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70 生徒の魔法

いつの間にか一週間が過ぎてた……

六月は最低であと二本投稿出来るように頑張ります。

 グロウ達が学校で務める事になって二日目。


 教室内ではグロウが担任をしているクラスの生徒たちが、難しい顔で目の前に置かれた一枚の紙を睨んでいる。


「魔法式については昨日説明した通りだ。例え魔法式が間違っていたとしても、元となっている魔法は【探知】の魔法だから危険はない。安心して魔法式を組み込んでみろ」


【探知】の魔法は、その名の通り周囲を探知できる魔法だ。魔法式を組み込まない現代の探知では、精々僅かな範囲にいる人間を探知するくらいしか出来ない魔法という認識を持たれているのだが、この魔法に魔法式を組み込むことによって、周囲の薬草、魔物、鉱物などを探知することも可能となる。


 長時間維持するための魔法式を探知の魔法に組み込んでおけば、野営などの際で不寝番をする必要が無くなるので、冒険者を目指すのならぜひ覚えておきたい魔法だ。


 生徒たちに渡した魔法紙には、既に【探知】の魔法陣が刻まれている。生徒たちは目の前に置かれた魔法紙を見つめて、昨日教えた魔法式を恐る恐る魔法陣に刻み込んでいった。


 それから一時間後、グロウやエリカに聞きながら恐る恐る魔法式を刻んでいた生徒たちの中に、ちらほらと魔法陣を完成させる生徒たちが出始める。


 やはり、このクラスの生徒たちは優秀だ。魔法式というのは、慣れてしまえばそうでもないが、最初は結構ややこしくて苦労する。


 グロウやエリカも、自分が魔法剣士というのもあるがこの魔法式を習得するのに一週間は掛かったものだ。こういう面でも、魔術師というのは魔法剣士と根本的に魔法に関しての才能が違う。


 特に、魔力が高かったトニー、フェン、そして魔導師のシュティーはやはりと言うべきか、最も早く魔法式を刻み込んで、魔法を発動させていた。


「ふむ、トニーは探知で薬草の位置くらいは分かりそうだな。フェンは範囲が広い。シュティーはもうこの街位なら大体探知できるのか」


 グロウが褒めると、三人は嬉しそうに、照れくさそうに微笑む。この授業では、多少探知の範囲を広げる魔法式を組み込まれれば上出来だと思っていたのだが、この三人は既に範囲だけではなく、効果を上昇させる魔法式を刻んでいた。


 他の生徒も、探知の範囲は既に現代で知られている探知の魔法以上に探知範囲を広げることが出来ている。


 初めて魔法式を使った魔法陣を扱うと言うのに、全員上々の成果だ。


(まあ、魔法式を知らない魔術師の魔法以下の魔法を使う方が、逆に難しいがな)


 とは言え、全員まだ魔法式を使った魔法は初心者である。当然、出来上がった魔法陣は完璧とは言えない。


 魔法を発動させた生徒たちは、次々と力なく机の上に突っ伏して行った。


「あれ、体に力が入らねぇ……?」


「頭ふらふらする~」


「もう無理、眠い……」


 生徒全員が机に突っ伏してしまうと、グロウはナケアに目配せした。ナケアはグッと親指を上げるジェスチャーをして、生徒全員の魔力を回復させていく。

 魔力を回復された生徒は、まだ眠たそうに瞼を擦りながらも起き上がった。


「魔法陣の魔法を使っていたら、急に眠くなった?」


「魔法を使い過ぎて魔力が無くなったんだ。魔力が無くなるか、一度に慣れていない大量の魔力を消費すると、酷い倦怠感に襲われる。だから戦闘中は魔力の消費量を常に気に掛けるのを忘れるな」


 魔力切れ、魔力酔いと言われる現象だ。この状況になると、魔術師も魔法剣士も戦闘中に致命的な隙を相手に見せてしまうので、魔法を使える者は最も注意しておかなければならない現象である。


 特に魔力酔いは、大魔法を使用すると大体どんな人間でも起こってしまううえに、どのくらいの魔力を使えば魔力酔いになるのかは個人差があるので、自分自身でもどのくらいの魔法を使えば魔力酔いを起こすのか把握が難しい。


 魔力酔いの場合は魔力を全て使っていないので直ぐに回復するのだが、数秒間は確実に動けない。一般的にクールタイムと呼ばれる時間だ。


 今回、生徒たちは魔法陣の魔法の効果を上げたのだが、魔力については全員手を付けなかった。魔法の効果を上げたのに、魔力について何も工夫しなければ当然魔力の消費量は増える。


 範囲だけならばまだしも、それに加えて探知の効果を上げた三人は他の生徒以上に魔力を使ったはずだ。

 三人以外の生徒は魔力酔いで倒れていたのだが、トニー、フェン、シュティーの三人は魔力切れで倒れたので、未だに眠そうに瞼を擦りながらグロウの説明を聞いていた。


「この様に、魔法式は魔法の効果を飛躍的に高めてくれるが、間違っていたり、式が足りていない魔法は魔力の消費量を上げてしまう。例えばこの探知の魔法陣ならば、球状の範囲を探知するのではなく必要性の低い地中や上空の範囲を狭めれば、魔力の消費を抑えることができた」


 その他にも、魔力は魔晶石から供給する方法などもあるのだが、これはまだ生徒たちには難しいだろう。


「どれだけ範囲を限定するかは、実際に冒険にでも出て自分たちがどの程度の距離ならば対処できるか知る必要がある。よってこれからの授業は、実技を交えながらこの魔法式についてみっちり教え込むことにしよう」


「うげぇっ‼ またあの魔力切れを体験するのかよ……」


 さっきの魔力切れや魔力酔いを体験したからか、生徒たちの反応は薄い。しかしその程度でグロウが手加減するはずもない。


 魔力が切れようが、魔力酔いを起こそうが、その全てはナケアが居る限り癒すことが可能だ。つまり、生徒たちの魔力は全く気にする必要が無い。


 それに魔力は自信の魔力を使い切ることで効率良く成長する。生徒たちの魔力は、今まで全く鍛えていなかった分、成長に伴う魔力増加以外で全く増えていなかった。


 先程の魔力切れや魔力酔いは、そもそも生徒たちの持っている魔力が低かったことが大きい。これは授業で魔法を使っていれば自然と増えていくだろう。


 この日の授業は、魔法陣に様々な魔法式を適応させていくことで終わった。


 三日目では、昨日使った魔法陣の調節をメインで教えていく。


【探知】の魔法を使うと、何も弄らなければ球状に魔法が展開される。しかし、地上を百メートル先まで探知するのと、地下を百メートル探知するのでは重要度が違う。魔力も範囲の分だけ消費してしまうので、魔法の範囲を調節するのは魔法使いにとって必須のスキルだ。


 四日目は今まで溜めてあった魔晶石を使って、グロウは魔晶石から魔力を得る方法を実演して見せた。まだ生徒たちでは魔晶石から魔力を得るのは難しいだろうが、全員一生懸命に魔晶石の魔力を取り出そうと頑張っている。


 五日目の授業では、生徒たちがこれまで使っていた魔法を見せてもらった。

 この学校の裏にある運動場では、魔法を練習するための的や魔法の威力を測る魔道具などが置かれている。


 運動場に移動した生徒達は、運動場に置かれた的へ一人ずつ得意な魔法を放っていった。


 最初に魔法を放ったのはトニーだ。トニーは的から二十メートル程度離れて、両手を前へ突き出す。


『赤き魔力よ、我が手に集い、炎となりて焼き払え! 火炎球(ファイヤーボール)!』


 トニーの掌から、自分の体が半分ほど隠れる大きさの火の玉が出現し、的に向かって飛んで行く。的に着弾した火炎球は、的を真っ黒に焼き焦がすと直ぐに霧散する。


 この魔法は現代の魔法の中で良く使われる魔法らしい。しかし、トニーの放った魔法はいつか見た火炎球とは桁違いの威力を誇っていた。


「どうですか先生! 俺の魔法の威力は!」


「魔法式をもう自分の魔法の中に組み込んだのか。良い魔法だ」


 グロウに褒められて、トニーは嬉しそうに笑顔を浮かべた。まだ魔法式を教わってから数日しか経っていないと言うのに、トニーの使用した魔法にはしっかりと魔法式が適応されている。


 あの無駄な詠唱魔法でなく、しっかりとした魔法を教えれば、トニーの魔法の威力は更に上昇することだろう。


 次に前に出てきたのはハロルドとサムだった。ハロルドは背の高い優しそうな生徒で、サムは茶髪であまり目立たない生徒だ。


 この二人の生徒は仲が良く、学校内では二人でいる光景をよく目にする。最初に魔法を放ったのはハロルドだ。


『大地よ、我が敵を拒む強固な壁を築け! 土壁盾(シアクリフ)


 ハロルドが地面に手をかざすと、的の四方から二メートル程の土壁が迫り出てきた。土属性の魔法は、人間の中では結構珍しい属性の魔法だ。

 この国の西に位置する大国に多く住んでいるドワーフに多い属性の魔法だが、ドワーフは背が低い種族。ハロルドとは関係無いだろう。


 ハロルドの魔法が終わると、次はサムがハロルドと同じように地面に手をついて詠唱する。


『敵を拒む土壁を崩し、敵に冥界への道を示せ 大地崩雨(アースレイン)


 サムが魔法を放つと同時に、ハロルドが作り出した土壁が派手な音を立てて崩れ落ちていく。質量の大きな土壁が的に向かって勢い良くぶつかり、的を容赦なく破壊する。


 威力だけならば最初のトニー以上だろう。しかし、この魔法で魔力が無くなってしまったのか、二人は背中を合わせてその場へ座り込んでしまった。


「二人は土魔法を使えるのか。まだ無駄な魔力は多いが、威力も申し分ないな。これからが楽しみだ」


 二人は失った魔力をナケアに回復して貰うと、嬉しそうに後ろへ下がって行く。


 次はゲイリーが出てくる。ゲイリーは短く切りそろえられた緑色の髪を持つ、飄々とした雰囲気の生徒だ。


「せんせー、ちょっと俺魔法の調節下手だから、気を付けて下さいね?」


 ゲイリーはそう言うと、自分の体の周りに風を発生させる。ゲイリーの得意な魔法は風魔法の様だ。ゲイリーは台風に匹敵しそうな風を体から腕に集中させると、風で出来た球を作り出す。


『風よ、敵を蹂躙し、吹き荒れろ! 破壊の乱流(テンペスト)


 風で出来た球が的に向けて飛んで行く。速度は普通の人が走るのと同じくらいだろうか。それだけ見れば、大した威力があるようには見えない。しかし、その認識は風の球が的に当たった瞬間に間違いだと思い知らされた。


 魔法が的に当たると、一瞬で風の球は膨張して辺りに暴風を発生させる。暴風は的を巻き込むと、ハロルドたちの作り出した土壁の破片まで巻き込んで吹き飛ばした。


 暴風と飛ばされた破片が、グロウ達の方へ凄い勢いで飛んでくる。


「危なっ!?」


「ちょっとゲイリー! 私たちまで巻き込まないでよ!」


「ははは、ごめんごめん。それにしても、せんせーの結界化け物過ぎでしょ」


 暴風で飛ばされた破片は、グロウが正面に展開した結界に阻まれて一つも生徒たちには届かなかった。結界の中では、飛んでくる破片に驚いたフィオナが文句を言っている。


 ゲイリーの魔法は、威力こそ高いがコントロールに難がある様だ。これでは魔物との戦闘で使う事が難しいだろう。仲間を巻き込んでしまえば大変だ。


「ゲイリーは魔法のコントロールを重点的に教えるとしよう。威力は申し分ないが、次からはちゃんと周りに気を付けろよ?」


「はーい!」


 ゲイリーは何を考えているのかいまいち分からない、ニコニコとした笑みを浮かべて後ろに下がる。


 次に出てきたのは、男子生徒の中で最も魔力を持つフェンだ。


 一見女子生徒にも見える整った容姿をしているのだが、フェンはいつも眠そうな表情を浮かべておりゲイリーとは別の意味で感情が読みにくい。


 魔術師としてならば世界でも屈指の才能を持つフェンは、シュティーと並んで成長がとても楽しみな生徒だ。


 フェンは眠そうな目を擦りながら、右手を的のある前方に突き出す。


『母なる大地より湧き出す水よ、優しき抱擁を持って安らぎを与えよ 治癒水の抱擁(アクアエンブレイス)


 的の周りに水が纏わりついて行く。見た目だけではフェンの魔法はそれ以上の効果は無く、水は暫くすると的から落ちて地面に吸われて行った。


「あれ、フェンちゃん失敗したの?」


「失敗なんてしてないよ」


 フェンの魔法を見て、生徒たちは失敗したのかと首を傾げる。しかし、グロウ達はその魔法がどんな効果を持つのか正確に把握していた。


「ほう、水の治癒魔法か。これも珍しい魔法だな」


「おおー! ボクと同じ効果の魔法だ!」


「効果時間からして、持続系の回復魔法でしょうか? 治癒魔法は難しいのに、凄いですね」


「治癒魔法、うらやましい……」


 治癒魔法は聖術士でもなければ、緻密な魔力制御の技術が必要なので習得は困難な魔法だ。グロウは治癒魔法の様に、細かい魔力の制御は不得手なため使う事が出来ない。

 ナケアも自分と同じ治癒魔法の使い手を見つけて嬉しそうだ。


「フェンは治癒魔法が得意なのか?」


「うん、他にも何個か助ける魔法も使える。攻撃魔法は苦手」


「そうか。パーティー全員に掛けられる補助魔法は、使いようによってはパーティーの要にもなる。頑張れよ」


「っ!? うん!」


 フェンは支援系の魔術師のようだ。支援系の魔法は、支援できる人数や効果によって大きな成果を期待できる。フェンの魔力を考えても、フェンはパーティーに一人は欲しい貴重な人材に育つことだろう。


 グロウが何となくフェンの頭を撫でると、フェンは一瞬驚いた様にビクッと身体を跳ねさせる。しかし直ぐに嬉しそうに目を細めて撫でられていた。

 その様子はどう見ても、女子生徒にしか見えない。何はともあれ、これで男子生徒は全員終わった。


 フェンの次に出てきたのは、トニーと同じく活発そうな雰囲気を持つフィオナだ。フィオナは腰付近まで伸びた鮮やかな紅色の髪を靡かせて、的に向けて手を突き出した。


『赤き魔力よ、大地より芽吹き、深紅の花を咲かせなさい! 深紅の業華(クリムゾンファイヤ)


 フィオナが魔法を放つと、的が置かれている地面から深紅の花弁を持つ炎で出来た花が咲き誇った。この魔法は、グロウがこの学校に来るときに貰った参考書によると中級の中でも上位に位置する魔法らしい。


 恐らく、フィオナの魔力は少し成長していたので、元々ある程度魔法を練習していたのだろう。魔力が勝っているトニーと同程度の熱量で焼かれた的は、真っ黒に炭化してた。


「良い威力の魔法だ。もう少し魔力の消費を抑えられれば、充分実戦でも使える威力になるだろう」


「はい! 頑張ります!」


 フィオナは元気に手を上げて返事をすると、他の生徒たちの元へ走って戻って行く。


 次の生徒は、一人だけ武器である弓を持ったサクラだ。サクラの適性は、魔弓と言われる弓の魔動具に向いていたので、数日の内にグロウが鍛冶屋のヴァカンと協力して用意しておいた物を使って貰っている。アダマンタイトやオリハルコン、魔王城で得た魔物の素材や魔力白銀(ミスリル)まで使われた、現時点で作れる最高の武器だ。


 この魔弓を作ったヴァガンは、遠い目をして「これを生徒に? 正気か……?」と言っていたくらいの自信作である。


「あの、グロウ先生。この魔道具、本当に貰ってしまっても良いんですか? この魔道具、どう見ても良い物ですよね? 私、お金なんて持っていませんよ?」


「それは俺からの先行投資だ。サクラは遠慮せず使ってくれれば良い」


「は、はぁ……」


 サクラは少々恐縮しながら、手に持った魔弓に魔力を込める。魔弓は実態の矢を番えるのではなく、魔力によって矢を作り出す。サクラが魔弓に魔力を込めると、魔力で出来た矢が弦に番えられた。


 サクラはそのまま矢を力いっぱい引くと、矢を手から離す。弓から放たれた魔力で作られた矢は、目にも止まらぬ速度で的を貫通すると、そのまま運動場の壁を貫き、街とは反対方向の森へ飛んで行ってしまった。


 矢を放ったサクラを含め、生徒たちが唖然とサクラの持つ魔弓に視線を向ける。


「ふむ、まだ力が弱くて充分弦を引けないのか。後でヴァガンに調節を依頼しておこう」


「いやグロウ先生! 何ですかこの魔道具は!? こんな威力の魔弓、頂けませんよ‼」


 素早く我に返ったサクラは、手に持った魔弓を返そうとグロウに詰め寄る。しかし、グロウのパーティーには魔弓を扱える人がいないので、返されても扱いに困ってしまう。


「もう作ってしまったから、返されても困る。内には魔弓を扱える奴が居ないからな。その魔弓はもうサクラの物だ。大切に使ってくれ」


「無理ですよ! こんな威力の魔弓、盗まれたらどうするんですか!?」


「なるほど、その心配があったか。ならヴァガンに魔法陣を教えて、サクラ以外には扱えないようにしてもらうか」


「そう言う事じゃ無いです‼」


 サクラはまだ駄々を捏ねているが、グロウは気にしないで次の生徒を呼ぶ。例えサクラがその弓を狙って悪人に狙われたとしても、力ずくで解決できるだけの力をつけさせれば良いだけなので、気にする必要などないのだ。


 こうしてサクラが駄々を捏ねている内に、次の生徒であるブレンダが前に出てきた。


「えっと、私は皆みたいに凄い魔法が使える訳じゃ無いですからね?」


 ブレンダはサクラの開けた森に続く穴を見つめて、苦笑いを浮かべながら詠唱を始めた。


『蠢く風よ、害意持つ者の周りを舞い、刃となりて切り刻め! 刃の旋風(ウィンドブレイド)


 風で出来た不可視の刃が、的に向かって飛んで行く。魔法は的に当たると的に一本の深い傷を付けて霧散した。


「確かに他の生徒には少々劣るが、しっかりと魔法式も適応されていていつか見た冒険者以上の威力になっている。もっと自信を持った方が良いぞ」


「は、はいっ!」


 ブレンダは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めながら、いそいそと他の生徒たちの元まで移動して行く。


 さて、これで最後の生徒だ。


 最後に出てきた生徒であるシュティーは、緊張した面持ちで的の前に出てくる。柔らかそうで、長く伸ばしたピンク色の髪を片側にサイドで結んだ幼い少女は、両手を的に向けて「んーっ!」と声を出して力んだ。

 ほっぺを膨らませているところが、魔法を教えたばかりの頃のナケアの癖に似ていてグロウは懐かしい気分になる。


 そうしてシュティーは、生徒の中で唯一無詠唱で魔法を放った。


 放たれた魔法は、他の生徒たちと比べれば威力も規模も小さな小粒の水弾だ。水の弾は的に当たるとあっけなく的に弾かれて、地面に落ちてしまう。


 しかしその様子を見ていたシュティーは、ムフーと自慢げに息を吐いた。


「せんせい、どう?」


「ふむ、良く何も教わらずに無詠唱で魔法を使えたな。威力はまだまだだが、素晴らしい才能。流石は魔導師だな」


「うん」


 エリカや参考書によると、この時代で無詠唱の魔法を使える魔術師は、宮廷魔導師の師団長クラスの魔術師くらいしかいないと言われているらしい。


 他国でも同じような状況らしく、無詠唱の魔法とはそれだけで上級魔法に分類されるそうだ。それを、恐らくグロウが最初に見せた無詠唱魔法を見ただけである程度理解して、今実際に使って見せた。


 流石は魔導師だと言わざるを得ない。

 更に、今回でこの教室の生徒たちは現時点でも全員一般的な魔術師よりも強力な魔法を使えることが分かった。


 生徒たちの才能を垣間見て、グロウはしっかりと学んだ後の生徒たちの未来を想像し、楽しそうに笑みを浮かべるのだった。

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