第47話 紙の値段
緒方の毎日は、地味な調査の繰り返しだった。
王城内の鍛冶屋の親父に、比較的手に入りやすく、それでいて特徴のある金属はないか、それとなく聞いて回る。防具屋では、素材の入手経路や、素材そのものの説明を、世間話のついでに聞き出す。表向きは、ただの買い物客の顔をしながら、緒方は少しずつ、この国の鉱物資源について、情報を積み重ねていた。
午後、だいたい決まった時刻に、ヴァルド男爵がやってくる。
「これは、いつもお世話になります」
緒方は、いつもの調子で、社交辞令を述べた。それから、何気ない調子で、聞いてみる。
「この王国の特産品は、何ですか」
「お前は、この国に居て、知らないのか」
「あいにく、最近来たばかりでして……」
「あーまあいい。この国の西側の山脈に、魔鉱石の鉱山がある」
「それは知りませんでした。何処にも売っていないものですから、国の専売ですか?」
「そういうことだ」
「何に使うのです?」
「魔道具の魔力の増幅に使う。効果が出なくなった魔道具に、魔力補充として設置する。お前、魔道具屋で見てこなかったのか?」
「はー、あいにく書類整理の仕事で、お店の事はサッパリでして」
「お前の事は、観察している。何やら鉱物や宝石、魔獣の素材と、色々買い漁っているらしいな」
「はい。何が売れるか、試しています」
「犯罪に手を染めれば、鉱山労働という事もあるからな」
「はい、肝に銘じます」
緒方は、笑みを崩さないまま、話を変えた。
「そう言えば、男爵様の紙の生産が止まったと聞きましたが?」
「何処でそれを……お前の所で、紙は扱っているのか?」
ヴァルド男爵の声に、わずかな緊張が混じった。
緒方は、以前、女性客から、山火事で紙の材料が消失したという話を聞いていた。それを今、確かめる形になった。
「はい。扱っております。見本は——こちらになります」
緒方は、A4の用紙を数枚、机の上に置いた。
「何だ、これが紙か?」
「紙です。このように、簡単に切れます」
緒方が、紙の端を軽く切って見せる。
「……見事な色だ。手触りも、悪くない」
「お買い求めになりますか?」
ヴァルド男爵は、すぐには答えなかった。値段を、どう切り出すか、迷っているような沈黙だった。
「代金は、エテリムか、赤い石の——重さと同量の紙では、どうですか」
「そんなもので良いのか?」
「はい。買い手が、喜んで紙を持ってまいります」
「一万枚——いや、二万枚、用意できるか」
二万枚なら、重さにしておよそ百キロ程度だろう。緒方の中で、すぐに計算が立った。
「少し重くなりますが、大丈夫で?」
「問題無しだ」
「秤は、こちらで用意します。お持ちになったエテリムか赤い石の量と、交換いたします」
「分かった。いつまで、用意できる」
「十日後で、お願いします」
ヴァルド男爵は、それだけ頷いて、店を出ていった。
緒方は、一人になった店の中で、小さく息を吐いた。
——紙一枚で、これだけの価値になるとは。
地球側に持ち帰れば、ただの事務用品でしかない紙が、こちらでは、貴族との取引材料になる。改めて、価値観の違いの大きさを、噛みしめる出来事だった。




