表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/49

第35話 女の情報網





 緒方に与えられた部屋は、王城の片隅にある、かつて何かの工房だったらしい空き部屋だった。


 決して一等地ではないが、人の出入りがある場所だった。緒方は、その部屋を、小さな店として整えることにした。


「コスメ、ですか」


「ああ。女性向けの品なら、こっちでも需要があると思ってな」


 結城が顔を出した時、緒方は、棚に並べた小瓶を、丁寧に整理していた。リップクリーム、化粧水、ちょっとした小物——テラ・マートで仕入れた、地球の品々だった。


「これが、情報収集に繋がるんですか」


「直接は繋がらない。だが、人が集まる場所には、自然と話が集まるもんだ」


 緒方の店は、いつの間にか、城で働く女性たちの、ちょっとした息抜きの場になっていた。商品を見ながらの世間話。誰が誰と仲が悪いとか、どの部署が忙しいとか、たまに、貴族の噂話まで。


「ガセも、結構混ざってる。だが、女性の情報網は、馬丁や酒場の与太話よりは、よっぽど精度が高い」


 緒方は、そう言って、小さく笑った。


 手土産代わりの地球の品々が、少しずつ、城の中に味方を作っていく。地味だが、確実な歩みだった。


―――


 一方、結城たちは、許可された区域の中で、町を歩くことを覚えていった。


 屋台の串焼き、見たことのない果物、市場の喧騒。教科書では決して教わらない、生きた知識が、そこには溢れていた。


「これ、結構うまいですね」


 皆川が、串焼きを片手に、無邪気に笑った。


 町の人々との何気ない会話の中にも、思いがけない情報が紛れていることがあった。最近の物価のこと、近隣の村で起きた小さな事件のこと——訓練場とダンジョンだけでは、決して知り得なかった世界の広がりが、少しずつ実感として積み重なっていった。


―――


 その頃、地球側では、緒方から転送された手紙が、拓也の手元に届いていた。


 四人分の返事を確認した拓也は、すぐに藪田に連絡を入れた。


「返事、預かりました。家族の皆さんに、配ってもらえますか」


「分かった。早めに、手配する」


 藪田は、それだけ言って、電話を切った。


―――


 藪田は、四枚の手紙を、それぞれの家庭に届けて回った。


 結城の家では、母親が、震える手で手紙を受け取った。皆川の家では、両親が並んで、それを覗き込むように見ていた。東條の家では、父親が、黙って一礼してから受け取った。緒方の家では、高齢の母が、手紙を抱くようにして、何度も頭を下げた。


 それぞれの反応の中身までは、藪田には分からなかった。それでも、どの家庭も、その一枚の紙を、ひどく大切なものとして扱っていることだけは、はっきりと伝わってきた。


 その帰り際、藪田は、神崎から、ある話を聞かされていた。


「経産大臣が、あの金属に興味を持っているようです。チタンのような軽さと、タングステンのような重さと硬さ——両方の性質を併せ持っているらしい、と」


「……便利な金属、ってことですか」


「便利すぎる、と言った方が近いかもしれません」


 藪田は、その後、拓也との通話で、その話を伝えた。


「神崎さんから聞いたんだが——あの金属、チタンみたいに軽くて、タングステンみたいに硬いらしい。経産大臣が、そこに目をつけてるって話だ」


「……それ、まずいですよね」


「分からん。これが、よほど貴重で、量も少ない物だってなったら、そこまで大事にはならないだろうし、逆に、わりと出回ってる量がある——っていう話になったら、向こうの反応も変わってくる気がする。自前の資源が少ない国にとっちゃ、珍しさより、量がある方が、よっぽど重要なんだろうな」


 藪田は、少し考えるように言葉を切ってから、もう一つ付け加えた。


「それと——神崎さんは、政治家の話に、軽々しく乗るつもりはないみたいだ。あの人を見てる限り、そう感じる」


 拓也は、電話の向こうで、少し驚いたような声を出した。


「……藪田さん、そんなことまで、話してくれるんですね」


「別に、隠すことでもないだろう」


 藪田は、それだけ言って、軽く笑った。これまでなら、自分の見立てを、こんな風に伝えることはなかった。何かが、少しずつ変わってきている。藪田自身、それを自覚していた。


 それぞれの家族が、この手紙をどう受け取るのか——その答えは、まだ先のことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ