第28話 父への返事
その夜、結城は神崎、東條、皆川を集めた。神崎から、話したいことがある、と申し出があったからだった。
「親父の手紙、もう一度読み返してたんだ」
神崎は、四人の顔を順番に見ながら、言葉を選んだ。
「あの人に、返事を書きたい。それと——できれば、向こうで動きやすくなるよう、協力をお願いしたい」
「協力って、具体的には」
結城が聞くと、神崎は頷いた。
「親父は、国家情報局の人間だ。今は、拓也のことを調べる立場にいる。だったら、調べる側じゃなく、こっち側の理解者になってもらえないかと思ってる」
「……拓也くんが、動きやすくなるように、ってことですか」
「そうだ。テラ・マートのことも、緒方さんのことも、いつまでも隠し切れるわけじゃない。それなら、味方になってくれる人間を、向こう側に作っておきたい」
皆川が、不安そうに眉を寄せた。
「でも……それ、危なくないですか。お父さんが信頼できても、その上に、別の人がいるかもしれないって、緒方さんも言ってましたよね」
「分かってる。リスクがあることは分かってる」
神崎は、それでも、まっすぐに皆川を見た。
「だけど、何もしないままでいても、リスクは減らない。むしろ、向こうでは、国が関心を持ってる金属らしく、国の機関で調査されてるって話だ。隠す側のままでいるより、味方を一人でも増やす方に、賭けてみたい」
結城は、しばらく黙って考え込んだ。
「……一つ、条件を付けたい」
「何だ」
「手紙の内容は、神崎一人の判断じゃなく、ここにいる全員で確認する。それと、緒方さんにも、必ず先に見てもらう」
神崎は、少し意外そうな顔をした後、小さく頷いた。
「それでいい。むしろ、そうしてほしい」
東條は、それまで何も言わなかったが、ここで初めて口を開いた。
「……私も、賛成する。このままじゃ、いつか、誰かが先に見つかる」
「私も……賛成です」
皆川も、そう続けた。完全に納得した様子ではなかったが、それでも頷いていた。
―――
手紙を受け取った緒方は、その夜、拓也に通話を繋いだ。
「神崎から、お父さんへの返事を預かった。お前の方で、渡せるか」
「……分かりました。預かった連絡先、ちゃんと残してます」
「テラ・マートの転送で、そっちに送る。受け取ったら、頼む」
「分かりました」
短い会話だったが、拓也の声には、いつもとは違う重みがあった。
―――
数日後、緒方を通じて神崎の手紙が転送された。
文面は、四人で何度も読み合わせ、削り、書き直した末のものだった。父への感謝、無事であることの報告、そして——拓也が小山市で動きやすくなるよう、テラ・マートとの連携に理解と協力をお願いしたい、という一文。
「これで、いいと思う」
神崎は、最後にもう一度、手紙を読み返してから、そう言った。
「あとは、向こうがどう動くか、だな」
結城は、その手紙が運ばれていく先を、想像した。拓也の手から、神崎の父の手へ。そこから、どこまで届くのか、まだ誰にも分からない。
——いつか、これが、もっと大きな形になるかもしれない。
国に、異世界にいる俺たちの存在を、正式に認めてもらう日が来るかどうか。今はまだ、誰にも答えの出ない問いだった。




