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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第83話 灰色の証拠




 緒方は、いつも通り、伯爵との定例の会談に臨んでいた。


「先日、話した件だが」


 伯爵は、書類を一枚、机の上に滑らせた。


「想定外の動き、というのは——公爵家の男子の周辺の話だ」


「公爵家、というと——王女様の、お相手に推薦された」


「そうだ」


 伯爵は、淡々と続けた。


「あの男、思ったより、乗り気じゃないらしくてな。政治から距離を置いてきた人間だ。急に担ぎ上げられて、戸惑うのも無理はない」


「断る、ということは」


「表立っては言わんだろう。だが、周りの貴族の中には、これを好機と見て、横から割り込もうとする者も出てきている」


 伯爵は、書類の一点を指で示した。


「特に、もともと公爵家と縁の深い、いくつかの家がな。婚姻の話に、自分たちの娘や息子を絡めようと、画策し始めている」


 緒方は、その内容を、頭の中で整理しながら聞いていた。


「これは、王女様にとって、危険な話ですか」


「危険というより——面倒な話だ。せっかく固まりかけた継承の流れが、また揺れかねない」


 伯爵は、それだけ言うと、書類を片付け始めた。


「今日は、ここまでにしておこう」


 会談を終え、店に戻った緒方は、胸元の機材を確認した。今日も、伯爵の言葉は、確かに収まっている。


 ——公爵家、か。


 緒方は、帰り道、その名前を、頭の中で繰り返していた。


―――


 その頃、結城たちのパーティーは、王都近郊の小規模なダンジョンで、ケインを迎えての初めての任務に取り組んでいた。


「先に行く。罠の有無、確認してくる」


 ケインが、足音を立てずに、先頭へ進み出る。


 ロイが、その動きを、横目で観察していた。


「……速いな」


「向こうじゃ、これくらい、当たり前だった」


 ケインは、軽くそう答えながら、壁の継ぎ目を確認していく。


 奥の部屋で、複数の魔物が湧いた時も、ケインの対応は速かった。気配を殺したまま側面に回り込み、群れの一体を、ほとんど音もなく仕留める。残った魔物も、神崎・東條の前衛と、皆川の支援であっという間に片付いた。


「いい腕だ」


 神崎が、素直に評価した。


「世話になる」


 ケインは、短くそう返しただけだった。


―――


 休憩がてら、焚き火を囲んだ時、皆川が、おそるおそる切り出した。


「あの、向こうの国——ケインさんの、元の故郷って、どんな所だったんですか」


 ケインは、しばらく黙っていたが、やがて、ぽつぽつと話し始めた。


「俺の国にも、魔族がいた。普通に、街の中で暮らしてる」


「魔族、ですか」


「角を持つ部族もいれば、皮膚が、爬虫類みたいな部族もいた。見た目は色々だが、能力は、人間とそう変わらない奴も多い」


 結城は、以前、果物店主から聞いた話を思い出していた。


「……それ、もう、俺たちの国とは、まったく別の星の話ですよね」


 結城が、確信を込めて言った。


「角を持つ部族や、爬虫類の皮膚を持つ部族が、普通に街で暮らしてる——それは、もう、似たような国の延長線上にある話じゃない」


「だろうな」


 ケインも、あっさりと頷いた。


「俺も、こっちに来てから、ようやく実感した。自分の故郷と、この国と、お前たちの国——どれも、別々の星から、勝手に集められてるんだろうって」


 東條が、低く相槌を打った。


「召喚ってのは、一つの星から人を引っ張ってくる話だと、ずっと思ってた」


「実際は、もっと広い範囲から、寄せ集めてるんだろうな」


 神崎が、焚き火に薪を足しながら、淡々と言った。


「便利な道具を、あちこちから集めてくる感覚なのかもしれない」


 皆川が、表情を曇らせた。


 結城は、その場の沈黙を、頭の中で整理しようとした。複数の惑星から、複数のパーティーを召喚している——そう考えれば、ガラニア国の事情も、この国の事情も、すべて、同じ構造の上に乗っているだけのことになる。


「俺たちは、ただの、寄せ集めの中の一組ってわけか」


 結城は、その夜の焚き火を見つめながら、その考えを、自分の中に、確かなものとして刻み込んでいた。


―――


 王城の一室で、第二王女は、側近からの報告を受けていた。


「分かる範囲で、調べてまいりました」


 側近が、丁寧に資料を差し出す。


「オーレス伯爵について、いくつか、傍証は集まりました。ただ——決定的なものは、何も」


「野心家、ということ?」


「そうとも、言い切れません。王家を本当に支えたいだけ、という見方をする者もおります」


 王女は、資料に、ゆっくりと目を通した。


「灰色、ということね」


「申し訳ありません」


「いいの。すぐに、白黒つく話でもないでしょう」


 王女は、資料を閉じると、窓の外に視線を移した。


 次に、自分が何をすべきか——その答えは、まだ、はっきりと見えていなかった。


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