第20話 もう一人、欲しい
その日の攻略は、特に大きな問題もなく終わった。それでも、宿舎に戻った後の反省会で、結城は溜めていたものを切り出した。
「単刀直入に聞く」
結城は、円になって座る一同の前で、ロイに向き直った。
「お前は、斥候として、本当に実力があるのか」
ロイは、一瞬だけ驚いた様子を見せたが、すぐに笑みを取り戻した。
「急に言われると困りますが……一定の訓練は受けています」
「実戦で、俺たちの後ろを任せられるかを聞いてる。いざという時、自分だけ先に逃げるつもりはないんだろうな」
その場の空気が、一瞬、固くなった。
「……そんなつもりは、もちろんありません」
ロイは、慎重に言葉を選びながら答えた。表情に、目立った乱れはなかった。それが、むしろ結城の不信感を強めた。
「最後尾の判断、何度か危なかった」
東條が、低い声で言葉を継いだ。
「お前、このままの動きだと、もう少し深い階層で確実に死ぬぞ」
ロイの笑みが、わずかに固まった。それでも、言葉では何も返さなかった。
結城は、その場で一つの提案をまとめた。
「国に、もう一人——経験のある斥候の冒険者を、バックアップとして雇ってもらうように頼もう」
「ロイを外せとは言わないのか」
神崎が、訝しげに聞く。
「言っても、簡単には通らないだろう。だったら、外側からもう一人増やす方が、まだ現実的だ。経験のある斥候が一人増えるだけで、チーム全体の生存率は確実に上がる」
ロイ自身を直接切り離すのではなく、別の人材を加える——その方が、表向きの理屈は通しやすい。結城の中で、半分は実務的な判断、半分は別の思惑があった。
もう一人、信頼できる斥候が入れば、ロイ一人に依存する場面は減る。国の紐そのものを切るのは難しいが、紐の重みを薄めることくらいは、今のやり方でもできるはずだった。
―――
数日後、結城は再び、隠密の術を使って緒方のもとを訪れた。
「斥候の補充人員のことで、相談したいことがあります」
結城は、ロイのこと、反省会でのやり取り、国へ提案する予定の内容を、順番に話した。
緒方は、黙って最後まで聞いてから、静かに頷いた。
「その進め方は、悪くないと思うぞ」
「そうですか」
「前の職場でも、似たようなことがあった。上の人間に直接『この担当を外してほしい』なんて言ったら、まず通らない。だが『業務量に対して人員が足りないので、増員をお願いします』なら、案外、通りやすかったりするんだ」
緒方の言葉には、現場で何年も揉まれてきた実感があった。結城は、その言い回しに、妙な説得力を感じた。
「向こうも、表向きの理由を否定する材料がない。だから、こっちの提案を断りにくい」
「ええ。狙いはそこです」
結城は、少しだけ表情を緩めた。誰かに、こういう話を真剣に聞いてもらえることが、思いのほか久しぶりだった。
「中野くんは、元気にしてるみたいだ。前に話した時より、声も落ち着いてた」
緒方が、ふと付け加える。結城は、それだけで、肩の力が少し抜けるのを感じた。
「あの、もう一つ聞きたいことがあります」
「ん?」
「同じような罠に落ちれば、俺たちも、地球に帰れるんじゃないか——そういう話が、パーティーの中で出ています。緒方さんは、どう思いますか」
緒方は、すぐには答えなかった。
「正直、分からない。中野くんの場合は、たぶん偶然が重なった結果だ。同じことを意図的にやって、同じ結果になるとは、俺には言い切れない」
「……そうですよね」
「ただ、可能性自体を、頭から否定するつもりもない。もう少し、調べる時間が欲しい」
結城は、その言葉に、少しだけ安心した。少なくとも、緒方は、この話を一緒に考えてくれる相手だった。
「ロイのことも、油断しないでくれ。何が起きても、すぐに知らせられるように、こっち側でも気をつけておく」
「お願いします」




