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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第62話 向こうから届くもの



 数日後、拓也が暮らす施設の大会議室で、勇者パーティーの家族を集めた映写会が開かれた。


「申し訳ありませんが、映像の持ち帰りはできません。この場でご覧いただく形になります」


 藪田が、集まった家族たちに、そう説明した。録画も録音も禁止——理由は明言されなかったが、誰も、それ以上は聞かなかった。


「家に持って帰って、何度も見たいのですが……」


 皆川の母が、そう漏らしたが、藪田は、申し訳なさそうに首を横に振るだけだった。


「規定なので、ご理解いただければと」


 完全には納得していない様子を見せながらも、皆川の母は、それ以上は食い下がらなかった。


 スクリーンに、最初に映ったのは、東條雪乃だった。


 いつもと変わらない、淡々とした口調で近況を話す。鍛錬は続けている、体調も問題ない——必要なことだけを、簡潔に伝える内容だった。


 最後に、雪乃は、刀を構えた。


 道場で教えられてきた、家に伝わる古流の形を、ゆっくりと、最後まで通して見せた。


 画面が終わると、隣に座っていた道場主——雪乃の父は、しばらく黙っていた。


「……変わらんな」


 それだけ、短く呟いた。母は、何度も同じ場面を見返したそうな顔をしていたが、画面はもう、次へ移っていた。


 続いて流れた皆川の映像では、終始笑顔を作りながら、家族へ近況を伝える様子が映された。皆川の母は、画面に向かって、小さく手を振っていた。


 結城の映像は、相変わらず、必要なことだけを淡々と話す調子だった。神崎の映像では、画面越しに、父親へ短く敬礼するような仕草が映された。


 最後に、緒方からの短い映像が流れた。


 城下の様子、見慣れない街並み——王国では珍しいとされる猫の獣人が歩く通り、魔道具店の店先、鍛冶屋の槌の音、雑貨屋の賑わい。映像は、緒方自身の声で、簡単な説明を加えながら、ゆっくりと街を映していった。


 最後に、ロイドとミラが、画面に映った。


「今、雇っている二人です。奴隷の制度については、すでに報告済みの通りです」


 政府側には、契約奴隷の制度について、すでに説明が済んでいた。会場の担当者は、特に驚くこともなく、淡々と記録に残していった。


 上映が終わると、家族たちは、それぞれ、短い感想を交わしながら、会議室を後にした。誰の手にも、映像の記録は残らない。残るのは、それぞれの記憶だけだった。


―――


 その頃、国家情報局内では、別の動きが起きていた。


 拓也の身体能力データを目にした研究者の一人が、藪田を通じて、こんな提案を持ち込んできた。


「能力の遺伝性について、調べさせていただけませんか。ご家族の方からも、サンプルをいただければ」


 話を聞いた神崎は、表情を変えずに、藪田へ確認した。


「誰の指示で、このサンプルとやらを取りに行くつもりだったんだ」


「いえ、まだ、提案の段階で——」


「提案の段階でも、駄目だ」


 神崎は、その研究者を直接呼び出した。


「中野くんは、法的にまだ未成年の、ただの学生だ。それに、計画そのものが、まだ落ち着いていない。家族会の問題も絡んでいる以上、この件に関しては、今は動く時期じゃない」


「ですが、学術的な価値としては——」


「次に同じことをしたら、研究どころじゃなくなる。刑務所行きだ」


 神崎の口調に、研究者は、それ以上、言葉を返せなかった。


 厳重注意という形で、話は一旦、収められた。だが、似たような関心を持つ者が、今後も現れる可能性は、ゼロではなかった。


―――


 皆川と東條から、定期的にミラへの便りが届くようになっていた。ある日、皆川から届いた手紙には、簡単な刺繍のやり方が、絵付きで書かれていた。


「これ、教えてくれるって」


 ミラは、嬉しそうに、緒方に見せてきた。


 その夜、刺繍の練習をしながら、ミラが、ぽつりと言った。


「お父さん、刺繍が得意だったの。よく、繕い物をしてくれた」


「——お父さんは、どこに?」


 緒方が、それだけ聞くと、ミラは、少し黙ってから答えた。


「分からない。借金のことで、ある日、急に、いなくなった」


 ロイドが、そっと、ミラの肩に手を置いた。それ以上、誰も、何も聞かなかった。


 店主が目を逸らした理由——おそらく、その「借金」の経緯に、何かがあったのだろうと、緒方は思った。だが、今、それを確かめる手段は、まだなかった。


―――


 侯爵家に仕えていた、ある中堅の貴族が、密かに、オーレス伯爵への接触を試みていた。


「折り入って、ご相談したいことがございまして」


 使者を通じて届いた申し出に、伯爵は、特に驚いた様子も見せなかった。


「来るものは、来る、ということだな」


 伯爵は、その申し出を、すぐには断らなかった。むしろ、面会の日取りを、丁寧に調整させた。


 その動きを、誰よりも早く察知していたのは、第二王女だった。


「また一人、増えたわね」


 誰に言うでもなく、王女は、報告書の隅に書かれた名前を、指でなぞった。


 オーレス伯爵の周りに、少しずつ、人が集まり始めている——その事実だけが、静かに積み重なっていった。


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