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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第72話 裁き



 実行犯の取り調べは、数日に及んでいた。だが、ある夜、ついに、口を開いた。


「……もう、いい。話す」


 実行犯は、力なく、そう呟いた。


「誰の指示だ」


「ガロウ……ガロウ男爵だ。あの方に、頼まれた」


 取り調べを担当していた者は、すぐに、その名を、上に報告した。


―――


 ガロウ男爵への追及は、速やかに進められた。


 騎士たちが、男爵の屋敷に踏み込んだ時、すでに、男爵は、荷物をまとめ、屋敷を出ようとしていた。


「ガロウ男爵、見苦しい真似はなさらぬよう」


「……っ、待て、これは、誤解だ!」


 男爵は、一瞬、裏口へ向かって、走り出そうとした。だが、すでに、屋敷の周囲は、騎士たちによって、固められていた。


「逃げ場は、ありません。大人しく、降伏を」


 追い詰められた男爵は、肩を落とし、その場に、膝をついた。


 連れて行かれる道中、男爵は、何度も、声を上げていた。


「私だけじゃない! 私だけが、悪いんじゃない!」


 取調室に入れられると、男爵は、しばらく、抵抗を続けていた。


「何も、話すことはない」


 だが、時間が経つにつれ、その態度は、徐々に、崩れていった。


「……申し訳ありません……ですが、私だけでは、ありません。他にも……」


 ガロウ男爵は、震える声で、関与していた他の貴族の名を、次々と口にした。財政難に苦しんでいた、いくつかの小さな家——それぞれが、何らかの形で、この計画の一端を担っていた。


 名前が挙がった貴族の中には、すでに、屋敷を捨てて逃げようとしていた者もいた。


「あの家、もう、もぬけの殻だったそうです」


「追跡を、続けろ。一人も、逃すな」


 数日のうちに、関係者は、次々と捕らえられていった。逃げ切れた者は、ほとんど、いなかった。


「では、誰の指示で、これだけの貴族が、動いたのだ」


「……侯爵様です。すべては、侯爵様の、お考えでした」


 その名前が出た瞬間、取り調べの場の空気が、変わった。


 報告は、すぐに、王の元へ届けられた。


「侯爵が、皇太子と共に、第三王子の暗殺を企てた、ということか」


 王は、しばらく、何も言わなかった。それから、静かに、命じた。


「事の全容を、明らかにせよ」


―――


 調査が進み、事の全容が、明らかになった。


 王の裁断は、速やかに下された。


「皇太子の、王位継承権を剥奪する。これより、幽閉とする」


 その宣告を受けた皇太子は、最後まで、納得していない様子だった。


「父上……私は、ただ、国のことを思って……!」


「国のことを思う者が、身内を、闇に葬ろうとするか」


 王の一言に、皇太子は、それ以上、何も言えなくなった。


「侯爵家は、爵位を剥奪。平民に、落とす」


 侯爵は、宣告を受けても、表情を、ほとんど変えなかった。


「……仕方ありません。賭けに、負けたということです」


 その淡々とした態度に、むしろ、周囲の方が、不気味さを覚えた。


 関与していた貴族たちにも、同様の処分が、次々と下されていった。ガロウ男爵も、その中の一人だった。


「すべての家督、財産を没収。一族は、平民として、生きよ」


「……これも、報いということでしょうか」


 ガロウ男爵は、それだけを呟き、深く、頭を下げた。財政難の末に、藁にもすがる思いで、この計画に加わった——その後悔だけが、最後に、言葉として、こぼれ出ていた。


 かつて、財政難に苦しんでいたガロウ男爵家は、こうして、貴族としての歴史に、幕を下ろした。


―――


 一連の騒動が落ち着いた頃、結城たちの間でも、ある疑問が、持ち上がっていた。


「これって……俺たちの担当、どうなるんだ?」


 神崎が、ぽつりと、口にした。


 これまで、勇者パーティーの扱いについて、王城側で取り次ぎをしていたのは、皇太子の周辺だったと、聞かされていた。だが、その皇太子は、幽閉。関わっていた侯爵も、爵位剥奪——窓口そのものが、消えてしまった形になる。


「誰も、俺たちのことを、把握してない、ってことか」


「少なくとも、今は——そうなる、かもしれない」


 結城は、その状況に、奇妙な不安を覚えた。管理する者がいない、という状態は、自由でもあり、危うさでもあった。


ーーー


 ここまでの一連の経緯は、緒方の元にも、伝わってきていた。


「結局、暗殺の指示は、侯爵からだったらしい。皇太子も、関与が認められて、幽閉になった」


 緒方は、拓也との通話で、それを伝えた。


「処分された貴族の中に、ガロウ男爵もいたよ。ミラの父親が、借金してた相手だ」


「……そうなんだ」


 拓也は、その繋がりに、少し、複雑な表情を浮かべた。


「これで、第三王子の継承は、ほぼ、決まったようなものだな」


 緒方は、そう言いながらも、どこか、まだ落ち着かない気持ちを、抱えていた。王都の動きは、これで収まるのか——それとも、まだ何か、続きがあるのか。今はまだ、分からなかった。


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