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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第169話 騎士爵



 ヴォルガニア連合からの「人」の受け入れが、本格的に始まった。


 高齢者、子ども、身体に障害を持つ者たち——次々と、王国へと移動してくる。


 場所は、王都の北の地区。そこに新しい区画が作られ、住まいと職場が提供されることになった。


「担当は、そなたに任せる」


 王妃から、そう指名されたのは、一人の騎士爵だった。


 住宅には、日本製のプレハブ資材が使われ、現地の大工の手で組み立てられ、完成した。現地風の日除けや風除けを取り付けたことで、遠目には、地元の家と見分けがつかないほどに仕上がっている。


 緒方は、ここにも、魔石充填ができる施設を、あわせて併設した。


「身体に障害があっても、充填作業自体はできる者は、多いはずです。日銭を稼ぐ手段としても、ちょうどいいかと」


 緒方の提案に、王妃も、頷いた。


 あとは、その騎士爵に任せる——実質、丸投げの形だった。


ーーー


 騎士爵からの報告には、密偵と思しき者が、数名紛れ込んでいるとの情報も含まれていた。


 だが、王妃にとっては、織り込み済みのことだった。


「泳がせておけ。今のところは、な」


 密かに監視しながら、あえて、動かせておく——王妃は、そう判断していた。


ーーー


 その頃、国境の飛び地では、蒼鉄鉱の採掘が、順調に進んでいた。


 鉱山の脇には、製錬所が建てられている。土魔法を使える者たちが、仕分け作業の手伝いにあたっていた。


 製錬された鋼材は、転移魔法によって運ばれている。もっとも、それを悟らせないための、目くらましとして、馬車による輸送も、あえて並行して行われていた。


 衛星のおかげで、この飛び地とも、問題なく通信が取れるようになっている。


 現地の管理を任されているのは——ロルフ・カイデン騎士爵だった。


ーーー


「もう少し、掘削の速度を上げられないか」


 ロルフは、採掘現場を見回りながら、そう指示を飛ばしていた。


「露天掘りのポイントも、段々と深くなってきています。これ以上は、慎重に進めないと、崩落の危険が」


 現場の魔術師が、そう返す。


「……分かった。無理はさせん」


 ロルフは、素直に、その言葉を受け入れた。功を焦る気持ちがないわけではなかったが、無茶を押し通すほど、愚かではない。


 ロルフは、王都近衛出身の次男坊だった。家督を継げない立場にありながら、剣の腕と統率力には、定評があった。これまで、目立った地位にはついていなかったが、辺境の危険な任地に見合う人材として、オーレス侯爵直々の指名を受け、この地に赴任している。


 ロルフ自身にとっても、これは、自分の代で家名を興す、またとない好機だった。


 生真面目で実務的な性格は、部下からの信頼も厚い。だが、貴族社会の駆け引きには不慣れで、時に、侯爵や王妃相手にも、率直すぎる物言いをしてしまう。もっとも、それが、かえって気に入られている節もあった。


 龍穴や魔道具の専門知識は、持たない。その分野は、魔術師たちに一任し、自身は、防衛と、行政と、住民の統治に、徹していた。


「……焦る気持ちは、抑えねばな」


 ロルフは、そう呟くと、鉱山の奥へと、視線を向けた。任された土地を、必ず守り抜いてみせる——その決意だけは、誰にも負けないつもりだった。


ーーー


 その頃、王城の研究室では、結城が、衛星監視システムのAIから、警告メッセージを受け取っていた。


 アルデナ帝国内で、軍の不穏な動き——内乱と思しき兆候を、捉えたのだという。


 しかも、同時期に、ノルデンガルド王国が、最北の魔王の国へ向けて、軍を進行させている様子も、捉えられていた。


 結城は、すぐさま、王妃と侯爵に連絡を入れ、映像を確認してもらうことにした。


 侯爵は、映像に目を通すと、険しい顔で、深く頷いた。


「帝国に、内乱……間違いあるまい。宰相の外交部からも、確認を取らせます」


 王妃は、もう一つの映像を、じっと見つめていた。


「ノルデンガルド王国は……魔王討伐に、動いたのか? それとも——魔王の方が、先に、動いたのか?」


 その問いに、すぐに答えられる者は、誰もいなかった。


 この世界の均衡が、音を立てて揺れ始めている——そんな予感が、研究室の空気を、静かに、重くしていた。


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