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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第74話 新しい窓口



 緒方からの報告は、神崎(父)を通じて、政府内でも、共有されていた。


「オーレス伯爵が、内相に就任した、ということですね」


 会議室に集まった担当者たちは、資料を前に、それぞれ、考え込んでいた。


「これまでの取引は、緒方くん個人の繋がりに、頼っていた部分が大きい。だが、内相という、正式な立場の人間が出てきたなら——」


「正式な交渉の窓口にできる、ということですか」


「可能性としては、ある。ただ、慎重に進める必要がある」


 政府内では、オーレス伯爵という人物を、どこまで信頼できる相手として扱うべきか——その検討が、静かに始まっていた。


―――


 同じ頃、王城では、もう一つの動きが、進んでいた。


「勇者パーティーの管理について、私が、お引き受けしたいと思います」


 オーレス伯爵が、そう申し出た。


 これまでの担当者(皇太子の周辺)が、軒並み処分を受けたことで、勇者パーティーの扱いは、宙に浮いた状態になっていた。内相という立場になった伯爵が、その役目を引き継ぐことは、誰の目にも、自然な流れに見えた。


「伯爵様が、ですか」


 結城たちのもとにも、その知らせが届いた。


「悪い話ではないと思うが……」


 神崎が、慎重に、言葉を選ぶ。


「緒方さんとの繋がりもある人だし、無下にはされないだろうけど」


 皆川の言葉に、結城も、頷いた。


 窓口がいなくなったことへの不安は、これで、ひとまず、解消された。それでも、伯爵が、どこまで本気で、自分たちのことを考えているのかは、まだ、分からなかった。


―――


 異世界の騒動が、ひとまず落ち着いた頃、地球側では、年が明けていた。


 拓也の通う高校の剣道部は、一月に行われる県大会に向けて、準備を進めていた。


 昨年の十一月、南部大会があったが、拓也たちは、忙しさを理由に、出場を見送っていた。それでも、別の試合では、しっかりと結果を残していた。


「男女、準優勝。個人も、上位に食い込んでくれた」


 顧問の先生は、部員たちを前に、満足げに、そう振り返った。


「男子個人は、佐野に、優勝を持っていかれたけどな。あそこは、去年の県優勝メンバーが、三人も入ってる。僅差で負けたのは、悔しいところだが」


 先生は、それでも、特に、悲観した様子は見せなかった。


「一月の県大会で、勝てば、それでいい」


 短く、そう言い切る先生の言葉に、部員たちも、気を引き締めた。


 拓也にとっても、異世界側の慌ただしさとは別に、目の前の大会が、確かな現実として、迫ってきていた。


―――


 異世界では、新しく侯爵となった元辺境伯が、農政の執務室に、初めて足を踏み入れていた。


「ええと……これは、何の数字でしょうか」


 積み上げられた書類の山を前に、侯爵は、戸惑いを隠せなかった。


「肥料の配分表でございます。各領地の作付け面積に応じて……」


 部下の説明を聞きながら、侯爵は、一枚ずつ、丁寧に、書類を読み込んでいった。


 戦場では、咄嗟の判断が、何より求められた。だが、ここでは、誰も、即断を求めてこない。じっくり考え、確実に数字を合わせる——それは、むしろ、自分に向いている作業なのかもしれない、と、侯爵は、ふと、思った。


「この配分、少し、おかしくないか。去年の収穫量と、合っていない」


 侯爵が指摘した一点に、部下たちは、思わず、顔を見合わせた。


「……仰る通りです。修正漏れがありました」


「これからは、こういう細かいところも、見ていく。頼む」


 戦場での評判とは裏腹に、侯爵の、地味で粘り強い仕事ぶりは、農政の部署で、静かに、好評を得始めていた。

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