第19話 新しい斥候
召喚された当初、王城からは「一年の訓練期間を経て、本格的な任務に当たってもらう」と説明されていた。結城たちは、まだその道のりの途中にいる。
訓練の日々は、表向きは何も変わらず続いていた。王都周辺の指定区域での実戦訓練、ダンジョンへの定期的な攻略、座学。神崎隼人(勇者)が前衛、東條雪乃(剣聖)がその脇、皆川澄香(聖女)が後方支援、結城遼(賢者)が範囲魔法。最後尾の警戒だけが、相変わらず誰かの持ち回りになっていた。
中野が消えてから、その穴は、思っていたよりも大きかった。
ある日の朝、訓練場に、王城の使者が現れた。
「斥候職に欠員が出ていると伺いました。こちらの者を、補充としてお使いください」
連れてこられたのは、結城たちと同じくらいの年齢に見える、線の細い青年だった。
「ロイと申します。よろしくお願いします」
物腰は柔らかく、言葉遣いも丁寧だった。態度に、これといった不自然さはない。
それでも、結城は、最初からどこか落ち着かないものを感じていた。
補充が来るにしても、こんなに早く、こんなに都合よく、人材が見つかるものだろうか。
数日のうちに、結城の違和感は、確信に近づいていった。ロイは、訓練の合間に、妙な質問を挟んでくることが多かった。
「前の斥候の方は、どうなったんですか」
何気ない世間話のような口調だった。
「事故があった。それだけだ」
結城は、それ以上を語らなかった。ロイは、特に追及してくることもなく、
「そうですか。お辛かったでしょうね」
とだけ言って、話を切り替えた。それだけのやり取りだったが、結城は、ロイの視線が一瞬、自分たちの表情を順に確認するように動いたことに気づいていた。
別の日には、訓練の休憩中、東條が何気なく「もし、また同じような事故があったら」と口にしかけた瞬間、ロイがちょうど近くを通りかかった。東條は、すぐに言葉を切り替えて、当たり障りのない話に逸らした。
結城は、その場面を見て、改めて自分たちの状況を理解した。
——監視されている。
誰の指示かは分からない。だが、ロイが何かを国に報告する立場にあることは、ほぼ間違いなかった。
その夜、結城は神崎たちを集め、声を落として話した。
「ロイの前では、中野の話は禁止だ。あの『穴に落ちれば帰れるんじゃないか』って話も、当分は誰の口にも出すな」
「分かってる。でも、いつまでこんな調子なんだ」
神崎が、苛立ちを隠さずに言う。
「分からない。少なくとも、緒方さんとの連絡経路だけは、今まで以上に気をつける必要がある」
皆川は、何も言わず、ただ小さく頷いた。
表向きは、何も変わらない一年の訓練が続いている。だが、パーティーの内側には、これまでとは違う種類の緊張が、静かに積み重なり始めていた。




