第146話 向学のために
グレーカレコ王国、王城の一室。
勇者パーティーが見守る中、幻級回復薬の献上式が、しめやかに執り行われていた。
ベルン伯爵が、恭しく一本のエリクサーを捧げ持ち、リーゼル王妃の御前へと進み出る。
「王妃様。こちらが、此度、勇者様方のご尽力により完成いたしました、幻級回復薬にございます」
王妃は、その小瓶を、静かに受け取った。
「大儀であった。……我が国に、これほどの物を生み出す力があったとは。誇らしいことだ」
王妃の言葉には、労いと、静かな誇りが滲んでいた。集まった貴族たちの間にも、感嘆の空気が広がる。
式典が一段落したところで、王妃は、下手に控える勇者パーティーへと、視線を向けた。
「して——そなたたちに、何か、望みはあるか」
―――
代表して、結城が、一歩、前に出た。
「賢者として——勇者召喚に貢献された魔術師様と、魔術について語らい、さらなる知識の研鑽を図りたく存じます」
その申し出に、王妃は、しばし、沈黙した。
「……我が妹、ソニアのことか。あの子は、国の魔術師の部屋に籠り、研究に明け暮れておる。……話は、してみよう」
王妃は、そう請け合ったものの、内心では、少なからず、頭を悩ませていた。
妹は、研究以外には、ほとんど興味を示さない性分だった。どう切り出せば、面会に応じてくれるものか——。
思案の末、王妃は、幻級回復薬の製作にまつわる秘話を、話のきっかけにすることに決めた。
―――
数日後、結城たちは、王城の奥まった一角にある研究室へと案内された。
そこにいる人物と顔を合わせるのは、これで、二度目のことだった。
「ソニアよ、元気そうで、何よりだわ。他の者も、皆、元気にしておるか? あと三人……いや、四人はいたはずだが」
「はい、元気です。ソニア様」
「様は、よしてくれ。ソニアで構わない。……して、何が聞きたいのだ? やはり、召喚についてか」
「はい。それもそうなのですが……召喚や転移の、そもそもの原理について、知りたいのです」
「……向学のためか。大変結構」
ソニアは、そう言うと、研究室に山と積まれた本と書類を、指し示した。
「私も、日々、研鑽を続けているが……見ての通り、この書類の山に、埋もれておるよ。人に教えることは、自分の研鑽にも繋がるという。日を決めて、共に、研鑽しよう」
話は、とんとん拍子に進んでいった。
―――
「それと——エリクサーの話も、聞かせてくれ。興味がある。私の足も……治るだろうか」
ソニアは、そう言いながら、わずかに、歩みに不自由さを見せた。股関節か、膝か——判然としないが、確かに、片方の脚を、庇うような仕草だった。
「そちらは……」
「生まれつきでな。もう、長年の付き合いだ。さほど、不便には感じていない」
ソニアは、そう言って、屈託なく笑った。
結城は、マンドラゴラの採取や、エルフの長老とのやり取りについて、順を追って語った。滅多に外へ出ないソニアは、まるで自分もその冒険を体験したかのような、不思議な感覚を覚えていた。
そして、実際に、その場で調合が行われた。鍋全体が、黄金色のまばゆい光に包まれ——透き通った、純金色の液体へと変わる。
「生まれつきのものに、効果があるかは、分かりません。ですが……実験として、飲んでみられますか」
結城は、出来立てのエリクサーを、ソニアに差し出した。
ソニアは、しばし、沈黙した。
「……実験のためだ」
そう呟くと、ソニアは、その液体を、一気に、飲み干した。




