第86話 三人の仲間
「今日、行ってみる」
ケインが、朝の支度をしながら、短く告げた。
「俺も行く」
結城が、すぐに頷いた。
「皆も、来るか?」
「行くに決まってるだろ」
神崎が、軽く笑いながら答えた。東條、皆川、ロイも、それぞれ頷いた。
王都から一番近いダンジョン——資金稼ぎの冒険者たちで賑わう、さほど深くはない場所だった。ケインを先頭に、一行は階層を進んでいった。
「気配、感じるか」
結城が、小声で尋ねる。
「まだ、はっきりとは」
ケインの声には、これまでにない緊張が滲んでいた。
二層、三層と進むうち、奥の広間で、複数の人影が魔物と交戦している気配が見えた。
「……あれは」
ケインの足が、止まった。
広間では、剣を構えた長身の女性、虎のような獣耳と尾を持つ大柄な男、杖を手にしたエルフの女性が、息の合った連携で魔物の群れを退けているところだった。
―――
「クロエ! ガルム! シルヴィア!」
ケインが、思わず駆け出した。
声に気づいた三人が、一斉に振り返る。剣を構えた女性——勇者クロエが、目を見開いた。
「……ケイン? 本当に、ケインなのか?」
「ああ。生きてたんだな、お前ら」
ケインの声は、わずかに震えていた。
虎系獣人の男——ガルムが、低く唸るように笑った。
「お前こそ、よく無事だったな。あの後、どうなったかと思ってた」
「お互い様だろ」
エルフの精霊術師——シルヴィアが、杖を下ろしながら、静かに目を潤ませた。
「本当に……良かった」
四人は、しばらく、互いの無事を確かめ合うように、言葉を交わし続けた。これまでの逃避行の苦労、それぞれが歩んできた道のりが、断片的に語られていく。
「お前、ずいぶん、まともそうな連中と一緒にいるな」
クロエが、結城たちの方へ視線を向けた。
「世話になってる。色々あって、合流したんだ」
ケインが、簡単に説明する。
「この国の、勇者パーティーだ。お前らとは、立場が違うが——悪い連中じゃない」
神崎が、軽く会釈する。
「神崎です。話は、ケインから少し聞いてます」
クロエは、しばらく結城たちを見定めるように見つめてから、小さく頷いた。
「……そうか。世話になったんだな、こいつが」
「これから、どうするんだ」
結城が、慎重に切り出す。
クロエ、ガルム、シルヴィアは、互いに視線を交わした。
「すぐには、決められない」
クロエが、そう答えた。
「色々、確かめたいこともある。今日のところは、これだけで十分だ」
「そうだな」
ケインも、それ以上は踏み込まなかった。
再会の興奮が落ち着いた後、双方は、また連絡を取り合うことを約束して、その日は別れることになった。
―――
地球側では、インターハイ栃木県予選が行われていた。
団体戦は、決勝で、再び佐野と当たった。前回と似た展開で、中堅・副将が力及ばず敗れ、団体戦の勝敗は決した。佐野は、今回も、拓也との対戦を見越した布陣を組んでいた。
「団体は、また二位か」
顧問の先生が、悔しさを滲ませながらも、すぐに気持ちを切り替えた。
個人戦では、拓也が、危なげなく勝ち上がり、決勝でも一本を決めて優勝を果たした。
「やったな、中野」
仲間からの声に、拓也は、小さく頷いた。
大会後、控室で、先生が部員たちに告げた。
「三年は、今日でひと区切りだ。受験に専念してくれ」
部員たちの間に、静かな空気が流れた。進学校である以上、これは、最初から分かっていたことだった。
「中野だけは、別だ。お前は、続けてもらう」
拓也は、その言葉に、特に驚かなかった。国家プロジェクトとの兼ね合いを考えれば、当然の判断だった。
「二年を中心に、次は七月の玉竜旗だ。気持ちを切り替えていくぞ」
「はい!」
部員たちの声が、控室に揃った。三年生たちが去った後の部活は、また少し違う顔ぶれで、新しい一歩を踏み出すことになる。
拓也は、その輪の中で、一人だけ違う立場のまま、次の目標を見据えていた。




