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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第99話 叱責




 城の一室に、緒方は呼び出されていた。


「話がある」


 侯爵の声には、いつもとは違う硬さがあった。


「お前、契約奴隷たちに、あの端末を、無防備に持たせているそうだな」


「……はい」


「拉致されたら、どうする。奪われたら、どうする」


 侯爵は、机を軽く叩いた。


「指紋だ、顔だと言っても、本人を無理やり押さえつければ、それまでだろう。あの中には、地図の情報も、地球の技術そのものも、詰まっている。それが、敵対する勢力の手に渡ったら、どうなるか、考えたか」


 緒方は、言葉に詰まった。


「……考えが、甘かったです」


「お前は、良い商人だ。だが、まだ、統治というものを、分かっていない」


 侯爵は、静かに、しかし厳しく言い切った。


「便利なものほど、扱いを誤れば、命取りになる。それを、忘れるな」


「申し訳ありません」


 緒方は、深く頭を下げた。返す言葉が、なかった。


―――


 その日のうちに、緒方は、ロイド、ミラ、ノルド、フィアから、端末を回収した。


「これからは、屋敷に据え置いて、業務の時間内だけ使う形にする」


「……そう、ですか」


 ノルドが、少し残念そうな顔をしたが、すぐに納得した様子で頷いた。


「持ち出さない方が、安全ですものね」


「せっかく、便利になってきたと思ったんですけど」


 フィアも、肩を落としながら、それでも理由には頷いた。


「悪い。俺の詰めが甘かった」


 緒方は、素直に謝った。四人は、それぞれ、静かに端末を返却した。


―――


 数日後、緒方は、侯爵の助言もあって、端末の運用先を、改めて考え直していた。


「王国の外に出る機会が多い者にも、一つ、必要だと思うんです」


「勇者パーティーの、誰かにか」


「はい。信頼できて、判断力のある人物に」


 白羽の矢が立ったのは、結城だった。


「俺が、預かるのか」


 結城は、渡された端末を、しばらく、じっと見つめていた。


「これ、結構、重い責任だな」


「頼りにしてる」


 緒方の言葉に、結城は、小さく頷いた。


「分かった。無くさないように、気をつける」


 新しい信頼の形が、少しずつ、築かれ始めていた。


―――


 地球側、小山市の施設内の空き地で、翌朝、大塚の「世界書き換え——というか、めんどくさい実地作業」が始まった。


 彼は、あくびを噛み殺しながら、持ち込んだ産業用ドローンを起動し、上空へと放った。


「これから、王都全体を、これで空撮する。手順は、まあ、見ての通りだ」


 ドローンは、自動飛行プログラムに従い、網の目のように上空を往復しながら、高解像度のカメラで、街並みをパシャパシャと機械的に撮影していく。


「回収したデータは、こっちで一度、処理の仕方を確認してから、向こうに送る」


 大塚は、そう説明しながら、地上に置いたパイプ椅子に腰を下ろし、煙草を一本、ゆっくりと吹かしていた。


―――


 この一連の動作を、動画で確認した緒方は、作業を開始した。


 異世界側に転送された、同じ型のドローンを、緒方は、王都の上空へと放った。


 ドローンは、自動飛行プログラムに従い、網の目のように王都の上空を往復しながら、高解像度のカメラで、街並みを撮影していく。緒方は、その間、地上で椅子に座って、お茶を飲んでいた。


「……これ、本当に、俺が何かをする必要、あるのか」


 あまりの手間のかからなさに、緒方は、思わず苦笑した。


 夕方、回収したドローンのデータを、部屋のローカルサーバーへ転送する。


 サーバー内の自動マッピングソフトが、数千枚の写真の端々を勝手に照合し、まるで立体的なパズルを組み立てるように、王都の3D地形図を作り上げていく。


 カタ、と緒方が投げやり気味にエンターキーを押すと、そのデータが、屋敷内のWi-Fiを通じて、侯爵の手元のスマホへと同期された。


―――


「……嘘だろ」


 オーレス侯爵は、スマホの画面を、震える指でスクロールしていた。


 画面を広げれば、自分の屋敷の瓦一枚、庭の植木一本まで、鮮明に見える。そして、その写真地図の上を、自分自身を示す青い点が、歩くのに合わせて、リアルタイムで動いていくのだ。


「宮廷絵師が、一生をかけても作れなかった完璧な地図が、お前がお茶を飲んでいる間に……。緒方よ、これがあれば、軍の進軍も、物流も、国のすべてが変わるぞ!」


「そうですね。でも、これはまだ、王都っていう『イチ』に過ぎないので」


 緒方は、お茶を飲んで、伸びをした。


「この発電機と、電波塔と、サーバーのセットを、次の街へ、その次の街道へと広げていく。そうすれば、この画面の中で、世界中の霧が、晴れていきます。……あー、想像しただけで、次の出張が重苦しくなってきました。オーレス侯爵様、美味い食べ物とマッサージ師、手配してください」


 こうして、現代の科学技術と、一人の気だるげな四十代のおっさんの手によって、この世界のすべてを記録する「異世界マップ」の第一歩が、始まった。


 動画の最後には、大塚の締めの言葉が、こう添えられていた。


「問題発生したら対応する……あー、素早く」

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