第123話 抜け道
深町先生の好奇心には、歯止めが効かなかった。三日後に、また訪ねる——そう連絡が入ったのは、あの日から、いくらも経たないうちのことだった。
一方、神崎は、奴隷契約と誓約呪縛について、鷲尾に報告を上げていた。
「奴隷って、まだ、その制度が存在してるのか?」
「はい。存在しています。緒方氏も、奴隷を購入して、運用しています」
「なんと……嘆かわしいことだな。して、具体的な内容は?」
「ご説明します……」
「システムとしては、合理的ではあるな。しかし、子供まで使役するというのは、どうもなあ」
「はい。一定期間、保護できるパトロン的な考え方かと思われます。日本のような社会保障の形態が取れない国では、地球でも、同様の売買が一部で報告されています」
「まったく、嘆かわしい。ただ——契約に関しては、興味深いな。それが法的に可能であれば、守秘義務関連には、最も有効なものになる。ただし、内部告発は、できなくなるな」
「それに関しては、契約時に、抜け道がある様です」
「ああ、奴隷契約にあったな、そういう項目が。上手く出来たものだ。……これを使えば、刑が確定した受刑者が、同じ罪で再犯できなくなる。刑務所も、必要なくなるかもしれんな」
鷲尾は、その後、法務大臣と法務省の官僚を、呼び出した。
―――
車で、一行は、東の山脈を目指した。
目的地は、山脈手前の地方都市——アルダ。平地は、綿の生産地であり、布の産地でもある土地だった。山の近くには、多くの魔物が生息しており、冒険者ギルドでの討伐依頼も、尽きることがない。まずは、結城たちが情報を集めてから、目当てのトカゲ狩りに乗り出す予定だった。
冒険者ギルドで聞き取りを行うと、必要な材料は、この土地ですべて揃うことが判明した。魔結晶を体内に持つ、魔喰い蜥蜴の存在、そして、魔喰蚕の魔力の糸——それぞれの生息地が、手書きの地図に書き込まれ、一行は、早速、移動を開始した。
ギルドからは、魔喰蚕については、たくさん買い取るのでぜひ、と頼まれていた。
「魔法攻撃は、効きません。細い針か短剣で、眉間——脳を、ピンポイントで刺し貫くしかない。じゃないと、糸が取れませんから。反撃の『魔力吸収糸』にも、注意してください。反撃される前に、仕留めてください」
職員は、そう、魔喰蚕について説明してくれた。
続けて、魔喰い蜥蜴についても、説明が入る。
「魔法攻撃は、絶対厳禁です。吸収して、狂暴化しますので。魔力を持つ者を、優先して狙ってきます。胸——魔結晶の部分への攻撃も、NGです」
続けて、職員は、素材の使い道についても、説明を加えた。
「皮——鱗の部分ですね。これは、外部からの魔法の干渉を防ぐ効果があります。血、つまり体液は、魔法陣を描くための特殊インクの材料に。牙・爪・骨は、魔法使いのシールド(結界)を、紙のように引き裂く短剣の材料になります。それと、肉は、魔力を豊富に含んだ赤身で、高級食材として扱われています」
その説明を聞いて、結城が、思わず声を上げた。
「魔喰い蜥蜴を一匹狩るだけで、鞄の生地(皮)、インク(血)、コア(魔結晶)——最高級の材料が、ワンセットで全部揃うじゃん!」
その一言に、一行の間には、俄然、やる気が漲った。
その話を聞いた結城、皆川、シルヴィアは、これは自分たちの出番ではなさそうだと、揃って察した。
今回は、東條の出番か——そう思われたところで、当の本人は、芋虫の姿を想像したのか、気分が悪そうに、顔を歪めていた。
―――
目的地への道すがら、数匹の魔喰い蜥蜴が、群れをなして現れた。
言われた通り、誰も魔法を使おうとはしない。隼人を先頭に、抜き身の剣とナイフだけで、じりじりと間合いを詰めていく。
狙うのは、あくまで首か、四肢の付け根——胸の魔結晶だけは、傷つけないように、慎重に立ち回る。
俊敏な動きに手こずりながらも、一行は、数匹の魔喰い蜥蜴を、次々と仕留めていった。
最後の一匹を倒し終えた頃には、全員が、軽く息を切らしていた。




