第48話 満ちていくもの
猶予の十日が始まってすぐ、緒方は、以前働いていた魔道具店を訪ねた。
「店主、お久しぶりです。これ、ご家族で召し上がってください」
緒方は、持参した日本の焼き菓子を、店主に手渡した。
「おお、緒方か。妻が、甘い物に目が無くてな。ありがたく頂戴するよ」
店主は、機嫌よく菓子を受け取った。
「城はどうだ、慣れたか」
しばらく、世間話が続いた。やがて、緒方は、本題を切り出す。
「城詰めの男爵様が、魔鉱石はこの国の特産品だと仰っていまして。お前は魔道具店に勤めていて、それも知らないのかと、叱られました。改めて、特産品とその使われ方を学びたいと思って、参りました」
「へえ、勉強するね」
店主は、少し意外そうな顔をしながら、説明を始めた。
「この充填っていうのは、魔力が極端に少ない人の為にやる作業だ。十分な魔力がある人は、自分で充電できる。高い商品は、充填済み。安いのは、魔石に魔力が無い品だ。魔石は仕入れ先から購入するが、加工は家でやる」
「へえ、魔力の無い人もいるんですね?」
「いるなあ。少し露出した魔石に触れると、それに反応して、微量の魔力が発生する。それが増幅器を通して、魔法として発生する——というのが、基本構造だ」
「大変勉強になりました。魔石単体では、使い道がないのですか?」
「自分で修理できる人は、魔石だけを購入するよ」
緒方は、店主の話を、丁寧に頭に入れていった。
——安い魔道具は、電池切れみたいなものか。俺でも、充填できるのか、試してみよう。
―――
その夜、緒方は、拓也と通話を繋ぎながら、昼間の話を伝えた。
「魔道具店で、面白い話を聞いたよ」
「どんな話ですか」
緒方は、充填の仕組みについて、拓也にも説明した。魔力の少ない人のための充填、魔石と増幅器の関係——一通り話し終えると、拓也も興味を持ったらしい様子だった。
「家にも、使えない魔道具が何本かあるんですよね。洗濯用の」
「試してみたらいいよ。俺も、簡単にできたから。拓也くんなら、もっと簡単だと思う」
拓也は、通話を繋いだまま、家にある古い魔道具を手に取った。露出した魔石に、軽く指を当ててみる。
「……できました。簡単です」
「やっぱりな」
緒方は、小さく笑った。
「あ、話は変わるけど——例の男爵様と、関係を良好に保てば、安定して金属を提供できるって、神崎さんに伝えてくれ。それと、数日以内に、勇者パーティーが帰ってくるらしい、って話も含めて、報告しておくよ」
「分かりました」
拓也は、メモを取りながら、そう答えた。
―――
話は少し前に遡る。
遠征先のダンジョンで、ロイが、罠の見落としから、致命的なミスを犯した。床が崩れ、転落しかけたところを、東條が、咄嗟にその身を引き寄せ、自らの背に庇った。
「……何やってる、しっかりしろ」
東條は、ロイを背負ったまま、一旦の撤退を選んだ。
見捨てる、という選択肢もあったはずだった。だが、東條は、それを選ばなかった。
安全な場所まで下がり、皆川の治癒を受けたロイは、しばらく、何も言わずに座り込んでいた。
「……すみませんでした」
「いいから、休んでろ」
東條は、それだけ言って、視線を逸らした。
ロイの中で、何かが、静かに動いていた。
これまで、誰かに守られる、という経験を、ほとんどしてこなかった。利用されるか、利用するか——その二択でしか、人との関わりを測ってこなかった。
だが、今、自分は、見捨てられなかった。
回復した体で、ロイは、再び立ち上がった。
「もう一度、行かせてください」
結城は、その目を見て、頷いた。
再アタックの末、今回の目標——遠征の目的だったダンジョンの最深部の攻略は、無事に達成された。
パーティーは、その足で、帰路についた。




