第131話 掴みどころのない敵
某国とみられる、サイバー攻撃があった。
もっとも、セキュリティ上の理由から、一般業務と機密情報は、基本的に別扱いにしている。中野物産に関しても、オフライン作業が基本方針だったため、大きな実害は出なかった。一時的に操作不能になった箇所はあったものの、翌日には解決し、通常業務に戻っている。当然、拓也と緒方を繋ぐ回線への侵入は、最初から不可能だった。
それでも、気分的には、どうにも気持ち悪い。拓也は、パソコンを丸ごと入れ替え、気持ちを切り替えることにした。
——本当に、しつこい連中だ。
反撃したい気持ちはあったが、今の自分には、何もできない。異世界でも、レイスのような、掴みどころのない相手は、正直、苦手だった。ネットの攻撃とは、性質が違うと分かってはいても、同じような、もやもやした感覚が、胸の内にわだかまる。
神崎は、報告を受けるとすぐに、事態の収拾と、今後の対策に動いてくれた。
そこに、もう一つ、報告が加わった。
「それと、米メディアで、拓也さんのことが、写真付きで報道されました」
「え……」
思わず、声が漏れた。
オカルト系のバラエティー番組で、各国の面白ネタを取り上げるコーナーの一つとして、扱われたらしい。
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自白の魔道具については、法的な問題を脇に置いても、警察の現場では、使用に前向きな声が多かった。
その供述自体は、証拠として法的に認められてはいない。それでも、捜査の進展が確実に上がり、誤認逮捕が減るであろうことは、現場の誰もが実感していた。
運用にあたっては、複数の取り調べ官の立ち会いと、録画が義務づけられ、試験運用が始まっている。
参考人に問いかけ、一問で終わることも多い。
「やりました」
その供述内容を、事実確認するだけで、手続きは終わる。本来かかるはずの時間と人手が、極端に減っていた。
もし、これが世に広く公開されれば——刑事ドラマの推理など、必要なくなる日が来るかもしれない。
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契約魔法——奴隷契約を利用した、新たな刑罰制度の法整備も、水面下で進められていた。
参考にされているのは、アメリカの「電子監視制度」、略して「EM」。刑務所に収容する代わりに、発信機(GPSタグなど)を身につけさせ、社会の中で刑期を終えさせるという制度だった。
日本国内でも、これまで幾度となく議論されてきたが、人権侵害への懸念から、法制化には至っていなかった。
だが、今回の仕組みは、少し違う。監視すること自体が目的ではなく、あくまで、特定の行動を抑制するだけの仕組みであり、期間を過ぎれば、効力そのものが失われる。特定の犯罪行為を、躊躇させるだけ——監視は、していない。
人権団体側が懸念してきた要件には該当しない、という判断のもと、この案は、法整備を進める方向で固まった。
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異世界では、ベルン伯爵によるマジックバッグのお披露目が、盛大に行われた。
王国の主要な貴族たちを一堂に集め、王妃主催のもと、国の新たな産業の柱となる可能性を秘めた品として、紹介される。
王妃の宣言から始まり、ベルン伯爵による説明と実演が続くと、集まった貴族たちは、口々に絶賛の声を上げた。
その熱気に、静かに水を差したのは、宰相だった。
「国外の話ですが」
そう切り出し、宰相は、淡々と続けた。
多国籍な悪意の連合体——ヴォルガニア連合が、北ガラニア国を飲み込み、消滅させたこと。南ガラニア国だけが、辛うじて残っていること。
「これが、戦争に使われれば——危険です」
急がず、普及には慎重に。そう締めくくった宰相の言葉に、会場は、しんと静まり返った。
その沈黙を破ったのは、王妃だった。
「それだけ、危険な魅力を秘めた品だということじゃ。今日集まった皆にこそ、その力を——」
王妃は、そう言い切ると、集まった貴族たちに、マジックバッグを次々と下賜していった。
使用しての感想や、販売に関する意見は、後日、改めて報告するようにと伝えられ、その場は散会となった。
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緒方は、オーレス侯爵から、南ガラニア国の現状について、説明を受けた。
南ガラニア国の王は、こちらの国とは、友好的な関係にある。国境の一部を接しているが、その道は、険しい峠道になっているという。
現在の王は、かねてより、「国に厄災をもたらす」と言われる勇者召喚に、反対の立場を取り続けてきた人物だった。実際に召喚を実施した北の王家は、すでに消滅している。
小国となった南ガラニア国は、北の脅威——ヴォルガニア連合に対抗するべく、同盟を結べそうな国々へ向けて、必死の外交を展開していた。
オーレス侯爵は、その中でも特に、友好的な数名の貴族と、個別に連絡を取り合っていた。
そこで、通信網を、その友好的な貴族たちの元にも設置することになった。連絡係として、現地に店舗を構え、工作員を配置する。緒方の商品は、ここでも、確かな役に立った。仮の店ではなく、本物の商いとして展開しているため、疑われる心配もなかった。




