第68話 相談
結城は、その夜、神崎・皆川・東條を、自分の部屋に集めた。
「実は、ちょっと、聞いてほしいことがあるんだけど」
結城は、ケインのことを、順を追って話した。ガラニア国での経緯、いくつかの国を渡り歩いたこと、そして、身の安全の確保と、情報の引き換えを望んでいること。
「……そんな奴が、本当にいたんだな」
神崎が、半分呆れたように、肩をすくめた。
「店主さんの知り合いなら、まあ、変な人じゃないんじゃないですか」
皆川が、あっさりと言う。
「情報の引き換え、ってところだけ、ちょっと気になるけどな」
東條が、軽く付け加えた。
「俺たちの事情を、向こうに渡すことになるわけだろ」
「それは、まあ、そうなんだけど……」
結城は、苦笑いを浮かべた。
―――
「とりあえず——身の安全の方は、緒方さんに頼んでみるのが、一番、現実的じゃないか」
神崎の提案に、皆川も頷く。
「情報の方は、何でも話すんじゃなくて、向こうが本当に困ってる分だけ、ちょっとずつ——でいいんじゃないですか」
「それなら、俺から、ケインに伝えておく」
結城が、軽く手を上げて、話をまとめた。
「とりあえず、これくらいで、いいか」
「いいんじゃない」
神崎が、あっさりと答えた。難しく考えすぎても、答えは出ない——四人とも、何となく、そう感じていた。
―――
数日後、オーレス伯爵の屋敷に、新しい客が訪れていた。
「子爵家の者でございます。ご相談したいことが」
その翌日には、別の使者が訪れた。
「男爵家から参りました。折り入って——」
伯爵は、どちらにも、似たような態度で応じた。大きな見返りは示さず、ただ、話を聞き、必要な時に頼れる相手であることだけを、印象付けていく。
「しかし——両家とも、随分、似たような動きをしますね」
応対していた従者が、後になって、そう漏らした。
「当然だろう。同じ理由で、同じ場所に、行き着いただけだ」
伯爵は、軽く笑って、それだけ答えた。
―――
ガロウ男爵については、緒方の耳に、それ以上の詳しい話は入ってこなかった。財政難の小さな男爵家——それ以上の輪郭は、今はまだ、見えてこない。
拓也との通話で、赤い石の話が出たのは、ついさっきのことだった。
「カット、仕上げてみた。戦略物資として、使えると思う」
「分かった。確認してみる」
通話を終えると、緒方は、すぐに、転送の手続きに入った。テラ・マートを介したやり取りは、緒方自身でなければ受け取ることができない。代わりを誰かに頼むことも、できなかった。
しばらくして、緒方の手元に、カットされた赤い石が、いくつか、現れた。
「これは……」
地球の技術で磨かれ、輝きを増した、見覚えのある石だった。元の原石とは、比べ物にならない輝きを放っている。
——これなら、貴族のステータスにも、十分なるな。
緒方は、その石を懐にしまうと、すぐに、オーレス伯爵の屋敷へ向かった。
「これを、見ていただきたくて」
伯爵は、石を受け取ると、しばらく、無言で見つめていた。
「……これが、あの赤い石か。これほどとは、思わなかった」
「取引先の、加工技術です。これを、こちらの貴族向けに、売り出せないかと」
伯爵は、石を光にかざしながら、満足げに頷いた。
「面白い。やってみる価値はある」
新しい戦略商品が、こうして、動き出すことになった。
―――
西の国境では、辺境伯配下の偵察隊が、緊張した面持ちで、戻ってきていた。
「確認しました。国境の向こう側に、間違いなく、敵国の軍が、展開しています」
報告を受けた辺境伯の側近は、地図を前に、表情を硬くした。
「数は?」
「正確には分かりませんが——少なくとも、これまでの警備規模を、大きく超えています」
「動きは」
「まだ、進軍の様子はありません。ただ、いつでも動ける態勢に、整っているように見えます」
側近は、しばらく、黙って地図を見つめていた。
「辺境伯様に、すぐに報告を」
国境の空気は、すでに、緊張の一線を、越えかけていた。




