↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
184/186

第184話 罠と刃





 ゴドフリーが最初に訪れてから、数日が過ぎていた。


「あの男、また来るでしょうか」


 エレーナがそう呟く。


「来るだろうな。あれだけしつこかったんだ」


 緒方は少し考えてから、テラ・マートの画面を開いた。


「先手を、打っておく」


「先手、ですか」


「向こうの目的が分からない以上、こっちで追いかける手段を、用意しておいた方がいい」


 緒方が取り寄せたのは、小型のGPS発信機だった。地球の技術で、居場所を追跡できる代物だ。


「これを、あの男に気づかれないように付ける。次に来た時にでも」


「私も手伝います」


 エレーナが静かに、そう申し出た。


ーーー


 数日後、ゴドフリーは再び屋敷を訪れる。


「先日は、突然のご無礼を。改めて、ご検討いただけましたでしょうか」


 愛想の良い笑みを浮かべながら、彼は応接間に腰を下ろした。


 緒方は世間話を交えながら、それとなく彼の外套の裏地に、小さな発信機を忍ばせる。


「まだ、こちらも立て込んでいるものでして。もう少し、お時間をいただけますか」


「もちろんです。焦らせるつもりはありません」


 ゴドフリーは丁重に頭を下げて、帰っていった。


 その日から、緒方は神の目とGPSの両方を使い、ゴドフリーの動きを静かに追い続ける。


 彼の足取りは、王都の商業区画を忙しなく行き来していた。だが、数日ごとに決まって、ノルデンガルド王国側へと向かう街道を進んでいることが分かる。


「……やっぱり、ただの商人じゃなさそうだな」


 緒方は地図上の光点を見つめながら、そう呟いた。


ーーー


 そして、三度目の来訪の時。


「本日も、お返事はまだでしょうか」


 ゴドフリーがいつも通りの笑みを浮かべて、部屋に入ってきた瞬間——ガインとリエラが両脇から、その腕を取り押さえる。


「な——何のつもりです!」


「こちらが聞きたいことだ」


 緒方は静かに、自白の魔道具を差し出した。


「お前が何度も、ノルデンガルド側へ足を運んでいることは、もう分かっている。正直に話すなら、悪いようにはしない」


 ゴドフリーの顔から、笑みが消える。


 しばらくの沈黙の後、彼は観念したように肩を落とした。


「……分かりました。話します」


「私は、ノルデンガルド王国から依頼を受けておりました。目的は——ドラヴァス様の一行の居場所を、突き止めること」


「やはり、そうか」


 ドラヴァスが低く、唸るように言う。


「取引口座の話は口実か」


「はい。ここに出入りする理由が欲しかっただけです。まさか——先に、こちらが仕掛けているとは思いませんでした」


 ゴドフリーは自嘲するように笑った。


「依頼主は、ノルデンガルドの誰なんだ」


 緒方の問いに、ゴドフリーは首を振る。


「そこまでは……私も、直接の依頼主としか、やり取りしておりません。名も顔も存じません」


 この情報に、ドラヴァスの表情が初めて強張った。


「ノルデンガルドが、儂を探しているとなると——」


「息子さんが、まだあちらにいるんですよね」


 緒方の言葉に、ドラヴァスは重く頷く。


「ガルドの潜伏先が割れれば……」


 その先は、誰も言葉にしなかった。


「一つ、気になることがあります」


 エレーナが静かに、口を挟む。


「ノルデンガルドは、なぜ今になって、これほど熱心にドラヴァス様を探しているのでしょうか。これまでは、それほどの動きはなかったはずです」


 その一言に、緒方はヴィムの証言を思い出していた。


「……もしかしたら、ノルデンガルドも、あの魔族の影響を受け始めているのかもしれないな」


「帝国と、同じようにですか」


 エレーナの声が、わずかに緊張を帯びる。


 確証は何もない。それでも、一人の情報屋の背後に、これまでよりもはるかに大きな影が、はっきりと姿を現した瞬間だった。


ーーー


 その夜、緒方は隣の屋敷で静養していたレナートにも、ゴドフリーの一件を伝える。


「ノルデンガルドが……ドラヴァス様を?」


 レナートはしばらく、言葉を失っていた。


「他人事とは、思えません」


「レナート?」


「私の一族も……最初は、些細な探りのようなものから始まりました。誰かがそれとなく周りを嗅ぎ回って——気づいた時には、もう逃げ場がありませんでした」


 その声には、経験した者にしか分からない重みがある。


「もし、ノルデンガルドの動きの裏にも、あの魔族が絡んでいるのなら……同じことが、また繰り返されるかもしれません」


 緒方はその言葉に頷いた。


「だから、俺たちは先に動いたんだ」


「私にも……何か、できることはありませんか」


 レナートがまっすぐに、緒方を見る。


「これまでは、ただ匿われるだけでした。ですが、帝国の内情なら多少は、心得があります。魔族が、どういう手口で人を動かすのか——その辺りの感覚は、お役に立てるかもしれません」


 緒方は少し考えてから答えた。


「ありがたい話だ。だが、まずは体を休めることが先だ。焦らなくていい」


「……はい」


 レナートは小さく頷いた。


 だが、その目には、これまでにはなかった静かな意志の光が宿っている。


 匿われるだけの客人から、自らの意思で動こうとする者へ——レナートの中で、何かが変わり始めていた。


ーーー


 翌日、緒方たちは端末を通じて、ガルドと直接連絡を取る。


「ガルド、聞こえるか」


 ドラヴァスの声に、端末越しの音声から若い男の声が返ってきた。


「父上……ご無事で、何よりです」


「お前もな。単刀直入に言う。今すぐ、そちらを離れてこちらに合流できないか」


「……何か、あったのですか」


「ノルデンガルドが、儂を探っている。お前の潜伏先も、いつ割れるとも分からん」


 しばらく、沈黙が続く。


「……お誘いは、ありがたいのですが」


「ガルド?」


「今動けば、かえって目立ちます。それに——ここには私にしか、掴めない情報もあります。もう少し、ここに留まらせてください」


 ドラヴァスはしばし黙り込んだ。


「危険は承知の上か」


「はい」


「……分かった。だが、少しでも危うくなったら、すぐに知らせろ。すぐに飛んでいく」


「父上らしくない、飛躍した言い方ですね」


「儂の勝手を許せ」


 通信が切れた後、ドラヴァスはしばらく無言だった。


「息子さん、頑固なんですね」


 緒方がそう言うと、ドラヴァスは小さく笑う。


「儂に、似たのだろうよ」


ーーー


 その夜、緒方は神の目の定点観測に、違和感を覚えた。


 敷地の外周——普段は人の気配などない場所に、不自然な動きがある。


「誰か……いるな」


 緒方はすぐに、ガインとリエラに報せた。


 物陰に潜んでいたのは、黒ずくめの一人の男だった。気配を殺し、レナートの部屋がある隣の屋敷の方角を、じっと窺っている。


「レナート様の命が、狙われているのか……!」


 ガインが声を潜めた。


 緒方の指示で、ガインとリエラが先回りする形で動く。


 男が屋敷の壁を、越えようとした、その瞬間——


「そこまでだ」


 ガインの声とともに、剣が男の首筋に突きつけられる。


 捕らえられた男に、自白の魔道具が使われた。


「誰の指示だ」


 ガインの問いに、男はしばらく抵抗するように黙っていた。だが、魔道具の効力には逆らえない。


「……仲介屋から話が回ってきた。帝国の生き残りが、竜人の屋敷に匿われていると」


「仲介屋……ゴドフリーか」


 緒方が思わず呟く。


「奴が捕らえられる前に、流していた情報が……もう外に出ていたのか」


「私は、ただ依頼を受けただけです。金さえもらえれば、どこの誰でも構わない口です」


 男は投げやりに、そう答えた。


「依頼主は?」


「知りません。仲介を何人も、挟んでいるので」


 またしても、依頼主の正体には辿り着けない。だが、一つはっきりしたことがある。


「レナート様の存在は、すでに外に漏れている……ということですね」


 エレーナの言葉に、緒方は重く頷いた。


 ゴドフリーを止めたはずが、彼が既に流していた情報は、もう独り歩きを始めている。


 この一件を聞いたレナートは、青ざめながらも静かに拳を握った。


「……やはり、生きて逃げただけでは、済まないのですね」


「命は無事だった。それだけで十分だ」


 緒方がそう声をかけると、レナートは小さく頷く。


「ですが、これではっきりしました。私は、ただ守られているだけでは、いずれ皆様にまで危険が及ぶ。……本気で、お力になりたいと思います」


 その目には、恐怖とそれを上回る確かな決意が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。