第143話 世界が色めき立つ日
日本政府の発表から、数時間も経たないうちに、世界中の主要国が、相次いで声明を出し始めた。
国連は、緊急の特別会合を招集すると発表した。前例のない事態に、常任理事国の間でも、対応が割れている様子が伝わってくる。
「日本一国の判断で、これほどの未知の資源にアクセスすることが、許されるのか」
ある大国の代表は、記者団に対し、そう不満を漏らした。
「本来、こうした案件は、国連主導のもとで、国際的に管理されるべきだ」
その主張には、一定の理があるようにも聞こえたが、同時に、自国が蚊帳の外に置かれたことへの苛立ちも、透けて見えた。
一方で、すでにマーカス・レインを通じて、水面下で接触していたアメリカは、表向き、静かな反応に終始した。
「同盟国として、日本の判断を尊重する」
その一言だけを、簡潔に発表した。すでに実利を得ている側の、余裕とも取れる態度だった。
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某国は、これまでの水面下の接触(サイバー攻撃、拉致未遂、政界工作)が、すべて公になることを恐れてか、異例の速さで、公式声明を発表した。
「そもそも、この交流の窓口は、我が国にこそ開かれるべきものである。日本には、荷が重すぎることは明白だ」
声明は、そう続いた。
「我が国こそが、これを管理する義務と権利を持つ。国民を異世界に派遣し、現地に拠点を築き、経済・文化の発展に寄与することこそ、我が国の責務である」
明らかな強がりと、拡張主義的な野心が透けて見える発表だったが、国内向けには、一定の説得力を持つものになっているようだった。
隣国も、負けじと、独自の見解を発表する。
「地理的にも歴史的にも、我が国こそが、この技術にアクセスする正当な権利を持つ」
根拠の乏しい主張だったが、国内世論を煽る狙いは、明確だった。
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経済の世界でも、当然、反応があった。
もっとも、どの企業が具体的に関わっているかは、まだ公になっていない。そのため、エテリムやチタン、レアアース関連の個別銘柄自体には、目立った変動はなかった。
その代わりに動いたのは、日本と、アメリカの株価全体だった。将来性への期待感から、両国の株価指数は、そろって、大きく値を上げた。
翌日、日本政府は、続報を発表した。
魔石による電力供給システムの公開。大手自動車メーカーによる、魔石カートリッジ式ハイブリッド車・EV車の発表。洗濯の魔道具、火・水・灯の魔道具の紹介。さらに、契約魔法を用いた、電子監視制度(EM)に代わる新制度の公開——。
同じ日、アメリカ側も、動いた。魔石による電力供給システムの導入を発表し、マーカス・レインは、自らの企業で、魔石EVを年内に発売すると、発表した。あわせて、契約魔法を用いた、電子監視制度(EM)に代わる新制度についても、正式に採用する方針を明らかにした。
その日の株式市場は、日米ともに、まさに、お祭り騒ぎとなった。
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華やかな発表の裏で、あまり表には出てこない、地道な検証も進められていた。
契約魔法を用いた、電子監視制度(EM)に代わる新システム——アメリカでの、臨床試験である。
日本から送られてきた、羊皮紙には、誓約・呪縛の魔法陣が、丁寧に記されている。殺人、暴行、窃盗、詐欺、強姦——罪状ごとに個別の陣が描かれ、それぞれの説明が記された羊皮紙が、クリップで一枚ずつ挟まれていた。
使い方自体は、拍子抜けするほど単純だった。罪状に応じた魔法陣を選び、専用の魔道具を使って、対象の羊皮紙に発動させるだけでいい。たとえば、窃盗の陣を発動された者は、以後、窃盗という行為そのものが、行えなくなる。
この魔法陣には、期間の定めがない。解除しない限り、効果は、死ぬまで続く。
試験は、減刑を条件に、希望者を募る形で始まった。集められたデータをもとに、慎重に検証が重ねられていく。
結果は、おおむね良好だった。特に、暴行については、テキメンの効果が実証され、監視付きでの釈放と、その後の追跡データをもとに、正式採用が決まった経緯がある。
だが、順調なことばかりでは、なかった。
殺人や強姦で被験者となった者の中には、満たされない自身の欲求に耐えきれず、自ら命を絶つ者も、少なからず出てしまった。
それでも——現在のところ、この制度を適用された者たちの、再犯は、ゼロを維持している。




