第34話 駒の使い方
晩餐への招待を受けた夜、結城たちは、訓練場の隅に集まり、額を寄せ合っていた。
「あの招待、断れるとは思えないですよね」
皆川が、不安げに切り出した。
「断る理由もない。むしろ、これは利用すべき機会かもしれない」
結城の言葉に、神崎が片眉を上げた。
「利用、というのは」
「向こうが、俺たちを駒として大事にしてるなら——それを逆に使う手もある、ってことだ」
「……どうやって」
「まずは、情報だ。『世界は思っているより広い』、ってあの人は言ってた。それが本当なら、他の国の勇者がどう扱われてるか、知っておく価値はある」
「情報収集、ってことですね」
「うん。直接関わるかどうかは別として、まずは知ることから始めよう。他国の勇者の扱いと、それ以外のことも、分かる範囲で」
東條が、ぽつりと付け加えた。
「あの人、思ったより、感情がある人だった気がする」
「……どういう意味だ」
「招待してきた時、ずっと表向きの建前を話してたけど、最後の方、少しだけ、申し訳なさそうな顔をしてた」
結城は、その言葉に、ふと思い当たった。
——緒方さんが言ってたな。組織の意図と、個人の善意は、別物だって。
あの宮廷の男も、もしかしたら、神崎の父親と同じ立場にいるのかもしれない。組織の駒として動きながら、個人としては、別の感情を抱いている——そんな可能性が、結城の中で、少しずつ形になっていった。
——地球でも、こっちでも、同じことが起きてるのかもしれない。
「他国の動きは、今すぐどうにかなる話じゃない。今は、引いて様子を見るしかなさそうだ」
結城がそう言うと、皆も、それぞれ頷いた。
―――
晩餐の場で、結城は、機を見て、一つの頼みごとを切り出した。
「お願いがあります。俺たちが、ここでもっと力を発揮するために——緒方さんを、正式にバックアップとして認めてもらえないでしょうか」
宮廷の男は、少し驚いた様子を見せたが、すぐに頷いた。
「……検討してみよう。悪い話ではない」
「それと——王都内を、もう少し自由に動けるようにしてもらえると、助かります」
「それについては——一部の地区に限ってなら、許可できる」
結城は、内心、安堵した。完全な自由とは言えないが、それでも、一歩前進だった。
駒として扱われるなら、その扱われ方の中で、できることを増やしていく。それが、今の自分たちにできる、唯一の抵抗の形だった。
―――
数日後、結城たちは、許可された区域の中で、初めて緒方と共に町を歩くことになった。
これまでは、隠密の術を使った密会でしか会えなかった相手と、こうして並んで歩けることが、結城にはまだ実感を持てなかった。
「不思議な気分です。普通に、緒方さんと町を歩けるなんて」
「俺も、似たようなもんだ。ただ……」
緒方は、軽く笑いながら、視線だけを動かした。
「監視は、ついてるけどな」
「……気づいてたんですか」
「分からない方が、おかしいだろ。三人、距離を取って、ずっと同じ歩調で歩いてる」
結城は、それを聞いて、思わず周囲を見回しそうになったが、すぐに思い直した。
「気づかれてること、向こうに気づかれない方がいいですよね」
「そうだな。今のところは、知らないふりをしておくのが、お互いのためだ」
二人は、それ以上、その話題には触れなかった。市場を歩き、屋台の食べ物を眺め、何気ない会話を続けながら、束の間の散策を楽しんだ。
監視されているという事実は、変わらない。それでも、こうして並んで歩ける時間があるというだけで、以前とは違う何かが、確かに増えていた。




