第25話 三辺合計百サイズ
その夜、拓也は緒方との通話を繋ぎ、神崎との一連の出来事を、順を追って話した。
グレーカレコ商事のこと、文字でのやり取りが途絶えた日のこと、そして——神崎が、勇者・神崎隼人の父親だと名乗ったこと。
通話の向こうで、緒方はしばらく黙っていた。
「……そうか。やっぱり、そっち側の人間だったか」
「はい。それと——もう一つ、伝えなきゃいけないことがあります」
拓也は、読心スキルで読み取った内容も、正直に伝えた。悪意はないこと、未知のものへの好奇心、そして息子を探す父親としての焦り。
「……信頼しても良いが、油断はしないでくれ」
緒方の声は、いつもより低かった。
「悪意がないのは、たぶん本当だと思う。お前のスキルが、そう言ってるんだから。だが、悪意がないことと、安全だってことは、別の話だ」
「……どういうことですか」
「組織ってのは、個人の善意だけで動いてるわけじゃない。あの人がどれだけ誠実でも、その上に、別の判断をする誰かがいる。お前が見たのは、あくまであの人個人の気持ちだ。組織全体の意図までは、読めてない」
拓也は、何も言えなかった。確かに、その通りだった。
「とにかく、今すぐどうにかしようとは思わないでいい。焦らず、慎重にな」
「はい」
―――
「それで……手紙のことなんですけど」
拓也は、神崎から託された、封をしていない手紙のことを話した。
「これ、結城たちに渡せる方法、ありますか」
「手紙ねー……ちょっと調べるね、少し待ってて」
通話の向こうで、何かを操作する音が、しばらく続いた。
「あ、分かった」
「本当ですか」
「テラ・マートの返品処理、使えそうだ。拓也くん、今からその場に箱を転送する。その中に手紙を入れてくれ」
「返品処理、ですか」
「うん。返品用の箱って、サイズに上限があるんだけど——三辺合計で百サイズ、十キロ以内まで。なんか、ヤマネコ宅急便と同じ規格なんだよ、これ」
拓也は、思わず笑ってしまった。こんな深刻な状況の最中に、妙に現実的な規格の話を聞かされるとは思わなかった。
「分かりました。箱、待ってます」
―――
「あ、それと——もう一つ、お願いがあるんですけど」
「ん?」
「向こうで使ってた洗浄の魔道具、ふと思い出して……あれ、地球でも欲しいなと思って」
「あー、アレ便利だよねー」
緒方は、軽い調子でそう言った。
「箱に入れておくよ。お金はいいから」
「いえ、ちゃんと払いますよ」
「最近、日本の日用品で、向こうでも結構儲けててな。お金には余裕あるから、代金は気にしなくていい」
拓也は、その緒方の声の軽さに、少しだけ救われる気がした。重い話の後に、こんな何気ないやり取りができることが、今はありがたかった。
「ありがとうございます」
「ああ。じゃあ、また連絡する」
通話が切れた後、拓也は、しばらく画面を見つめていた。
届くはずの箱と、まだ何も書いていない自分の言葉と、封をしていない手紙——それぞれが、これからどう動いていくのか、まだ何も決まっていなかった。




