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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第171話 還る






 緒方から送られてきた二缶は、拓也の手を経て、研究者の元へと送られていった。


 後日、追加の資料も届く。それもまた、神崎を通して、研究者の手に渡っていった。錬金術の見立てでは、薬になる可能性があるというが——正直なところ、拓也には、その先の展開は、まだ見えていなかった。


 もっとも、そんな未知の資源一つで、日々の生活が変わるわけでもない。拓也は、相変わらず、いつものペースを崩さずにいた。週に数回、高校に足を運んで剣道の練習に汗を流し、その合間には、仕事もこなしていく。


 ふと、頭をよぎるのは、アメリカでの、あの出来事だった。あれだけのことがあったというのに——今の大統領のことを、日本のメディアは、あまり好意的に報道しない。おかげで、拓也のことも、うまくスルーされているらしい。……多分。


ーーー


 数日後、鷲尾から、直接、連絡が入った。


「拓也くん、拉致問題に、協力してくれないか」


 そう言われては、断れるはずもない。拓也は、官邸へと向かった。


 翌日、官邸に出向くと、そこから、横田基地へと移動することになった。基地に着くと、米軍兵たちから、熱烈な歓迎を受け、そのまま、施設の中へと招き入れられる。


 そこには、触媒となる物質と、衛星からの映像が、既に用意されていた。前回と同じ要領で、作戦は進んでいく。


 拓也は、合図を待った。


「出ました。今です」


ーーー


 今回は、五組、家族を含めて七名を、転移させることになっていた。


 突然、見知らぬ場所に立たされた七人は、米軍兵士に囲まれ、一様に、怯え、うろたえていた。


 政府の担当者が、日本語と、隣国の言葉、両方を使い、一組ずつ、丁寧に話しかけていく。


 帰国したという実感の持てない被害者たちは、ここが日本だと知らされると、安堵する者、逆に不安を募らせる者と、それぞれ、様々な反応を見せた。


「旦那が、向こうにいるんです。戻してください」


 一人の女性が、そう訴えた。


「まだ、沢山残ってるんだぞ。俺だけ帰ったら、残されたみんなは、どうなるんだ。日本は、長いこと、俺たちを放置して……見捨てて……」


 一人の男性が、声を震わせながら、そう訴える。


 日本語を話さない、一人の女性は、震える声で、こう訴えた。


「これから、どうなるんですか。処刑、されるんですか。何も、悪いことなんて、していないのに……どうして」


「助けていただいて、ありがとうございます。私の家族は……元気でしょうか」


 また別の女性は、そう、涙ぐみながら尋ねた。


 様々な声に囲まれながら、拓也は、七人がくぐり抜けてきた歳月の重さを、改めて、突きつけられていた。


ーーー


 七人は、特定の施設へと搬送された。


 洗浄の魔道具で、長年の汚れを落とし、精密検査を受け、体調に応じて、回復薬が与えられていく。その後、家族が呼ばれ、面会の時間が設けられた。


 もっとも、帰国したことそのものは、まだ、内密にされたままだった。帰国者のうち、聞き取りが可能な大人たちからは、残された人々の情報収集が、慎重に続けられていく。


ーーー


 拓也は、数日後、再び横田基地に呼ばれた。


 今度は、得られた情報をもとに特定された人々を、次々と、帰還させていく。


 この一連の作業は、数回にわたって繰り返された。今回で、最後になると聞かされている。


 政府は、帰還した人々に、丁寧な聞き取りを重ね、時間をかけて、他に漏れがないかを確認しているという。


 拉致を行っていた当の国からは、非公式に抗議があった。だが、日本側は、


「そのような夢物語のようなことが、できるはずがない」


 と、突っぱねた。さらに、政府は、こう付け加えている。


「もし、そのような夢のようなことが本当にできるなら、いっそ、貴国の最高指導者をここへお連れして、直接、会談を実現させましょう」


 日本政府としては、珍しいほどの、強気な発言だった。


ーーー


 一連の任務が一段落すると、張り詰めていた気持ちも、ようやく緩んできた。拓也は、久しぶりに、宮下の元へ、遊びに来ていた。


 有名店のプリンを土産に、たわいない話をして過ごす——それが、拓也にとって、何よりの憩いのひとときになっていた。


 宮下も、氷室と交際するようになってから、あのトラブル体質が、解消されたのだろうか。


「宮下さん、最近、トラブルに遭わなくなったんじゃないですか?」


 拓也が、そう水を向けると、氷室が、したり顔で答える。


「私が、仕方なく付き合ってやったからな。憑き物が落ちたのかもな!」


 その一言に、拓也も、思わず、納得して頷いてしまった。


ーーー


 今年、卒業した葵は、大学にも、会社にも行かず、家事手伝いをして過ごしている。


 最近では、拓也の仕事を手伝うようになり、実質、社員のような状態になっていた。拓也の知らないうちに、父が、正式な社員登録を済ませ、雇用の形まで整えていたのだ。


「……いつの間に」


 後からそれを聞かされた拓也は、思わず、苦笑いを浮かべた。父の先回りする気持ちが、少し、くすぐったかった。


 高校での練習にも、東京への出張にも、付いてくるようになっている。官邸でも、神崎が、葵のための通行証を、用意してくれていた。


 葵は、剣道の大会を、これからも続けていくと言っていた。大会の際は、拓也が、付き添いを務めることになる。


 母校の高校には、今年、防具の洗浄用にと、洗浄の魔道具を寄贈した。その効果を知った後輩たちから、拓也は、大いに尊敬されることになった。特に、女子部員たちからの評判は、上々だった。


 顧問の先生は、それがどれほど高価な品か知っていたため、恐縮しきりだった。


 二十歳になったことを機に、会社としても、剣道部へ寄付金を送ることに決めた。これまでは、OBとして、差し入れ程度のことしかしてこなかった。溜まる一方の資金を、もっと有効に活かしてもらいたいと、OB会に、その運用を託すことにした。





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