最近、教師の仕事が忙しくてエリカの練習メニューが少し減っていたことは、勿論グロウも気にしていた。しかし、教師の仕事そのものがエリカにとっては復習だ。身体の動かし方は、この依頼が終わってから重点的に教えれば良いかとグロウは考えていた。


 だが、エリカはどうやらナケアやルピナを誘ってこっそりと特訓していた様だ。宿屋の部屋はグロウとエリカで別れているので気が付かなかった。


「それでは、これならどうかな?」


 元々あまり気乗りしていないこの模擬戦だったが、少々楽しくなってきたグロウは、マッドなサイエンティストの様な黒い笑みを浮かべる。


 そして掌を上に翳すと、一瞬の内に辺りは濃霧に包まれた。


「これは、霧ですか……?」


「教えただろう? 魔法剣士の魔法は、陽動や牽制に使われると」


 グロウの声が濃霧の中で響き渡る。エリカはグロウが立っていた場所、声の聞こえた場所を斬り付けるが、そこにグロウはいなかった。


「気配も無い……グロウさんは一体どこへ?」


「魔法剣士に時間を与えるな」


 次にグロウの声がエリカの耳に入った時、濃霧が広がった時とは逆に、一瞬で濃霧が晴れて視界が元に戻った。


 霧が晴れ、視界が戻り、太陽の光が顔に当たってエリカは一瞬目を細める。そして目の前の光景を視認した時、細めた目を大きく見開いた。


 運動場の地面一杯に、三角形を基盤とした魔法陣が刻まれている。この魔法陣は、狂化したゴブリンロードを討伐する時に見せた、魔法剣士としての奥義とも言うべき召喚魔法陣だった。


 グロウは魔法陣の中心に立って、魔力を込めながら詠唱を終える。この魔法を使う時は、グロウの【龍人化(トランスフォーム)】の魔法が解けてしまうのだが、いつの間にか運動場には幻を映す結界が張られており、グロウの背中の羽を観客から隠していた。


『三つの星を廻る軌跡、理念の教えを司り、我が道を遮る全てを切り裂く剣よ。世の均衡の基準を示せ――』


【魔剣召喚:ヴァルデルタ】


 三角形の頂点に、それぞれ十本ずつの魔剣が召喚され、魔法陣の中に消えて行く。そして全ての魔剣が魔法陣の中に消えた時、魔法陣の中心に一本の魔剣が突き刺さっていた。


 グロウは召喚された魔剣を手に持ち、エリカに向けて構える。


「グロウさん、手加減するって言ってたじゃ無いですか!?」


「この魔剣は、呪いが無い分威力はフェリーレンと比べて大幅に劣る。だから今のエリカなら、死ぬことは無いだろう。頑張って受け止めてみろ」


「グロウさんのばかぁぁあああーーッ‼」


 エリカの絶叫が運動場に響き渡る中、グロウの剣は無慈悲にエリカへ振り下ろされた――

ブックマーク、評価もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。