第71話 凱旋と毒
第三王子の凱旋は、王都の大通りを埋め尽くすほどの人出で、迎えられた。
「英雄様だ!」
「よくぞ、お戻りに!」
歓声が、絶えることなく、続いていた。馬上の第三王子は、軽く手を上げて応えながら、ゆっくりと、王城へと進んでいく。
その様子を、城の窓から見下ろしていたのは、皇太子だった。
「……随分な、人気だな」
呟いた声は、わずかに、震えていた。皇太子は、指先で、何度も、上着の裾をいじっている。威厳らしきものは、その姿のどこにも、見当たらなかった。第三王子の名声は、もはや、無視できる規模では、なくなっていた。
―――
その夜、皇太子は、侯爵を、自室に呼んだ。
「このままでは、まずい。何か、手を打たないと」
皇太子は、椅子に座ったまま、足を、せわしなく揺らしていた。
「勇者パーティーを、動かせないか。あれを使って、表立って、王子を攻めれば——」
「殿下が仰る、勇者パーティーを動かして、表立って王子を攻める、というのは——得策ではありません」
侯爵は、慎重に、言葉を選んだ。
「今、それをすれば、こちらが、明確な敵と見なされます」
「……では、どうする」
侯爵は、しばらく、黙っていた。それから、声を、一段、落とした。
「……静かに、片付ける方法が、あります」
「どういうことだ」
「王宮内に、人を送ります。誰にも気づかれないうちに、終わらせます」
皇太子は、その言葉の意味を、すぐに理解した。
「……分かった。任せる」
短いやり取りの末、皇太子は、それだけを、答えた。
―――
数日後の夜、王宮の一角に、人影が、忍び込んでいた。
目的は、第三王子の私室。
その数日前、第三王子の側近の元には、すでに、一つの知らせが届いていた。皇太子の側に、密かに送り込んでいた諜報員からの報告だった。
「皇太子様の周辺で、不審な動きがあります。近いうちに、何か、仕掛けてくるかもしれません」
その知らせを受けて、私室の周辺には、すでに、増員された警備が、密かに配置されていた。
「——動きがありました。侵入者、確認」
配置されていた兵から、報告が、速やかに伝えられる。
人影が、私室の手前まで近づいたところで、待ち構えていた兵が、一気に、取り囲んだ。
「止まれ!」
暗殺者は、抵抗する間もなく、取り押さえられた。
「誰の指示だ」
問いに、暗殺者は、何も答えなかった。だが、すでに、事は、その場だけでは収まらない規模に、なりつつあった。
―――
ここまでの経緯は、緒方の元にも、伝わってきていた。
「西の戦の後、王都で、暗殺未遂があったらしい」
緒方は、拓也との通話で、それを伝えた。
「暗殺? 誰が、誰を」
「詳しいことは、まだ分からない。狙われたのは、第三王子らしいけど」
拓也は、しばらく、黙っていた。
「分かった。神崎さんに、伝えておく」
戦から、暗殺未遂まで——王都の情勢は、目に見える速さで、動き始めていた。政府側にとっても、もう、無関係では、いられない段階に、入っていた。




