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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第181話 繋がる声



 アメリカから、感謝の連絡が届いた。


「ワクチン関連の公聴会で、疑惑の博士が、国民を食い物にする実態を、赤裸々に証言しましてね。前大統領のブレーンにまで、飛び火する騒ぎになっています。それと——日本にも、製薬関連で、飛び火しますよ」


 そんな一報だった。


 最後には、日本国内の問題にまで進展していくだろう——その予感を裏付けるように、鷲尾総理の元には、すでに、具体的な国内企業の内部資料が届いていた。


 一方で、国内最大の医療関連の利権団体は、アメリカの報道に、震える日々を送っていた。


ーーー


 日本が膿出しをしている頃、異世界では、ドラヴァスが、隣接する屋敷に移り住んでいた。娘フィリアたちも、そこに合流している。


 数か月後には、噂を聞きつけた王家の臣下たちが、ドラヴァスの元に集まってきた。ノルデンガルド王国にいる息子ガルドは、まだ合流していない。だが、馬を扱う商会を通じて端末を手渡し、連絡が取れる状態にはなっていた。


 相変わらず、ドラヴァスは、魔石の充填を日課にして過ごしている。


 緒方は、契約魔法の話を、ドラヴァスたちに聞かせ、日本での導入についても伝えていた。


「その話、儂らに伝わる、英雄王の物語とも、繋がる話だな」


 ドラヴァスは、そう言うと、自らの一族に伝わる解釈を、語り始めた。


 ——世界に、初めて『等価交換』の理(ことわり)が、示されることとなったのです。


 東の大地を支配する大帝国の皇帝は、強大な軍事力と莫大な富を背景に、神の存在すらも否定し、自らの欲望のままに、民を酷使していました。彼の前には、いかなる兵も、いかなる城壁も、無力でした。人々は恐怖に支配され、明日をも知れぬ日々を、送っていました。


 一方、その帝国の西の果て、荒野に囲まれた小さな王国に、一人の王子が誕生します。彼の名は、『ラウール』。彼は、生まれる前から、天の神々と、特別な誓約を交わしていました。それは、『聖なる契約』。彼が神の法に従い、民を守り、正義を貫く限りにおいて、神は彼に絶大な力を授ける——そういうものでした。


 ラウールは成長し、父王の跡を継いで、若き王となります。彼は、神の啓示に従い、人々を救うため、帝国の圧政に立ち上がる決意を固めました。しかし、帝国の軍勢は、圧倒的でした。正面から戦っても、勝ち目はありません。そこで、ラウールは、神々に、さらなる誓約を求めました。


「我、ラウールは、この地の民を救うため、我が身を神々の道具とすることを誓う。我、神の御名を広め、正義を執行する。その代償として、我に、帝国の軍勢を打ち破る力を与えたまえ」


 この誓約に、神々は、応えました。しかし、その代償は、ラウールにとって、想像を絶するほど、重いものでした。神々は、彼に、帝国の軍を壊滅させるほどの強力な力を授けましたが——その力を使うたびに、彼の肉体と精神を、少しずつ蝕んでいく。それが、契約の中身でした。


 ラウールは、その過酷な契約を、受け入れました。彼は、神の力を解放し、帝国の軍勢を、次々と打ち破っていきます。彼の剣は、神々しい光を放ち、彼の言葉は、雷鳴のように轟きました。帝国軍は恐れおののき、皇帝は、驚愕しました。


 最終決戦、ラウールは、皇帝と対峙します。皇帝は、魔法や技術を駆使して抵抗しましたが、神の契約による力の前には、無力でした。ラウールは、契約によって自らの命を削りながらも、皇帝を打ち倒し、帝国の圧政に、終止符を打ちました。


 帝国は崩壊し、民は解放されました。しかし、その代償として、ラウールは、命を失います。彼は、神々との契約によって、自らの命を、世界のために捧げたのです。


 この出来事は、世界中の人々に、衝撃を与えました。神との契約が、個人の力を遥かに凌駕する力をもたらすこと、そして、その契約には、重い代償が伴うことが、知れ渡ったのです。


 これ以降、世界各地で、神々や精霊との契約を求める人々が、現れ始めました。彼らは、自らの願いを叶えるために、自らの何かを差し出す『契約魔法』を生み出し、実践していったのです。


 妻エレーナも、ドラヴァスの——聞いたことのない解釈に、感心し、そして、深く感動していた。


「同じ起源の物語でも、伝わり方一つで、これほど違うものなのですね」


 緒方は、その話の内容を、丁寧に書き留めた。資料として、拓也に送ることに決める。


ーーー


 最近は、テラ・マートの設定も、安定していた。だが、ドラヴァスや、娘フィリアの合流をきっかけに、新しい設定が、現れていた。


 パソコンのモニターに、拓也の映像が、映ることが可能になったのだ。


 カメラも付いていないのに、映像が映る——?


 仕組みは、理解できない。だが、音声も、リアルタイムで、拓也以外の者にまで伝わるようになっていた。日本側でも、同じ仕様が使えるようになっている。


 早速、家族会が動き、パソコンの画面越しに、やり取りが始まった。


 当然、緒方と拓也、両方が同伴していなければ、機能しない。それでも、直接顔を見て話せることは、家族会にとって、大きな心の安定に、つながった。


ーーー


 最初に、画面の前に座ったのは、緒方だった。


 年老いた母が、画面の向こうから、顔を覗き込んでくる。


「勤、ちゃんと、ご飯は食べてるの? 顔色は、悪くないみたいだけど……」


「大丈夫だよ、母さん。心配かけて、悪かったな」


「本当に、無事で、良かった……」


 母の声は、途中から、少し震えていた。緒方は、それに、何と答えていいか分からず、ただ、小さく頷くことしかできなかった。


 次は、結城だった。


 画面に映った途端、母親の声が、弾けるように響いた。


「遼! ちょっと、また背が伸びたんじゃない? ご飯、ちゃんと食べてるの? 痩せてない? もう、写真じゃ全然分からなかったから——」


「母さん、母さん、落ち着いて。俺は、元気だから」


 矢継ぎ早の質問に、結城は、たじたじになりながらも、その声の温かさに、頬を緩めていた。


 東條は、両親、そして妹の葵と、一緒に画面を囲んでいた。


「お姉ちゃん! 私ね、レベル上がったんだよ! 今度、道場でも見せてあげる」


「へえ、頑張ってるじゃない」


 葵の弾んだ声に、東條は、優しく笑いかける。父・浩一は、その様子を、静かに見守っていた。


「雪乃も、無理は、するなよ」


 その一言だけで、伝わるものが、あった。


 皆川は、母との会話に、しばらく涙ぐんでいた。


「澄香……本当に、無事で……」


「うん。お母さん、心配かけて、ごめんね」


 言葉は少なかったが、画面越しに向き合うだけで、十分だった。


 最後は、神崎だった。


 父親は、多くを語らなかった。ただ、画面の向こうで、一度だけ、深く頷いた。


「……そうか。息災であれば、それでいい」


 短い言葉の中に、それでも、確かな安堵が、滲んでいた。


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