↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
154/167

第154話 触媒





 結城が実験に忙殺される日々が続いていた。


 その傍らで、隼人は、クロエたちに、日本という国について、少しずつ話を聞かせていた。


「魔法がない国、だっけ」


「ああ。その代わり、科学技術ってやつで、色々なことを補ってる」


 クロエが、興味深そうに、隼人の顔を覗き込む。


「たとえば、それ」


 隼人が、クロエの服の袖を、軽く指差した。


「その服も、日本の工場で大量に作られて、流通の仕組みに乗って、こっちまで運ばれてきたものなんだ」


「工場……?」


「たくさんの機械が、同じものを、何百、何千と作る場所だよ。それを、船や飛行機やトラックで運んで、店に並べて、人の手に届く」


「魔法もないのに、そんなことが……」


 ガルムが、感心したように、腕を組んだ。


「魔法の代わりに、知恵と道具を積み重ねてきたんだ。俺たちの国は」


 隼人は、そう言うと、少し誇らしげに、笑ってみせた。


 シルヴィアとケインも、興味深そうに、その話に耳を傾けている。人工衛星の話では置いてけぼりだった三人が、こうして少しずつ、日本という国の輪郭を掴んでいく様子に、隼人は、ひそかな充実感を覚えていた。


ーーー


 結城の転移実験は、順調に進んでいた。


 五百キロメートルの上空へ、重い物質を転移させ、地上に戻すことにも、すでに成功している。


 だが、ここで、壁にぶつかった。


 静止衛星軌道にあたる、高度三万六千キロ。数回の実験を重ねても、星銀を触媒にした転移は、そこでは発動しなかった。


「ソニア、他に、使えそうな触媒はないんですか」


「思いつくものはあるが……すべて、伝説級の代物でな。人が触れることのできない、幻の物質だとか……とにかく、現存していない」


 ソニアは、そう言って、小さく肩をすくめた。


「遼の国には、ないのか」


 そう問われ、結城は、高出力で、触媒として使えそうなものを、頭の中で探った。


 思いついたのは——ウラン。あるいは、核廃棄物。


「……あるかもしれません。ただ、扱いが、簡単なものじゃないので」


 結城の表情が、わずかに、曇る。


―――


 緒方を通じて、拓也に相談を持ちかけた。


「結城が、高出力の触媒として、核廃棄物を使えないかと言っている。手に入るか」


「……核廃棄物、ですか」


 拓也は、しばし絶句した後、そう聞き返した。


「持ち帰って、確認してみます」


ーーー


 神崎から倉持へ、話は伝わった。


 経済産業省は、第三段階の高レベル放射性廃棄物を固めた「ガラス固化体」を、分厚い金属の専用容器に収め、移送を進めた。


「これで、長年の懸案が……解決するかもしれない」


 倉持経産大臣は、淡い期待を胸に、前のめりに動いた。核廃棄物の最終処分は、日本が何十年も抱え続けてきた、重い課題だった。


―――


 数日後、結城は、廃棄物をマジックバッグに入れて運び、龍穴の前で、それを触媒にした実験を開始した。


 衛星を想定した、十トンの塊を、上空へ転移させる。


「――行きます」


 結城の詠唱と共に、龍穴が、これまで以上に強く輝いた。


 塊が、音もなく消え去る。


 しばらくの静寂の後、魔法陣に描かれていた術式の光が、ふっと消えた。


「……送り込めた、はずだ」


 ソニアが、陣の様子を見つめながら、そう呟いた。魔力の消費量、術式の反応——そのすべてが、狙った座標へ、確かに届いたことを示していた。


「成功、ですか」


「ああ。少なくとも、こちら側から見える範囲では、な」


 その言葉に、その場に、歓声が上がった。結城も、ソニアも、思わず顔を見合わせ、拳を突き上げた。


 結果として、高出力の触媒こそが、決め手だったようだ。


―――


 実験結果の報告と共に、「分厚い金属の専用容器」が、日本へと返還された。


 戻ってきた中身を分析したところ、高レベル放射性廃棄物——その有害な放射線までもが、跡形もなく消失しているという、驚くべき結果が判明する。


 この報告は、倉持を通じて、鷲尾総理の元へと届けられた。


 倉持の淡い期待は、現実のものとなった。触媒に使った物質は消える、という話は、事前に聞かされていた。だからこそ抱いていた「もしかして」という期待が、そのまま現実になったのだ。


「これを世界に公表すれば……一つの産業として、世界に衝撃を与えられる」


 倉持は、資料を手に、興奮を隠しきれない様子だった。


 だが、倉持が注目していたのは、それだけではなかった。転移させたものを、きちんと回収できたという事実だ。


「これが、日本国内でも実現できれば……とてつもないことが、可能になる」


 老朽化した衛星を回収し、廃棄することができる。それは、新たなビジネスチャンスにもなり得る。


「邪魔な、某国の監視衛星を、回収することさえ……可能かもしれない」


 倉持は、そこまで考えて、一度、深く息を吐いた。


「いずれにせよ、これが日本国内でも実現できるのか、検証する必要がある。拓也くんの協力が、欠かせないな」


 核廃棄物の最終処分という、長年の重荷を下ろせるかもしれない期待と、新たな技術がもたらす、計り知れない可能性——その両方を胸に、倉持は、次の一手を、静かに練り始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。