第33話 駒として
手紙を受け取った夜、四人は、それぞれの場所で、返事を書いていた。
結城は、机に向かい、何度も書き直していた。母からの手紙には、何の要求も書かれていなかった。それが、逆に、何を書けばいいのか分からなくさせた。
結局、結城は、シンプルな言葉だけを選んだ。
——心配かけてごめん。俺は元気だ。必ず帰る。
それだけで、十分だと思った。
皆川は、両親への返事を、泣きながら書いていた。何度も涙で文字がにじみ、何枚も書き直すことになった。
東條は、短い言葉で、淡々と書き上げた。多くを語らない家族らしい返事だった。
神崎は、一番時間をかけていた。父からの手紙を、何度も読み返した後、ようやくペンを取った。
——親父にも、伝えたいことがある。
―――
翌日、結城は、緒方から聞いた話を、皆に伝えた。
「これ、法律の対象にならないらしい。向こうの国の法律じゃ、裁けないって」
「……つまり、誰も裁けないってことですか」
皆川が、不安げに聞いた。
「今のところは、そうみたいだ。だからこそ——俺たちが、自分たちで、何か手がかりを見つけるしかないのかもしれない」
神崎は、何も言わずに、ただ頷いた。
―――
その数日後、訓練場に、見慣れない一団が姿を見せた。
王城の紋章をつけた馬車と、護衛の騎士たち。先頭に立っていたのは、これまで顔を合わせたことのない、貴族らしき身なりの男だった。
「お招きする形で失礼するが——晩餐に、ご招待したい」
結城たちは、思わず顔を見合わせた。
「私は、宮廷で対外政策を担当している者だ。皆さんの働きについては、王城でも高く評価されている」
その言葉の裏に、何かがあるような気がした。
「先日、ドルフという斥候の増員が認められたのも、皆さんの生存率を上げるため、というのが表向きの理由だ。だが——正直に言えば、もっと大きな理由がある」
「……大きな理由、というのは」
「他国も、似たような事例に注目している。勇者パーティーというのは、それ自体が、国の力を示す象徴でもあるんだ。皆さんに何かあれば、国の威信に関わる」
「……『似たような事例』というのは、うちみたいなパーティーが、他にもいるということですか」
結城が、思わず聞き返した。
男は、一瞬だけ、答えに迷うような表情を見せた。
「さあ……それについては、私の立場で話せることではない。ただ——世界は、思っているより広い、とだけ言っておこう」
それ以上は、何も語られなかった。だが、その一言だけで、結城の中には、新しい疑問が生まれていた。
——もし、他にも、同じようなことが起きているとしたら。
結城は、その言葉に、背筋が冷えるのを感じた。
——俺たちは、ただの冒険者じゃなく、駒として見られている。
晩餐への招待は、その日のうちに、正式な書状として届けられた。
―――
その頃、地球側では、倉持が、経済産業省の官僚に、新たな指示を出していた。
「神崎という人物について、もう少し詳しく知りたい。大学の同期に、当たれる人間はいないか」
「大学の、同期ですか」
「本人に聞いても、何も出てこない。だったら、周りから探るしかないだろう」
官僚は、戸惑いながらも、頷いた。
倉持の追及は、静かに、だが確実に、神崎の周辺へと近づき始めていた。




