第128話 悲願
ベルン伯爵は、一人、静かに思いを巡らせていた。
マジックバッグの管理・運用は、これから、一代限りでは終わらない、大きな事業になっていくだろう。薬の価格を、わずかに下げるだけで話がついたのだから、こちらとしては、むしろ上出来と言っていい。
あの侯爵は、強欲な男だと思っていたが——どうやら、こちらの見立てが、間違っていたらしい。
私の悲願は、どこの国にも属さず、国境を越えた錬金術師の協会を、この世界に築き上げることだ。そのために、これまで日々、安定した品質の薬を、提供し続けてきた。
私の代で、国内すべての町に、ベルン家の事業所を構えることができた。これからは、国外展開の段階に入る。幸運なことに、その足掛かりとして、マジックバッグの販売権を得ることができた。
これを足掛かりに、世界へ。そして——偽物の薬で、命を落とす者が、一人でも減ることを願う。
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緒方は、侯爵から、薬の価格が一割下がったという連絡を受けた。
侯爵は、その分の利益を取らず、そのまま横流ししてくれるらしい。ありがたい話ではあったが、侯爵の意図までは、読み切れなかった。
そんな折、拓也から、アメリカ向けに百本という注文が入った。外交カードとして使われているのだろうと察しつつ、事務方に発注すると、二日後には用意できるとの返事があった。
ベルン伯爵の製品は、品質が安定していると評判だった。町の錬金術師の作るものは、当たり外れがあるため、注意が必要になる。その分、値段は安いのだが。
緒方は、製品を作る工程を、実際に見せてもらう機会を得た。地球で言えば、理科の実験に使うような器具の、劣化版といった趣だった。
日本製の道具を提供すれば、喜ばれるかもしれない——そう思い、カタログから一式を注文しておいた。あわせて、薬用のコルクと瓶も、用意することにした。
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大統領は、一人、静かに思いを巡らせていた。
中級回復薬のおかげで、孫は、ベッドの上での生活から、庭を散歩できるまでに回復した。
自分には、大勢の支援者がいる。その中には、特に重要な人物も少なくない。そして、そのうちの何人かは、健康上の問題を抱えている。
力になりたい——ただ、それだけの、単純な動機だった。
孫が、再び歩き出す姿を目にした時の感動と興奮は、何物にも代えがたい経験だった。あの喜びを、支援者たちにも味わってもらいたい。それが、次の戦い——選挙戦への、確かな一歩になる。
もう一つ、気になっている人物がいた。
中野拓也。未確認情報によれば、異世界から帰還した、超人的な体力を持つ青年らしい。異世界の製品を取り寄せることもできるという。
できることなら、ぜひとも、アメリカの国籍を提供したい——そんな人物だった。
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官邸には、マジックバッグが三個、提供されていた。
現在、法整備の検討が進められている。所持を許可する人物の限定、シリアルナンバーと発信機の義務化——検討事項は、多岐にわたった。
当面は、防衛省での運用と、官邸内の運搬・配送業務に使用する方針だった。残る一つは、外交カードとして、保管されている。
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桐生大吾の技術をもとに、大型の非常用電源が、ついに完成した。
開発を担った企業は、数年をかけて、工場や病院の非常電源としての使用に耐えうる水準まで、仕上げてきたという。
次なる目標は、発電施設そのものへの応用だった。魔石を用いた大型の非常用電源は、発電施設に匹敵する高出力を発揮する。町単位で試算したところ、数か所の設置だけで、その町一帯の電力を賄えるという結果が出ており、モデルケースとしての導入が検討されていた。魔石の供給にも、多少の余裕が生まれつつあった。
変化は、自動車業界にも及んでいた。
主力のハイブリッド車を扱う、日本を代表する自動車メーカーの一社が、桐生大吾の技術を取り入れ、開発から数年をかけて、リチウム電池を用いないハイブリッド車を完成させたのだ。
魔石カートリッジを装填すれば、ガソリン満タンの状態で、約千五百キロの走行が可能になる。カートリッジ自体も、運転者が簡単に装着できる仕組みだった。EV車についても、千キロの走行が見込まれている。いずれの車種も、予備のカートリッジを積めば、さらに走行距離を伸ばせるという。
もっとも、政府からの正式な発表はまだない。表向きの名目は、「安全確認が、確定していない」というものだった。販売許可も、いまだ下りていない。




