第129話 土と風
父は、小山に引っ越してきてから、株式会社中野物産の出版関連の仕事を、主に担当するようになっていた。
先月、深町先生の本が完成した。現在は、次の一冊に取りかかっている。
題名は、「初心者冒険者の手引」——別名「死なないため」。初心者から中級者向けのハウツー本だった。もう一冊、並行して進めているのが、「五つの基本魔法」。こちらは、拓也が実演した内容をもとにした一冊だった。
深町先生は、拓也の元にやってきては、その行動を観察していた。原本を、魔法初心者として読み、その通りに実演してみせる——そういうやり方だった。
今回は、先生のリクエストで、拓也が使ったことのない、風と土の魔法に挑戦することになった。
まずは、土系から。文章を読み、イメージを固める。呪文を唱え、魔力を流し込む——何も起きない。不発だった。
もう一度、土の見える場所へ少し移動し、再挑戦する。今度は、土が、わずかに持ち上がった。成功——ではあったが。
「しょぼい」
先生は、大うけしていた。土系は、相性が悪いのか、原因は不明のままだった。
次は、風。手順は、先ほどと同じだ。呪文を唱え、魔力を流す。
箱に向かって、強い風が吹き付けた。
「おー、風がー!」
思わず、声が出た。ブロワーより強い風かもしれない。
拓也の表情に満足したのか、深町先生は、上機嫌な顔で帰っていった。エピソード付きの、味のある一冊になりそうだった。
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数年に及ぶ試行錯誤の末、廃材から八割強の魔力を蓄えられる製品が、ついに完成した。
リサイクル品として、専用のラベルを貼って区別しているが、色味も明らかに異なるため、間違えることはまずないだろう。魔道具程度の用途であれば、問題なく使用できることが、確認されていた。
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緒方が注文した、実験用耐熱ガラスの一式が、説明書きを添えて、ベルン伯爵が管理する錬金術師の元へ送られた。
早速、ベルン伯爵側から連絡が入った。実験器具、そして薬用のガラス瓶とコルクの注文だった。
実験一式は、中級回復薬二本と交換。ガラス瓶百本のセットは、中級回復薬一本と交換——そういう形で話がまとまった。
直接会ったことはまだないが、緒方は、このベルン伯爵という人物の仕事ぶりを、すっかり気に入っていた。
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緒方の屋敷には、いつしか、洋服店の店主が出入りするようになっていた。
最初は、タオルなどを仕入れる程度だったが、「特殊布」として評判になると、次第に、布そのものを仕入れるようになり、今では、布の切り売りまで手がけるようになっている。
この新素材にいち早く目をつけたのは、地元の洋服店だった。ドレスのデザイン図も、思いのほか売れ行きが良い。
あまりに事業が広がりすぎるのを見かねた緒方は、馴染みの洋服店に、布の卸業をやってみないかと持ちかけた。快諾を得た後、二軒隣の空き家を買い取り、そこを卸業の拠点として任せることにした。
服を巡っては、他にも、色々な動きがあった。
勇者たちの普段着や下着、その他の衣類を、日本から取り寄せる中で、自然と女性陣の目に留まり、話題になっていった。オジサンの緒方には、正直、場違いな話題だったが——エレーナ、フィア、クロエ、シルヴィア、皆川、東條が中心となって、話は着々とまとまっていく。
最終的に、皆川が「ミシンが欲しい」と言い出したことをきっかけに、馴染みの洋服店との相談が始まり、そこから、卸業の話へと繋がっていった。
グレーカレコ王国の布は、素朴な風合いながら、日本では評判が良い。加えて、魔物由来の布についても、業界や科学者たちから、静かな注目が集まり始めていた。




