第122話 秘密です
深町先生は、ひとしきり涙を拭ってから、ソファに座り直した。
「魔法の記述もありました。魔道具があるなら、魔法もあるんですか?」
「はい、あります。ただ、個人差があって、まったく使えない人もいます。なので、魔力の無い人のために、魔道具があるんです」
「魔法、あるんだ。使えるの? よくSNSである魔法系って、すごいよね」
「SNSのことは聞いていますが、見たことはありません。あまり得意ではないですが、外でやりますか」
「ぜひ!」
「では、灯を」
「えー、光が浮いてる」
「水を」
「水の球が、浮いてるー!」
「火を」
「火の球ー!」
「僕のは、生活魔法程度なので、攻撃用ではありません」
「それでも、すごいよ。感動した」
「先生、お土産がもう一つあります。疲れた時に飲んでください。下級回復薬です」
「上級じゃないんだ」
「それは、ほとんど生産されていません」
「あのさ、拓也くん。異世界と繋がってるの? そう考えないと、おかしいよ。行き来できる人なの?」
「それは、秘密です」
―――
「え、ここまで見せておいて、秘密なの? それ、ないでしょ!」
「秘密にできますか?」
「できるよ。異世界小説でよくあるやつ、奴隷紋で縛るとか! 契約魔法——羊皮紙や魔道具に、血でサインしたり、魔力を流したりして成立するってやつ。契約を破ると、心臓を握り潰されるような激痛が走ったり、最悪の場合は、呪いで即死したり。イヤーヤメテーの世界だよね」
「詳しいですね。奴隷契約は、実際にありますよ。契約を破ると、体に障害が残ると聞いています。よく使われるのは、誓約・呪縛(ギアス/バインド)です。対象者の魂や精神に、直接刻み込むタイプの魔法で……特定の言葉を口にしようとすると、口が動かなくなるといった、物理的・精神的なロックをかけるものです」
「やっぱり、あるのね」
深町先生は、そう言って、少し体を引いた。
「ご希望なら、専用のものを用意して、体験してみますか?」
「興味はあるけど……怖いよー」
「分かりました。口約束になりますが、大丈夫ですか」
「口は、軽い方だと自負してるんだけど……話す相手がいないのよね」
拓也は、少し沈黙してから、これまでの経緯を、かいつまんで話した。
「私も、拓也くんのところに住みたい。それで、珍しいもの見たいし、体験もしたい!」
深町先生は、前のめりになって、ぐいぐいと圧をかけてくる。
「先生、ダメです。前も、それで痛い目に遭ったでしょ」
社員のお姉さんが、そう咎めると、深町先生も、ようやく落ち着きを取り戻した。結局、小説のネタに詰まった時に、改めて訪問する、ということで話はまとまった。
帰り道、大野が、ぽつりと呟いた。
「子供みたいな方ですけど、才能は豊かですから」
「はあ……例えは悪いですけど、従弟の小学生みたいでした」
「ははは、素直でひねくれてないのは、良いことだと思いますよ」
「そうですね」
その日は、深町先生宅での出来事を神崎に報告し、そのまま終わりとなった。
―――
深町先生宅での一件をよそに、異世界のパーティーの間では、以前から気になっていたことが話題に上っていた。
シルヴィアは、いつも身軽な格好で、荷物らしい荷物を持たない。そこには、ちょっとした秘密があった。
パーティーの面々は、それを承知している。だが、当然、外に漏らすつもりはない秘密でもあった。その代わり——皆、その恩恵に、しっかりと便乗していた。
この国のダンジョンでも、過去に二度ほどしかレアドロップしたことのない、マジックバッグ。外に売られることはなく、仮に売りに出されたとしても、国が買い取るような代物だった。シルヴィアは、それを持って、召喚されてきていた。
「シルヴィア、それ、作れたら金持ちになれるね」
隼人が、そう尋ねる。
「材料があれば、作れるよ。私の部族の伝統工芸品で、普通に売られていたし」
「え、じゃあ、なんでクロエ、ケイン、ガルムは、持ってないんだ?」
「あー、あれは汎用品の安いやつでね。召喚された時に、破けちゃって、修理不能だったのよ」
「そうなんだ。材料があれば、作れるのか?」
「あるかもしれないから、材料、探してみようか」
ということで、冒険者ギルドで、魔物から取れる魔結晶と、次元トカゲ(ディメンション・リザード)の皮、魔物の糸を探すことになった。
ところが、次元トカゲが見つからない。ギルドに尋ねると、東の山脈のふもとに生息はしているものの、素早いうえに肉が不味く、人気のない魔物だという。捕獲に手間がかかるうえ、無理に捕まえようとすると、皮が破れてしまい、使い物にならなくなるらしい。
「いるみたいだね」
シルヴィアが、そう言う。
「マジックバッグ、欲しい!」
クロエが、そう声を上げると、ケインとガルムも、揃って頷いた。
「じゃあ、皆で向かいますか」
結城が、そう提案する。
緒方に事情を説明し、翌日に出発することを伝えた。緒方が侯爵に連絡を入れると、侯爵は大慌てで、マジックバッグについて説明を求めてきた。この国では国宝級の代物が、シルヴィアの故郷では、ごく普通に流通していたとは、思いもよらなかったらしい。
続けて結城に連絡を取り、侯爵が大きな期待を寄せていることを伝えると——
「作ってみないと分からないので、あまり期待しすぎないでください」
結城は、あっさりと、そう斬り捨てた。




