71 属性
グロウ達が臨時教師となって早一ヶ月、この一ヶ月の時間でグロウ達も随分と生徒たちに慕われるようになっていた。
最初の一週間で魔法式と魔法陣を教えたので、後の授業では魔法式に慣れるまで魔法を使わせ続け、気が付くと生徒たちの魔力量は初日から全員倍以上にまで上昇している。
毎日毎日、魔力が無くなるまで魔法を使わせて、魔力が無くなれば回復させてを繰り返す訓練の甲斐があったと言うものだ。
その授業の結果、使える魔法自体は増やしていないが、生徒たちは初級の魔法だけでもホブゴブリンくらいなら倒せるくらいにまで成長していた。
毎日の反復練習によって、生徒たちは随分と魔法式に慣れた頃合いだろう。そろそろ魔法について詳しく教えるのも良いかもしれない。
「それでは、今日からはもう少し詳しく魔法を教えるとしよう」
「おおー! やっと他の魔法を教えて貰えるのか!」
「私、風の魔法を使ってみたいです!」
トニーとフィオナが、自分の席から身を乗り出して嬉しそうに自分の使いたい魔法を語る。他の生徒も期待したようにキラキラと目を輝かせてグロウを見つめていた。
今までグロウが巻物教えてきた魔法は、【探知】や【鑑定】などの属性を持たず、比較的危険の少ない生活魔法だ。生徒たちも、ようやく本格的な魔法を教われるのかと楽しそうに話し合っている。
「それではまずは、この前配った教科書を開け」
グロウが言うと、生徒たちは数日前にグロウが生徒たちの為に作った教科書を机の上に広げる。教科書には基本的な魔法の運用方法や習得方法、効率的な特訓方法などが記載されていた。
最初に最低限の知識を教えたグロウは、昼休みが終わると実際に魔法を使用させるために学校の運動場に移動する。
「まずは皆の魔力の属性を調べてみよう。と言っても、もう殆ど分かっている事だけどな」
「分かっている? 先生、魔道具を使わないでも属性って分かるの?」
「ああ、魔力ってのは自分の得意な属性の魔法により効率良く力を伝える性質がある。つまり、お前たちの得意な魔法の属性が、そのままお前たちの持つ魔力の属性という可能性が高いんだ」
例えば、トニーならば前に見せて貰った得意な魔法は火の属性に属していた。そしてあの火炎球の魔法は陰の性質を持つ魔法だ。
つまりトニーの得意な魔法は火属性の攻撃魔法となるのだろう。
「まあ一応、例外もあるんだけどな。それではこの水晶に一人ずつ触ってみてくれ。でもナケアとルピナはこの水晶に触らないでくれよ。二人はもう属性は分かっているからな」
そう言ってグロウがアイテムボックスから取り出したのは、冒険者ギルドで見た適正職業を調べるための水晶にそっくりな水晶だった。
「これはお前たちの魔力の属性を調べることが出来る魔道具だ。これで自分の得意な属性をしっかり意識するように」
「「「「「はーい!」」」」」
子供たちは元気に返事をすると、グロウの取り出した水晶の周りに集まりだす。もう少しこの水晶が欲しいところだったが、ギルドにはこの水晶が一つしかなかったのでしょうがない。
生徒たちが興味深そうに見つめる水晶へ最初に手を触れたのは、いつもの様にトニーだ。
トニーが水晶に触れると、透明だった水晶はたちまち赤い輝きを放ち出す。
「やはりトニーは火属性の魔力を持っている様だな。火属性は、攻撃魔法が強くなる傾向がある。その他にも風魔法と相性が良いから、これから覚えてみると良い」
「やっぱり俺は火属性か! なんかカッコいいし気に入ったぜ!」
トニーは自分の周りに火の粉を舞わせて遊んでいる。この一ヶ月で随分と器用に魔法を使えるようになったらしい。魔法式を教えただけだと言うのに、子供の成長は本当に早いようだ。
次に水晶に触れたのはハロルドとサムで、共に水晶の色が茶色に変わっていた。二人とも土属性の魔力を持つ証だ。
二人の次にフェンが水晶に触ると、水晶から明るい水色の光が放たれた。先程の三人よりも明らかに明るい光だが、眩しくはない。寧ろ心地よく、温かい光だった。
「この光り方は、魔力の性質が陽の場合に起きるらしいだな。フェンは、水属性に属する支援系の魔法が向いている。極めればどんなパーティーからもスカウトされるような魔術師になれるぞ」
「ドヤァ」
フェンは珍しく胸を張って最大級のドヤ顔を浮かべる。五百年前は今と比べ物にならない程魔道具の性能が高く、支援系の魔法は魔道具に頼ることが出来たため比較的軽視されがちだった。
しかしフェンは、過去を含めても有数の魔力を持っている。支援魔法を極めた場合の能力上昇率、治癒魔法の回復量は当時の魔道具でも再現できないレベルになる事だろう。
治癒魔法を使える魔術師は、パーティーの生命線である。その場所をフェンが勤めれば、どのパーティーよりも持久力を持つパーティーになれるはずだ。
それに、例え陽の魔力を持っていても攻撃魔法が使えないわけでは無い。性質が違う魔法を使えば、性質の合う魔法よりも威力が減ったり消費魔力が増えるだけだ。しかしフェンならば、やろうと思えば自衛くらい出来るようになる。いちいち戦闘員もフェンを気遣う必要が無いのだから、とても戦いやすくなるはずだ。
嬉しそうに笑みを浮かべているフェンの次は、ゲイリーが水晶に触った。ゲイリーが水晶に触ると、水晶は緑色の輝きを放つ。しかし今までとは違い、その光は弱まることなく稲妻のような光へと変わって行った。
「うおっ、何だこれ? せんせー、これどういうこと?」
「ほう、これは雷属性の魔力か。珍しいな。どおりでお前の風魔法はコントロールが効かない訳だ」
「……? つまりどういうこと?」
「雷属性は、風属性の魔力に近い性質を持つが、風属性よりも圧倒的に攻撃力が高い特性がある。攻撃に特化していて、魔力の出力が高くなるから自分では抑えているつもりでも、通常の魔法より魔力を多く使用していたからコントロールが難しくなっていたんだろう」
魔力には火、水、風、土、聖、闇などの属性がある訳だが、属性にはそれぞれ特徴がある。
例えば火は攻撃、水は支援、風はバランス、土は防御、聖は浄化、闇は消失と言った具合に、得意な事が分かれていた。
そんな魔力の属性の中でも、特に役割が特化している魔力を持つ人が偶に現れることがある。ゲイリーの雷属性は、風属性の魔力の中でも攻撃に特化した魔力の属性だ。
この特化した属性を持っている人は、グロウの前世でもそこまで数はいない珍しい属性だったが、全員に共通していることがあった。
得意な分野に関しては、普通の魔術師では比べ物にならない成果を出すと。
「ゲイリーは攻撃特化型の魔術師になれる。攻撃だけなら、シュティー以上になるかもしれないぞ?」
「おお、そりゃ凄い」
いつもの様に飄々とした態度のまま、ゲイリーは後ろに下がって行く。しかし、嬉しそうな笑みは全く隠せてはいなかった。
そしてゲイリーと入れ違いでやってきたのはシュティーだ。
シュティーは何故か嬉しそうにしているゲイリーを一瞬だけ見ると、頬を膨らませて水晶に触れる。
「シュティー、ゲイリーなんかに負けないもん」
「なんかって……」
どうやらシュティーはゲイリーに負けると聞いて対抗心が芽生えたらしい。少しムッとした表情のままシュティーが水晶に触れていると、水晶は強い光を放ち出し、やがて色は虹色へと変わって行った。
「虹色……という事は全属性に適性アリか……流石は魔導師と言ったところだな。これは俺も見たことが無い」
虹色の属性は、全属性に適性アリ。つまりどんな魔法でも最大限の威力で放つことが出来る属性だ。全ての魔法を極め、魔術師を導く魔導師の名に偽り無しという訳か。
「当時の国が魔導師を特に重宝した理由が分かるな。相手がどんな魔法を使おうと、魔導師は相手の魔法を理論上全て撃ち返せる。攻めも守りも魔力が続く限り完璧にこなせる訳だからな」
グロウが過去に見た魔導師も、そう言えば様々な魔法を完璧に発動させていた。グロウの知っている魔法の殆どは、当時の魔導師から教わったものだ。グロウは魔力は多少あっても魔法剣士だったため大した魔法を使う事は出来なかったが、それでもあの完璧な魔法を見たからこそ今生徒たちに魔法を教えられている。
虹色の輝きを放つ水晶を、生徒たちはうっとりとした表情で見つめていた。自然と人を引き付ける魔力は、シュティーの人柄までも反映されているのかもしれない。
そうして暫く生徒たちが水晶を見つめていると、いきなり水晶の中から何かが割れるピキッと言う音が聞こえてきた。
「「「「「へ?」」」」」
パリーンッ‼
そして水晶は派手な音を立てながら、真っ二つに割れてしまった。生徒たちは呆然と、割れてしまった水晶を見つめている。
「水晶が、割れた……?」
「魔動具って、たくさんお金かかるよね?」
「そ、そんな……」
生徒たちは、割れた水晶を見つめて顔を蒼白く染めていた。そして水晶に触っていた状態で固まっていたシュティーは、ぷるぷると震え出してやがて大きな瞳に大粒の涙を浮かべてしまった。
「せんせい、えっと……その……ご、ごめんなさ~いっ‼」
そしてとうとう泣き出してしまったしまったシュティーを、慌ててエリカが宥める。しかしシュティーは泣き止まずに、大声で泣き続けていた。
シュティーの様子を見て、グロウはゆっくりとシュティーの元へ歩いて行き手を伸ばす。怒られると思ったのか、シュティーはギュッと目を瞑った。
だが、グロウは伸ばした手で優しくシュティーの頭を撫でると、いつもよりも少しだけ穏やかな声音で口を開く。
「安心しろ。これは授業中に起きたちょっとした事故だ。シュティーに非は無い。だから何も心配するな」
「で、でもぉ……」
「どうせそんな性能の悪い魔道具、シュティーの魔力に耐えられる訳が無い。最初からその水晶には欠陥があったんだ」
リックから渡されたこの水晶は、使用者の魔力をある程度取り込むことで属性を解析する魔道具だった。この時取り込む魔力の基準はあくまで容積。鉄と金を同じ大きさの容器に入れた場合、重さは金の方が重くなる。容器の耐久によっては、同じ量でも重過ぎて壊れてしまう事もあるだろう。
それと同じで、あの水晶の中に取り込まれる魔力は質を全く考慮されていないため質の良い魔力を取り込み過ぎるとすぐ壊れてしまう。
だからこそ、グロウは見本として最初に自分やナケア、ルピナに水晶を触らせなかったのだから。
「フェンでも行けたから、もしかしたらシュティーも行けるんじゃないのかと思ったんだが、まあシュティーの前にゲイリーも使っていたし、無理に決まていたな。これは俺の不注意が原因だ。だからシュティーが気に病むことは無い」
それにこの程度の魔動具ならば、幾らでもグロウは作ることが出来る。
弁償しろと言われたら、性能をこの水晶の十倍くらい上げて、この水晶を作った技術者の心を折ってやろう。
グロウが本気の顔でそう言うと、やがて落ち着いたのかエリカの腕の中で泣いていたシュティーが漸く笑顔を浮かべてくれた。
「ありがとう、せんせい」
「礼を言われる事はしていない筈だが、どういたしまして」
シュティーはエリカにもお礼を言うと、そのままエリカの胸に顔をうずめた。
これでシュティーは泣き止んでくれたが、水晶が無くなってしまったのでこれ以上魔道具を使ってまだ調べていない生徒の属性を調べることが出来ない。
「魔道具については仕方が無いか。それじゃあ残りの生徒は俺が調べるとしよう」
「え、先生は自分で属性を調べられるの? それじゃあどうして態々あの水晶を使っていたんですか?」
「ああそれは、今の魔道具の性能を確認しておきたくてな。大体わかったから、もうあの魔道具を使う必要はそもそも無くなった」
グロウはアイテムボックスから一枚の巻物を取り出す。【鑑定】の魔法陣か刻まれた、いつかの授業で使ったものだ。
「先生それって、一ヶ月くらい前に使った奴? でも、それって魔力の属性は分からなかった筈じゃあ?」
グロウの近くに近づき、手に持っていた巻物を覗き込んできたフィオナは、その魔法陣を見て直ぐに効果を言い当てる。
確かにこの簡易版の魔法陣では、魔力の属性までは知ることが出来ない。しかし、グロウはほんの少し口角を上げると、生徒たちに見えるように巻物を持ち上げた。
「元々この魔法陣は、基礎となる魔法陣に魔法式を組み込むことで魔法を発動させている。つまり中の魔法式を変えれば、別の魔法にすることも出来るんだ」
そう言いながら、グロウは自分の魔力で魔法陣に刻まれている線を幾つか消して、新たな式を刻み込んで行く。
今はまだ生徒たちでは不可能な程緻密で複雑な魔法陣が、瞬く間に巻物へ刻まれる。そうして数秒の内に出来上がった魔法陣は、まだ調べられていない生徒たちの足元に出現すると、生徒たちの目の前に自分の属性が浮かび上がらせた。
氏名 サクラ=ワード
職業適性 魔術師(魔弓) 属性/聖
MP 350/350
魔力 B
氏名 フィオナ
職業適性 魔術師 属性/火
MP 330/330
魔力 C
氏名 ブレンダ=マクニー
職業適性 魔術師 属性/風
MP 280/280
魔力 C
「元々あった魔法を改変させた!? いえ、これは追加?」
「既に完成されている魔法陣に効果を追加させるには、それなりにコツがいるからまだお前たちには出来ないだろうが、これが出来れば仲間の魔法を更に強化させたり、逆に敵の魔法を弱体させることも出来るようになる。有用な魔法だから後数ヶ月もすれば全員に覚えてもらうぞ?」
前の魔法の効果を後から追加、消去、改変させる魔法は、便利ではあるのだが魔法式がかなり複雑になる。未だにエリカも完全に成功させることは出来ていないのだが、ここの生徒なら多分数ヶ月の内に出来るようになるだろう。
全員の属性を調べ終わったところで、丁度良く下校のチャイムが運動場に鳴り響く。こうして今日も、グロウの授業は無事に終わりを迎えた。
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