↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
150/163

第150話 証明





 研究室の机には、材料集めの旅で持ち帰った、魔結晶と星銀が並んでいた。


「まずは、召喚からだ」


 ソニアが、シャドウウルフの魔結晶を、机の中央に置く。


「これは、中程度の濃度だ。お前にとっては、初めての召喚になる。難易度の低い相手を選ぶのが、賢明だろう」


「難易度の低い相手、というと」


「一般の動物、下位の魔物、低級精霊……このあたりは、初心者の魔術師が、練習台によく使う対象だ」


 ソニアは、少し考えるように、顎に手を当てた。


「風属性の、シルフの雛あたりが、丁度いいだろうな」


「シルフの雛……分かりました」


「仕組みは、単純だ。召喚している間、術者の魔力を『維持費』として、垂れ流し続けることになる。魔力が尽きるか、術者がパスを緩めれば、対象は元の居場所——生息地なり、霊界なりへ、一瞬で送り返されて消える」


「分かりやすいですね」


「実際にやってみれば、もっと、よく分かる」


 ソニアが、机の上に「召喚の魔法陣」を広げた。その中心に、結城は、シャドウウルフの魔結晶を、そっと置く。


 結城は、陣に手をかざし、静かに魔力を流し込んだ。


「――我が呼び声に応えよ、風の落とし子」


 詠唱に応じて、魔法陣が青く光る。中心の魔結晶が、光の粒子となって、ゆっくりと溶けていった。


 光は、ぐるぐると渦を巻き、小さなつむじ風となる。その中から、パタパタと、愛らしい羽ばたきの音が聞こえてきた。


「きゅ、きゅぃ?」


 光が弾けて現れたのは、手のひらサイズの、透き通る羽を持つ、小鳥のような妖精——シルフの雛だった。


 結城が、そっと人差し指を差し出すと、雛は、嬉しそうに、ちょこんと指の上に乗る。そよ風のような心地よい温もりを感じながら、結城は、初めての召喚の成功に、小さく微笑んだ。


「わあ……可愛い!」


「見て見て、羽が透けてる!」


 実験に立ち会っていた皆川と東條は、シルフの雛の愛らしさに、思わず声を弾ませた。


 だが、結城がパスを緩めると、シルフの雛は、一瞬で元の場所へと送り返され、光と共に消えていった。


「あっ……」


「もう少し、キープできないの?」


 皆川と東條が、揃って、名残惜しそうに、結城に食い下がる。


「維持費がかかるって、言ったろ」


 結城は、苦笑しながら、そう返した。


「成功ですね」


 ソニアが、満足げに頷く。


「あとは、召喚魔法の経験を積むことで、レベルが上がっていきます」


―――


 次は、転移魔法の実験になる。こちらは、外の龍穴で行う必要があるため、翌日の早朝、一行はその場所へ向かうことになった。


 早朝の外出な上、ソニアも同行するため、護衛を兼ねて、勇者パーティー全員が付き添うことになった。


 一番近い龍穴までは、車で一時間ほどの距離だった。車移動が初めてのソニアは、到着するまでの間、質問を絶やさなかった。


「この乗り物は、馬より速いのか。魔力は使っているのか。窓を開けても、風が入るだけなのか」


「はい、はい、それも、はい」


 結城は、次々と繰り出される質問に、律儀に答え続けた。研究者としての好奇心は、実験に対してだけではないらしい。


 今回行う転移は、難易度自体は高くなく、研究室でも実験できる程度のものだった。それでも、実際に龍穴を使って体験しておくことは必要だと、ソニアは判断していた。


―――


 龍穴の地に、「転移の発信陣」が描かれる。


 その中心に、触媒となる星銀(スターシルバー)と、実験台となる一輪の薔薇が置かれた。


 ソニアが、通信機に声を落とす。


『アル、王城中庭の様子はどう?』


『こちらも、準備完了です、ソニア様! いつでもどうぞ!』


 通信機の向こうから、助手アルの弾んだ声が返ってきた。メイフィールド伯爵家からソニアの研究室に派遣されている助手の一人だ。


「よし、いくぞ」


 ソニアが、結城に、短く合図を送る。


 結城は、地から湧き出る魔力を引き込み、星銀へ向けて、一気に流し込んだ。


「――空間を歪め、ふたつの理を繋げ」


 詠唱と共に、魔法陣が銀色に輝き、星銀が光の粒子へと溶けていく。


 薔薇の周囲の空間が、ぐにゃりと歪んだ直後——パシッ、と音がして、銀の光が弾けた。


 目の前にあったはずの薔薇は、跡形もなく、消え去っていた。


『大成功です!』


 通信機から、王城で待機していた助手アルの、興奮した声が響く。


『ソニア様、こちらに、いま薔薇が、ぴったり転移してきました!』


 その声を聞き、ソニアは、張り詰めていた肩の力を抜き、嬉しそうに微笑んだ。


「……理論が、証明されたな」


 結城も、その隣で、静かに息をついた。


 召喚と転移、二つの理論が、確かに、この手で形になった瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。