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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第89話 新しい拠点





 大会を終え、会場の外に出たところで、拓也は、スポーツ紙の記者に囲まれた。


「今日の五人抜き、三連発、率直な感想を」


「はい、チームのおかげです」


 拓也は、無難に受け答えを続けた。取材自体は、これまでにも何度か経験のあるものだった。


「進路について、大学からの誘いも多いと聞きますが」


「もう、決まっているので」


 当たり障りのない質問が、しばらく続いた。だが、最後に、記者の一人が、声のトーンを変えて、こう切り出した。


「話は変わりますが——数年前の、あの失踪事件について、何か覚えていることはありますか」


 その瞬間、拓也の中で、何かが強張った。


 意識するより先に、身体の奥から、覇気が漏れ出した。矛先は、無意識のうちに、目の前の記者へと向いていた。


「う、あ……」


 記者が、突然、膝の力が抜けたように、その場によろけた。


「危ない」


 拓也は、咄嗟に手を伸ばし、倒れかけた記者の身体を支えた。


 支えたまま、他の記者たちには聞こえない声量で、耳元に、短く囁く。


「それは……政府案件ですので、政府に、聞いてください」


 声は小さかったが、それだけは、はっきりと伝わった。


 記者は、青ざめた顔のまま、拓也から身体を離した。何が起きたのか、自分でもよく分かっていない様子だったが、その目には、何かを察したような色が、浮かんでいた。


「……分かりました。今日は、これで」


 記者たちが引き上げた後、駆け寄ってきた先生が、拓也の肩に手を置いた。


「今の、大丈夫か」


「……すみません。ちょっと、抑えきれませんでした」


 拓也は、それだけ答えて、まだ落ち着かない自分の呼吸を、ゆっくりと整えていった。


―――


 その頃、異世界では、緒方の暮らしが、大きく様変わりしようとしていた。


「これを、お前の新しい拠点として使え」


 侯爵——かつてのオーレス伯爵——が、緒方に、一枚の書類を差し出した。空き家になっていた貴族屋敷の権利証だった。


「テラ・マートも、これからは、この屋敷を拠点にするといい。名誉男爵の肩書きに、みすぼらしい店構えは似合わん」


「ありがとうございます」


 緒方は、その規模の大きさに、内心、戸惑いを隠せなかった。


 警備には、新たに騎士爵に叙されたバロンが、指揮を執ることになった。屋敷の規模に合わせ、バロンの部隊には、数名の警備兵も新たに加えられることになった。


「これまでお世話になった、ガレン、トビ、クルトも、俺の部隊に加わってもらう。気心の知れた顔ぶれの方が、動きやすいだろう。人数が足りない分は、新しく数名、補充する予定だ」


「よろしく頼みます」


 屋敷の管理要員は、別途、王国から派遣されることになった。事務方も、侯爵から数名が回され、税務や商人対応、貴族との窓口を担うことになる。


「その中の一人、レナートが、お前と王国側の、正式な連絡窓口になる」


「レナートと申します。至らぬところもあるかと思いますが、よろしくお願いします」


 物腰の丁寧な文官が、丁重に頭を下げた。


 ロイド、ミラ、ノルド、フィアは、引き続き、緒方の業務補佐として働くことになった。四人には、それぞれ、従事者としての部屋が新たに与えられた。


「こんな部屋、もらっていいんですか」


 ミラが、目を丸くしながら、緒方に尋ねる。


「まあ、遠慮せず使ってくれ」


 緒方は、苦笑しながら、そう答えた。一気に膨らんだ体制の大きさに、正直、まだ実感が追いついていなかった。


―――


 その夜、緒方は、一人、静かに考え込んでいた。


 ——勇者召喚は、負債を伴う。


 侯爵が、以前、そう言っていたことを、緒方は思い返していた。


 この国でも、英雄と呼ばれた第三王子は、戦での大勝利の後、病で急死した。皇太子は、焦りから暗殺計画を企て、幽閉された。皇太子派筆頭の侯爵は、爵位を剥奪された。


 どれも、勇者召喚という、神からの恩恵に連なる出来事の後に起きた、大きな代償だった。


 ——神からの恩恵の代償は、国を傾ける。そういう伝承が、あるのかもしれない。


 緒方は、その考えを、頭の中で静かに言語化した。もし、それが本当なら、勇者召喚は、軽々しく行っていいものではない。むしろ、積極的には避けるべき手段なのかもしれない——そんな思いが、緒方の中に、静かに芽生え始めていた。


ーーー


 数日後、レナートが、緒方のもとに、一つの報告を持ってきた。


「ガラニア国の情勢について、新しい情報が入りました」


「何かあったのか」


「内紛で、国が二つに割れかけているところに——海のない隣国が、その混乱に乗じて、侵攻を仕掛けたようです」


 緒方は、その報告に、思わず息を呑んだ。


 ——やはり、代償は、続くのか。


 ガラニア国の混乱は、まだ、終わっていない。それどころか、さらに深刻な事態へと、転がり始めていた。


 緒方の脳裏に、クロエたちの顔が、ふと浮かんだ。彼女たちを召喚した、あのガラニア国が、今、どうなっているのか——その答えは、まだ、誰にも分からなかった。


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