表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/49

第26話 裁く者はいない





 返品処理で転送された箱が、緒方の部屋に届いたのは、拓也との通話から数日後のことだった。


 箱の中には、洗浄の魔道具と引き換えに入っていたはずの、あの封をしていない手紙が、そのままの形で収まっていた。緒方は、それを手に取り、封がされていないことを確かめてから、丁寧に元の場所に戻した。


 ——中身は、見ない方がいいだろう。


 緒方は、結城への密会の合図を送った。


―――


「これを、神崎に」


 隠密の術で訪れた結城に、緒方はその手紙を差し出した。


「中は読んでいないから。そのまま渡してくれ」


「……分かりました」


 結城は、手紙を受け取り、しばらくその重さを確かめるように見ていた。封のされていない一枚の紙が、これほど重く感じられるとは思わなかった。


―――


 その夜、結城は神崎を訓練場の裏に呼び出した。


「これ、お前の親父さんから」


 神崎は、しばらく手紙を見つめたまま、受け取ろうとしなかった。


「……親父から?」


「詳しい経緯は省くが、本物だ。中は、俺も読んでいない」


 神崎は、無言で手紙を受け取った。封筒はなく、折られた一枚の紙が、そのまま差し出される形だった。


「少し、一人にしてくれ」


 結城は、それだけ言って、その場を離れた。


 しばらくして、神崎が再び結城のもとへやってきた。手紙は、もう一度丁寧に折り直され、上着の内側にしまわれていた。


「……読んだ」


 神崎は、それだけ言って、しばらく黙っていた。


「中身は、聞かない方がいいか」


「いや……聞いてくれ。むしろ、誰かに聞いてほしかった」


 神崎は、夜空を見上げながら、ゆっくりと言葉を選んだ。


「うちは、昔から、外で話せないことが多い家だった。親父の仕事のことも、家の中の話も、誰にも漏らすな、ってずっと言われて育った」


「……それは、初耳だな」


「だろうな。誰にも言ったことないし」


 神崎は、一度、小さく笑った。自分でも、その響きが意外だったような笑い方だった。


「ここに来て、ふと思ったんだ。——誰が、俺を裁くんだろうって」


「裁く?」


「向こうじゃ、何か漏らせば、それなりの立場の人間が出てきて、それなりの罰がある。だけど、ここには、そんな仕組みは存在しない。だったら、俺が何を話しても、誰も裁けない」


 神崎は、そこで一度、言葉を止めた。


「親父の手紙にも、同じことが書いてあった」


 手紙には、こう書かれていたという。


 ——これを読んでいるということは、本当に、この手紙が、あの「もう一つの世界」に届いたことになる。今でも、半分は信じられない気持ちでいる。


 ——お前がいなくなってからの間、どれだけ案じていたか、うまく言葉にできない。それでも、こうして手紙を託せる手段が見つかったことに、今は感謝している。


 ——仕事の話は、何も書かない。お前も知っているように、うちの家は、昔から外で話せないことが多すぎた。だが、今のお前に、その縛りを及ぼす理由はない。


 ——お前を裁く者は、そこにはいない。何を話しても、何を選んでも、自由だ。


 ——無事でいてくれ。それだけで、十分だ。


「……その言葉を読んだ時、何かが、すっと軽くなった気がした」


 神崎は、それだけ言って、また夜空を見上げた。結城は、何も言わずに、その横に立っていた。


―――


「あ、それと——テラ・マートの販売の方、ランクが上がって、送れるサイズがまた広がったんだ」


 手紙の件を伝えに来た時とは別の日、緒方は密会の場で、結城にそんな話を持ち出した。


「販売って、地球に売る方ですよね。前は、かなり小さい物しか無理だったような」


「そうなんだよ。元々、百サイズが基本の上限でな。それが、ランクが上がるごとに、少しずつ緩くなっていく」


「具体的には、どんな物が」


「家具とか、寝具とか。手彫りのアンティーク調のやつとか、黒檀風の。革製品も、向こうじゃ見たことない毛皮のものが、ようやく売れるようになった」


「小山市限定、っていうのは変わらずですか」


「ああ、そこは変わらない。異世界の商品しか売れないし、生き物系は当然対象外だ。サイズの上限が上がっただけで、ルール自体は厳しいまま」


「仕入れの方は、どうなんですか」


「仕入れは、地球の市場から買う方だから、そもそもカテゴリ自体に縛りがないんだ。地球のものなら、理屈上は何でも対象になる。自動車だって、項目自体はもう画面に出てる」


「自動車……」


 結城は、思わず聞き返した。


「今、実際に買えるのは、日用品、食品、DIY用品、ファッションってところまでかな。コスメとか、家電とか、エンタメ・ホビーとか、カーとか——ランクが足りない項目は、画面の中で暗く沈んで見える。買えるところだけ、明るく見えるんだ」


「ゲームのアンロックみたいですね」


「そう、まさにそれ」


 緒方は、少し楽しそうに笑った。


「地球で仕入れた生地を、こっちの洋品店に卸して売ってるんだけどな。地球の生地、向こうじゃ珍しいみたいで、これが地味に儲かる」


「緒方さん、商売、向いてるんじゃないですか」


「向いてるかどうかは知らないが、できることが増えるのは、悪いことじゃない」


 二人の間に、久しぶりに軽い空気が流れた。重い手紙の話の後だからこそ、こんな何気ない話題が、今は救いになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ