↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/147

第82話 関東への切符



 五月、栃木県高校総体兼関東大会県予選の会場には、例年以上の熱気が漂っていた。


「中野、今日は気負わずいけ。お前なら大丈夫だ」


 顧問の先生の声に、拓也は短く頷いた。三月の全国大会には立てなかった分、今日という日が、ようやく自分の足で立てる舞台のように感じられた。


 団体戦は、決勝で佐野と当たった。


 先鋒、次鋒と、互角の勝負が続く。中堅で一本を先取され、副将も力及ばず敗れ、団体戦の勝敗は、その時点で決していた。佐野の選手が、一歩、力で上回った。


 残るは、拓也の出る大将戦だけだったが、佐野は、ここに勝負を捨てた選手を立てていた。最初から、拓也との一戦は捨て、他の四つで星を稼ぐ——そういう戦術だった。


 拓也は、悔しさを噛み締めながらも、相手の動きの良さを冷静に見ていた。約四ヶ月の間に、佐野もまた、確実に力をつけていた。


 団体戦は、二位。


 午後の個人戦では、拓也は危なげなく勝ち上がっていった。決勝の相手は、佐野のエースで力強さを持つ選手だったが、拓也は最後まで崩れず、一本を決めて優勝を果たした。


 道場に、ひときわ大きな拍手が響いた。拓也は、面を外しながら、ようやく肩の力を抜いた。


 試合後、控室で、顧問の先生が、部員たちを集めた。


「団体は、悔しい結果だった。だが、佐野もよく仕上げてきた。あれだけ力をつけてきた相手に、ここまで食らいついたのは、誇っていい」


 先生は、それから、すぐに表情を切り替えた。


「気持ちを切り替えるぞ。次は、六月の関東大会だ。それと、インターハイ予選も控えてる。やることは、まだまだ山ほどある」


「はい!」


 部員たちの声が、控室に揃った。拓也も、その輪の中で、改めて気を引き締め直していた。


―――


 大会の結果は、その日のうちに、神崎たちのもとにも届いていた。


「団体は惜しくも二位、個人は優勝、か」


 神崎が、報告書に目を通しながら呟いた。


「順調そうで、何よりです」


 佐伯が、軽く笑って答えた。


 その夜、緒方は、拓也との通話で、結果を聞かされた。


「団体は負けたんですけど、個人は優勝できました」


「やったな。団体の方は、残念だったけど」


「次は、六月に関東大会です。それと、インターハイ予選も」


「忙しいな、お互い」


 緒方は、苦笑しながら、それだけ返した。


―――


 その頃、緒方の店では、別の動きが進んでいた。


 オーレス伯爵が、勇者パーティーの安全と意思の尊重を、改めて容認している今——緒方は、その流れを利用して、店で働いているケインを、結城たちのパーティーに加えられないか、伯爵に打診していた。


「ケインを、ですか」


「ええ。あの五人のパーティーには、今、斥候役が一人欠けています。ロイ一人が、その穴を埋めている状態です」


 伯爵は、しばらく考えてから、頷いた。


「あの男の素性は、お前から、ある程度は聞いている。構わない。勇者パーティーの戦力強化に繋がるなら、こちらにも利がある」


 話は、思いのほか、すんなりとまとまった。


―――


 数日後、結城たちのもとへ、ケインが正式に加わることになった。


「世話になる。腕は、悪くないと思ってる」


 ケインが、軽く頭を下げる。


「助かるよ。正直、ロイ一人じゃ、限界を感じてたところだった」


 結城が、安堵の表情を見せた。


「俺一人で、何とかなってたとは思うんですけど……」


 ロイが、苦笑しながら、頭をかいた。


「無理はしてただろう」


 東條が、短く指摘する。ロイは、それ以上、反論しなかった。


「俺は、足を引っ張ることはない。できる限り、力になるつもりだ」


 ケインの言葉に、皆川が、にこやかに頷いた。


「これで、少しは楽になるかしら」


「だといいけどな」


 神崎が、軽く笑いながら、ケインの肩を叩いた。


 新しい顔ぶれを迎え、結城たちのパーティーは、また一歩、その形を変えていった。


―――


 地球側では、政治パートの進捗も、少しずつ動いていた。


 第二王女の側近からの調査は、まだ「分かる範囲で、もう少し時間がかかりそうです」という段階にとどまっていた。


 一方、緒方も、伯爵が匂わせた「第三王子周辺の想定外の動き」について、まだ詳しい中身を掴めずにいる。隠し撮りの映像にも、これといった追加の手がかりは映っていなかった。


「焦っても、仕方ないな」


 緒方は、そう自分に言い聞かせながら、次の手がかりを、静かに待つことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。