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異世界帰りの俺と、残された四人 ―テラ・マートは知っている―  作者: 山田村


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第133話 吟遊詩人の忘れ物



 通信網の拡大に伴い、南ガラニア国からも、勇者たちへの協力依頼が届いた。


 クロエたちの間には、多少のわだかまりがないわけではなかった。それでも、割り切って、仕事に取りかかることにした。


 人の多い場所に向かうというより、むしろ、人のいない場所での地図データ取りを、積極的に引き受けた。都市部は、結城、東條、ケインの三人が担当し、地方の広大な範囲は、隼人、皆川、クロエ、シルヴィア、ガルムが受け持つことになった。


 地図作りで、何より骨が折れるのは、電波の通る拠点作りだった。グレーカレコ王国では、教会を偽装した祈りの塔を建てることで対応してきたが、南ガラニア国では、信仰の対象そのものが異なる。同じやり方は通用せず、現地の宗教事情に合わせた、細やかな気遣いが求められた。


―――


 地図作りの移動中、ふと、それぞれの故国での前職の話で、盛り上がることがあった。


 ケインは、冒険者兼盗賊。シルヴィアは、精霊術師として生計を立てていた。ガルムは、傭兵。そして——クロエは、吟遊詩人だった。


 隼人たちが「自分は学生で、緒方さんは道場で巻き込まれた形だった」と紹介すると、皆川が、目を丸くした。


「吟遊詩人?」


 その一言に、クロエが、おもむろに語り出し、歌い始めた。


 澄んだ声が、辺りに響く。皆川は、感動した様子で、口々に褒めそやした。


「これは、国で誰もが知っている歌よ」


 クロエが、そう言うと、シルヴィアとガルムも、揃って頷いた。


 彼らは、広場で偶然その場に居合わせ、召喚に巻き込まれた者同士——出会った時は、皆、初対面だったという。それでも、クロエは、故国では名の知れた吟遊詩人であり、剣の腕も一流と謳われていた人物だった。


「楽器がないのが、残念なんだけどね。歌だけでも、自信はあるよ」


 クロエは、そう言って、胸を張った。


 肝心の楽器は、召喚された際、マジックバッグごと、行方不明になってしまっていた。


―――


 地図作りの作業を終え、一行は、王都へと帰還した。


 王都に戻った皆川は、緒方の元を訪ね、クロエの歌の素晴らしさを、切々と語った。当時使っていた楽器が、ギターに近いものだったと聞き、皆川は、日本からギターを取り寄せてほしいと、緒方に頼み込んだ。あわせて、皆川お気に入りの楽曲も、いくつか注文しておいた。


 翌日、国産のプロ仕様ギターと、付属品一式、そして、皆川のお気に入りの音源の入荷を、緒方から知らされる。


 緒方は、皆川たちを待つ間、新たに加わった地図データを、一人、確認していた。初めて目にする海岸の映像には、帆船が停泊する、中世さながらの風景が広がっている。その光景に、しばし、見入ってしまった。


 あわせて、緒方は、あと一年で奴隷契約が切れる、ロイドとの今後についても、話し合いの場を持った。ミラは、まだ子供のため、労働はさせていない。その代わりとして、契約期間が、少し長めに設定されている。それに合わせ、これからどう働くか、という相談だった。


「雇用を、解雇されない限りは……ずっと、ここで働きたいです」


 ロイドが、そう申し出たことで、その内容で、再雇用の契約を結ぶことになった。


 ロイドとの話が、ちょうど一段落した頃、皆川が、クロエを連れてやってきた。


 皆川は、商品を、二人の前に置く。


「クロエ、これで、私のために、音楽を聞かせて」


 いくらか強引な口調で、そう頼み込んだ。


 クロエは、ケースを開け、中身を確かめる。


「うおー、良さそうな楽器だな」


 弦を弾き、チューニングを整えながら、軽く旋律を奏でてみせた。


「いい音だ。……これ、高級品だね」


「クロエ、気に入ったなら、ずっと使って」


「え、いいのか?」


「どうぞ。そのために、仕入れたんだから」


「そうなのか!」


 クロエは、目を輝かせながら、そのギターを、大事そうに抱え直した。


 皆川が、スマートフォンで音源を流しながら過ごしていると、クロエが、いつの間にか、一度聞いただけの曲を、そのまま弾き始めていた。


「へ……覚えたの?」


「だいたいな。面白い曲だな、他にもあるのか?」


 その後も、クロエは、次々と曲を聞き覚えては、自分のものにしていった。


 緒方は、その様子を、そっと録画に収め、拓也へと送った。クロエという少女の、思いがけない才能を、改めて知ることになった一幕だった。


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