↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/147

第91話 持ち帰れないもの





 その記者は、緒方の母が暮らす支援施設の近くで、それとなく声をかけてきた。


「失礼、少し、お伺いしたいことが」


「……どちら様でしょうか」


 緒方の母は、警戒を滲ませながら、それだけ返した。


「拓也くんのご活躍、いつも拝見していまして。ご家族としては、どんなお気持ちですか」


「……あの、拓也くんとは、家族ではありませんが」


 緒方の母は、そう返しながら、内心、少し呆れていた。この記者は、自分と拓也の関係を、何か思い違いをしているらしい。息子の勤が拓也と関わりがあることまでは掴んでいても、その先の詳しい繋がりまでは、正確に把握できていないようだった。


「あ……そう、でしたか。失礼しました」


 記者は、わずかに動揺した様子を見せたが、すぐに、質問を切り替えた。


「では、その——緒方さんとの関係で、何か」


「特に、何も。ただ、応援しているだけです」


 母は、それだけ答えて、逃げるように、施設の中へと戻っていった。


 記者は、その後ろ姿を見送りながら、小さくメモを取った。


「……まあ、今日はこんなもんか」


 決定的な収穫はなかった。それでも、彼の中の勘は、まだ、静かに燻り続けていた。


―――


 城の一室で、緒方は、侯爵に、ガラニア国の詳しい状況を尋ねていた。


「結城くんたちから、頼まれまして——ガラニア国の、その後の情勢を、詳しく知りたいのですが」


「そう簡単な話じゃないぞ」


 侯爵は、書類を一枚、緒方に示した。


「隣国は、すでに、国境沿いのいくつかの町を、制圧しつつあるらしい。ガラニア国側は、内紛のせいで、まとまった防衛線を張れていない」


「王家は……」


「まだ、生きているという情報はある。だが、いつまで持つかは、分からん」


 緒方は、その言葉に、重い息を吐いた。


「これを、あの子たちに、伝えるべきでしょうか」


「事実は事実だ。隠しても、いずれ分かる」


 侯爵の言葉に、緒方は、しばらく考え込んだ。伝えるべきかどうかより、どう伝えるべきか——その方が、今の自分には、難しい問題に思えた。


―――


 地球側では、インターハイ全国個人が開催されていた。


 拓也が会場に姿を見せると、観客席から、小さなどよめきが起きた。


「あ、中野だよ! 玉竜旗の……!」


「本物だ、本物!」


 中には、手作りの応援ボードを掲げているファンの姿もあった。ボードには、なぜか「五人抜き応援団」という文字が、やや不揃いな筆致で書かれていた。


「……あれ、俺の名前、間違ってないか」


 ボードをよく見ると、「中野拓哉」と、微妙に誤字が入っていた。周囲の選手たちが、その光景に、小さく吹き出す。


 拓也は、苦笑しながらも、気を取り直して、会場へと向かった。


―――


 試合は、拍子抜けするほど、あっさりと決着がついた。


 一回戦、二回戦と、拓也は、相手の初太刀を軽くいなし、ほとんど時間をかけずに一本を決めていった。


 強豪と呼ばれる選手たちも、拓也の一瞬のスピードには、ついていけなかった。反射的に竹刀を合わせようとするが、その動きが完成する前に、勝負が終わっている——そんな試合が続いた。


「速すぎて、逆に、盛り上がりに欠けるな」


 観客の一人が、そんな感想を漏らすほどだった。


 決勝も、同様の展開だった。拓也は、危なげなく一本を決め、インターハイ個人、全国優勝を果たした。


 表彰式の後、拓也は、荷物をまとめながら、小さく息を吐いた。派手さはなかったが、確かな結果を、また一つ、積み重ねることができた。


―――


 その夜、小山市の支援施設、大ホールでは、家族会の定期上映会が開かれていた。


 参加者は、全員、事前に守秘義務契約を交わしている。撮影、録音、映像の持ち出しは、一切禁止。持ち帰ることができるのは、自分の記憶だけだった。


 スクリーンには、緒方の屋敷の様子、そして、ケインの元仲間たちの姿——虎系獣人のガルム、エルフのシルヴィアの映像が、初めて映し出された。


「うわ、本当に、獣人っているんだ……」


「エルフの人、耳、本物なんですね」


 参加者たちが、口々に、感嘆の声を上げる。


「この屋敷、すごいですね。中世のお城みたいで」


「緒方さんの拠点、随分立派になったんだな」


 最近は、これまで参加していた両親・きょうだいだけでなく、親戚筋にあたる人々にも、少しずつ参加の範囲が広がっていた。守秘義務契約の重さを理解できる、ごく近しい身内に限られてはいるが、それでも、上映会に集う顔ぶれは、以前よりも賑やかになっていた。


「あの、虎の人の毛並み、写真、撮ってもいいですか」


 参加者の一人が、興奮気味に、そう尋ねた。明らかに、オタク気質を隠しきれない様子だった。


「申し訳ありませんが、撮影は、契約で禁止されておりまして……」


 スタッフが、苦笑しながら、やんわりと断る。


「そうか、そうですよね……。じゃあ、目に焼き付けます」


 その参加者は、残念そうにしながらも、素直に頷いて、スクリーンに向き直った。


 異世界の光景が、少しずつ、地球側の日常に溶け込んでいく——そんな空気が、上映会の会場には、確かに漂っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。